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 美味しい蟹料理をたらふく頂いた私は、翌朝になって後悔する事になる。まあ、後悔と言っても少し食べ過ぎたせいで気持ち悪いだけだが。風呂に入ってスッキリしよう。


 この旅館は大浴場。露天風呂と室内風呂があり、男女時間を入れ替えて交互に入れるようになっているらしい。今の時間帯、女は露天風呂だ。ひゃっほい! 気持ちよさそう!


 女! と示されている暖簾をくぐり、脱衣場へと。朝早く、既に誰か入っているようで脱衣場の籠には誰かの着替えが。紺色のスーツ。ブラも置いてあるから女性には違いないだろうが、脱衣場にスーツ持ってくるなんて。しわしわになってしまうぞ。


 やや首を傾げつつ、私もいざ露天風呂へ。北海道の朝はまだ寒いが、今の私には温泉がある。もはや無敵状態。今も昔もおなじみ、日本人なら誰でも知ってるアクションゲームで星を取った状態。


「うへぇー」


 軽くかけ湯しつつ、早速浴槽へと。あぁー、沁みる……溶けるっ、溶けちまう……! 

 温泉は勿論のこと、景色も素晴らしい。水平線が見える露店風呂なんて、シャレオツすぎて鼻血出そう。このままずっと入っていたい気分だ。


「……クンクン……オヤ、貴方はモシヤ……金さんの奥さんデスカ?」


「……ん?」


 湯気の向こうから、恐らく先程のスーツの所有者であろう女性が話しかけてくる。そして金さんの名前を知っている。なんだ、というかこの英語の訛りが凄い日本語……もしかして……


「え、えっと……もしかして金さんが昨日電話かけてた……」


「ハイ、クリスランデルンシェルス・モラクサンと言いマス、長いのでクリスでイイデス」


 ゆっくり、ラスボスかのように湯気の中から出てくる一人の海外の女性。恐ろしくモデル体型。背は一八〇近くありそうで、胸は大きすぎず小さすぎず、手足はスラっと。完璧だ、女の私でも思わず食い入るように見つめてしまう。いや、女だからこそ見つめる事が出来るんだろう。男だったら二秒で鼻血出して倒れてるに違いない。そのくらい綺麗な北欧風の女性。


「え、っていうか何でここに……あれ? 昨日の夜の電話ではまだ……」


「フフ、何やら面白そうだったのデ。大急ぎでキマシタ」


 いや、どんだけ急いだ所で……来れるもんなのか? 北海道と岐阜ってそんなに距離近かった……?


 クリスさんは私の隣へと、お尻がくっつきそうなくらい近くへと座る。そのまままるで私を子供のようにお姫様抱っこ。ってー! え? なに?!


「フゥム。どっからどう見ても可愛らしい……まだ若いデス。金さんの奥さんにはかなり勿体ナイ……」


「わ、私は金さんの奥さんじゃないので……それと放してください……」


「イヤデス。もう少しだけ……日本人の女性、柔らかくて抱き心地最高デス」


 いや、それは体脂肪多めってことか?!

 ぐぅ……日本人の女性全てに対する差別発言だ! うったえてやる!


「あぁぁぁ、あの! 貴方は探偵だって金さんが……」


 なんか突然のシチュエーションに頭が回らず、とりあえず会話しなければ! と出てきた言葉がそれ。

 まだ自分の自己紹介もしてないのに、相手に名乗らせるだけ名乗らせて詮索しまくる私。


「エエ、その通りデス。犬探しから幽霊退治まで、依頼されれば何でも熟しマス。金さんとは……フフ、持ちつ持たれつの関係と行っておきまショウ」


「は、はぁ……ところで私はいつまでお姫様抱っこされたまま……」


「この露天風呂の床、岩がゴツゴツしててお尻痛いデス。敏感肌なお嬢サマを守るのが私の使命デス」


 な、なんて紳士的な……! いや、ただの変な人かもしれない。


「トコロデ、お嬢サマのお名前はなんと言うのでショウ」


「ぁ、えっと……前坂と申します……前坂里美……」


「サトミサン、ですネ。フフ、見た目も名前も可愛らしいデス。この場で味見したいくらいデス」


 味見ってなんの?! やばい、怖い、怖すぎる! この人は金さんに負けず劣らずの変な人だ!

 といいつつ、なんか滅茶苦茶気持ちい。あかん……眠気が……




 ※




 次に目を覚ました時、なにやらいい匂いが。

 私は布団の上で寝かされていて、耳にクリスさんと金さんの会話が聞こえてくる。


「来るなら来るで連絡しろ、びっくりしたわ」


「それが目的でしたノデ。それにしても朝から豪華デスネ、蟹ですヨ、蟹」


「それ里美ちゃんの分の朝飯だからな。手だしたら怒られるぞ」


「金さん、蟹下さい、蟹」


「あ、ちょ、お前! 俺の飯とんな!」


 むくっと起き上がり、声がする方を見る。すると蟹の足を咥えたクリスさんから、それを取り戻そうとしている金さんが。


「ん……あれ、私……」


「ぁ、おはようゴザイマス。露店風呂で眠ってしまわれたノデ。安心して下サイ。隅々まで体は洗わせてイタダキマシタ」


 ってー! なにしてん! 起こせばいいでしょ! 何故に人の体勝手に洗って……!

 

 いや、っていうか露天風呂で寝ちゃう私が悪いんだ。でも気持ちよかった……朝一で感じた気持ち悪さはとっくにどこかへと行ってしまっている。


 クリスさんは既にタイトスカートのスーツスタイルへと。それに対し金さんは浴衣を中途半端に着崩し、見るからにダラしない。どうやら二人で仲良く朝ご飯を食べているようだ。


「あの、クリスさん……私の朝食良かったらどうぞ……私、朝弱いんであんまり朝食食べないんです」


「オヤ、それはイケマセン。朝食は一日の基本デスヨ」


 いいながらバクバク食べ始めるクリスさん。しかし私にも少しは食え、と……焼きガニの足をあーんしてくる。

 あーんを受け入れ、焼きガニを頂く私。なにこれうめえ! なんだか一気に体に……私の体に籠る未知なる力を感じる……! これが覚醒……?!


「ところで金サン。本日の予定は?」


「決まってねえ。というか、わっけわかんねえだわ。例の自殺したと思われる学生が……なんでこの小説持ってたのかとか……」


 金さんの片手には例の小説が。私はクリスさんかアーンされつつ朝食を頂きながら、金さんから小説を奪いパラパラと読んでみる。


「あむ……ん……これ、意外とページ数少なめ……あむ……ですね。あむ……」


「里美ちゃん、お姫様みたいだねぇ、本読みながら口にご飯運んでもらって……」


 いや、これはクリスさんが!

 でも美味しい。


 ふむふむ、確かに昨夜クリスさんが言ってた通り……なんか怪物図鑑って感じだ。どんな怪物が出てきたーから、その怪物の見た目から特性を予測……それで動物なり家族の誰かなりが被害にあい、餌食にされていくのが描かれている。しかし描写はそこまでエグくない……というか雑だ。誰々が溶かされただの、寄生されただの……。


「うーん……確かに女学生が好んで持ち歩くような小説には見えませんね……まあ、その時その時で何が流行るかなんて分かりませんけど……」


「ソウ、そこなのですヨ。日本人、流行り物には弱いデス。なので軽く調べてみまシタ。その小説は確かに一部には熱狂的なファンがいるヨウデス。とあるサイトではイラスト付きで怪物の解説してましたヨ。マア、その開設者は先日亡くなっていますガ」


 ……それってもしかして……


「そうデス、先日岐阜県警の署長に撲殺された男デス。彼は非常に熱心にこの小説を研究していた様デスネ。本来の設定とは別に、自分独自の怪物設定も盛り込まれていまシタ」


 言いながら鞄から資料を取り出すクリスさん。例のサイトをプリントアウトした物らしい。その中には桜の怪物の記述が。私と金さんは一緒にその資料を眺める。


「……死体を溶解、それを吸収した土を栄養源に、寄生した種が急速に成長……。この設定は小説の中のか? それともこの男のオリジナルか?」


「オリジナルデス。小説には寄生された人間が錯乱しながら崖から落ちるシーンしかアリマセン」


 クリスさんはご飯をかきこみつつ、味噌汁をズズズ、と美味しそうに。

 

「ごちそうさまデシタ。ところで金サン、クトゥルフ神話ってご存じですヨネ」


「聞いた事はある。有名だからな」


「サトミサンは?」


 え、私? え、えーっと……


「神話……ですよね、なんか凄い昔の壮大な……」


「イエイエ、クトゥルフ神話事態ハ、二十世紀にアメリカで創作された架空の神話デス。ミステリー系の大衆雑誌に乗せられたのが最初デスネ」


 えっ! そうなの?! クトゥルフ神話ってエジプトとかのアレかと思ってた。


「複数の作者によって作り上げられたホラー小説って感じデスネ。宇宙的な恐怖を描く物もアレバ、本来地球を支配していたかつての生物が暴れまわるっていうのもアリマス。おそらく「たからじまのぼうけん」で描きたかったのもそれデショウ。つまりクトゥルフ神話のファンが書いた二次創作って感じですネ」


 なるほど……


「ただ……その小説の中に不可解な描写がアルノデス。主人公とその妹が謎の球体の怪物に追い掛け回されている時、天使のようなシルエットが一瞬目の前に現れたかと思うと、球体の怪物は一目散に逃げだしタっていうのガ。それまでは家族の誰かが餌食にあって、その様を主人公が分析しつつ怪物紹介してるンデスガ、そこだけ球体の怪物がなんなのか描かれていないノデス」


「ただのフラグじゃないのか? その天使が後々、主人公を助けるんだろ?」


「イエ、その天使はそれっきりデス。結局、何だったのか全く描かれてナイデス。ちなみに妹はその後、巨大アリの大群に連れされれて巣の中から叫び声が響いた……で終わってマスネ」


 えぇ……マジで天使なんだったん?


「ちなみにそのお話の最終目的は富豪の隠した財産を見つける事デス。しかしオチとしては、怪物それ自体が財産デアリ、富豪達は秘密裡に生物実験をその島で行っていた……って感じのB級ホラー的なエンディングですネ」


 んー……なんか……友情こそ最高の宝! って方がまだマシな気がするオチだな……。


「で、クリス先生的にはどうなんだ。その天使の正体の考察は?」


「そのあたりで作者に何らかの心変わりがアッタカ……締め切り近いから急いでたトカ……天使それ自体にはあまり意味は無いと思いますヨ。ソレヨリ、先程話したサイト、あの開設者は何故か桜の怪物にご執心だったみたいデ、序盤のほんの少ししか描かれてないのに一番熱弁してるンデス。他にも魅力的な怪物は居ると思うんデスガ」


「オリジナルの設定まで作り込んであるくらいだからな。桜が好きだったのか……?」


「なんとも言えませんガ……クトゥルフ神話のように、何か別ノ怪物図鑑があって、その男はむしろソッチをリスペクトしてるトカ……」


 別の……怪物図鑑……?


 ぁ、そういえば……


「あの、クリスさん……この旅館に古い民謡が記された……動物の皮で出来たっぽい本があったんですけど……」








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