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間室君の家から少し離れた場所に、一件の旅館が。ゴールデンウィーク明けなだけあって、部屋はガラガラらしい。まあ、そりゃそうだよな。
「部屋二つで。えーっと……ご飯は俺の部屋に二人分持ってきてください」
手続きを進める金さん。
私はフラフラと旅館のロビーを探索。何やら民芸品のような物があちこちに飾られていた。一際目立つのが……なんだろう、コレ。獣の皮で出来た……本?
「それが気になりますか? お客様」
すると着物姿のお姉さまが私へと話しかけてきた。私は別に興味などあまりなかったが、とりあえずコクコクと頷いておく。
「それは古い民謡を書き記したとされている本です。と言っても私達では読むことすら出来ませんが……。偉い学者先生が解読しようとしたらしいですけど、破れてるページも多く……完全には」
「民謡……ですか?」
「ええ。その学者先生の話によると、伝説上の生き物の存在を書き記した文が多いとか」
伝説の生き物……。なんだろう、ドラゴン的な?
「ごめんなさい、急に話しかけてしまって……。前にお客様と同じようにその本を熱心に見つめてる女の子が居たから、若い子は興味があるのかと……」
「あぁ、いえ」
「本日はどちらから?」
「岐阜からです」
私がそういうと、そのお姉さんは途端に顔を真っ青に。
ん? なんだ? 明かに様子が……。
「ご、ごめんなさいね、ではごゆっくり……」
なんだ……?
明かに岐阜から来たって言った瞬間に……。
「おまたせー、里美ちゃん。部屋取れたよ。どったの?」
「いえ、別に……」
※
とりあえず金さんと一緒の部屋へと入り、今後の方針について話し合う。
ともかく矢代 恵美の足跡を辿るべきだが……手がかりが無い。高坂さんからの連絡を待って、まずは小説家の線から攻めていくべきか。
「中々いい旅館だね。料理も楽しみだなぁ」
「金さん、ちょっと整理しましょうよ。一から今までの事を」
「ん? まあ、いいけど」
私は旅館のメモを何枚か千切り、それぞれに人物の名前を書いていく。
矢代さん、その娘の恵美さん、そして矢代さんが殺した男、恵美さんと北海道にいた男、そして小説家。
「今の所……出そろってるのはこの辺りですかね」
「だねぇ。まず……矢代さんが里美ちゃん達と飲んだ夜……男を呼び出し撲殺。そのまま桜に車をぶつけ折った」
「ところが矢代さんから真実を知りたいと言われて北海道に来たわけですが……そこで矢代さんの娘さん……十年前に事故死した彼女が北海道に謎の人物と来ていた。この人物は矢代さんが殺した男だというのが今の所、私達の中では濃厚ですね。まあ、何も証拠は無いんですけど」
「その男……矢代署長には恵美さんと面識があると話していた。しかし彼女を轢いた時、最初は彼女だと気付いていなかった。そのまま彼は轢き逃げし、後に逮捕。だけど恵美さんから車に飛び込んだという証言が出てきて……」
「……あの桜、その時すでに誰かが立ててたんですかね。でも地元住民は献花のつもりだとかで役所の撤去を拒否したとか……」
「まあ、前から生えてる桜を献花って呼ぶには違和感はあるけど……この桜を立てた人物も今回の事に絡んでいる可能性が高い。そうなると登場人物が増えるなぁ」
「……金さん、例えばですけど……矢代さんの娘さんが……仮に自殺だとして、そして更にそれが北海道から戻った直後だったとして、狙ったと思います?」
「……何を?」
「轢かれる車を選んだかってことですよ。彼女の方が男の車に狙って飛び込んだって線は……」
金さんは腕を組みつつ、灰皿を机の隅から中央へと寄せると、流れるような動きで煙草に火を。
「まあ、あるかもね。彼女とその男の間に何があったのかは知らないけど……」
「何があったら……そんな事になると思います? これは勝手な想像ですけど、恋愛絡みだとしたら……」
金さんは煙草を吸いながら、空いてる方の手でトントン机をつつきながら考えに耽る。
駄目だ、材料がまるで足らない。彼女達に一体何が……
と、その時私のスマホが着信を知らせてくる。相手は……げ、高坂さん。
「金さん……高坂さん」
「また俺? う、うん……」
渋々スマホを受け取り、電話に応対する金さん。
私にも聞こえるようにスピーカーにして机の上に。
『俺だ。例の小説家、本名は城木 仁衛。絶版になった小説を書き終えた後、行方不明になってる。そのまま死亡扱いされてるな』
「……行方不明……?」
『出版社に当時の担当者がまだ居座っててな。その人によると、原稿を受け取った後、いつのまにか居なくなってたらしい。んで、その原稿……無人島に家族で行くって話らしいな。その小説家の家族も消息を絶ってる』
「なんだと……?」
『出版社の方が捜索願を道警に提出。もしかしたら無人島にいるかもしれないとか申し出たらしいが、結局見つからず仕舞い。それでまあ……これは偶然かもしれんが……』
「なんだ」
『その小説家、婿養子だったみたいでな。旧姓は……矢代らしい』
……ん? まあ、そこまで珍しい名前じゃないが……。
いや、でも……偶然……?
「他に何か分かった事はあるか?」
『いや、特には。蟹ちゃんと買って来いよ』
金さんはお礼をいいつつ電話を切る。というかなんか一気に情報来たな。
私は小説家、門倉 一の名前を書いたメモにカッコして城木 仁衛と書き込んだ。
……ん? この名前、どっかで……
「金さん、この名前……最近どっかで見た事あるんですけど……」
「ん? あぁ、北海道の観光客向けの看板とかじゃない? なんかそんな漢字結構書いてそうじゃない」
ああ、まあ、そんな感じかもしれない。
なんか記憶が曖昧すぎてよく分からんが気のせいだろう。
「で、この門倉改め、城木は家族ごと行方不明と……」
「夜逃げでもしたのかねぇ……」
いやいや、せっかく小説の原稿書き終えて、いざ出版! ってなりそうな時に夜逃げなんて……。
まあ、昔の小説家ってなんか小説書いた後に自殺する人多いけども……。娘と一緒にガソリン被ったなんて人も居たな。
「はぁ……この矢代さんと同じ旧姓っていうのは……まあ偶然……ですよね? って、うお!」
再び鳴り響く私のスマホ。画面には知らない番号。え、誰?
「……もしもし?」
『オヤ、金さんの新しい奥さんデスカ。ご無沙汰シテおりマス、金さんの愛人枠の一人デス』
激しくジト目で金さんを睨んでみる。
すると金さんはそれだけで私の電話の相手が分かったのか、私にスマホを寄こせとジェスチャーしてきた。私は渋々スマホを手渡す。
「俺だ。お前、里美ちゃんに何吹き込んだ」
『イエイエ、何も。それで調査の結果が出ましたのでご報告をと思いましテ』
金さんは再びスピーカーモードに。
『エート……ではご報告させてイタダイキマス。十年前からあの公園の前で自殺した女生徒は十五人。大体、半年か一年かの間隔を開けて自殺していマス。集団自殺といったわけでは無さそうデスガ……妙な共通点がミツカリマシタ』
私と金さんは顔を見合わせ、引き続き探偵の調査報告へと耳を向ける。
『マズ、彼女達の所持品の中に同じ小説がありまシタ。『たからじまのぼうけん』という小説デス』
思わずギョっとする私と金さん。
彼女達が全員、あのマイナー小説を所持していた? そんな事あるか? いや、っていうかそれどうやって調べた。まさか警察の資料を漁って……いやいや、そんなわけ……
『気になったので古本屋で購入してみましタ。結構高かったデス。あとで請求シマス。ンデ、何故に彼女達が全員この小説を持っていたかデスガ、とても女子学生が好む内容とは思えない感じデス』
「……クリス、実はな……」
金さんはその小説の事は既に知っていて、こちらの捜査線上に作者を名乗る謎の人物が居ると説明した。
「というわけだ。その本に桜に関する描写がある筈だが、そのあたり……どうだ、読んでみて感想聞かせてくれ」
『一応一通り読みましたガ……サクラ……あぁ、人に寄生するっていうアレデスカ。出てきたのはほんのチョットデスネ。と言うか、滅茶苦茶色々な怪物が出てくるので、ややまとまりに欠けるという印象デス。小説というより、僕の考えた怪物図鑑って感じデス』
良くそれで出版までこぎつけたな……。
『それで桜の怪物についてデスガ……ンー……死体は漏れなく桜の栄養になるのデ、死体の隠蔽にはモッテコイの怪物カト……』
なんだその感想……まあ、桜が処理してくれるなら楽だわなぁ。山に穴掘るより余程。でも目印みたいに桜が咲いちゃうんだから、バレたらそれまで……
ん……?
「クリス、どう思う」
『どうって何ガ……アァ、例の桜の真下に死体があるかもーって話デス? それは流石にナイデショウ。あんな民家のど真ん中に死体を埋めタラ、誰かしら異臭がするって騒ぎますヨ』
「良く桜の下には死体が埋まってるって言うじゃないか。桜が効率良く死体処理したりしないのか?」
『ウ、ウーン、それは調べた事ないのでナントモ……。でも桜はバラ科の植物デスシ……蔵〇が魔界から呼び寄せた植物なら可能デスガ、現実では植物が直接死体を食ったりシマセンノデ……ハエとかならマダシモ。どちらにセヨ、肉がついてる死体なら腐って土に吸収サレマスカラ、かならず異臭がするハズ……』
……異臭か。
確かに私は高校の時にあそこを通学路にしていたが、そんな異臭なんて嗅いだ事なんて……
ましてや、何人もの青春を謳歌する少女達があの桜の木の下で告白しまくっているんだ。その真下に死体が埋まってるなんて考えたくも無いが……。
「失礼しますぅ、お料理お待ちしましたぁー」
むむ! なんかすげえいい匂いがすると思ったら!
わーい! 蟹だ! 蟹が居る!




