139.親子?!
ここから最終エピソードとなります!
沸き上がる大歓声の中、教皇や枢機卿を適当にあしらったところで、私の側にウルフェたちが駆け寄ってきます。
「さすがお嬢様! まさか祈りと聖歌で皆を虜にするとは!」
祈りと聖歌? はて、なんのことでしょうか。
「……恐ろしいリュ。あたちはこの観衆たちが恐ろしいリュ」
「まるで狂信者の群れでございますね」
まぁ、人聞き悪いですわね。彼らは私たちフランドゥムの熱烈なファンなのですよ。
「とはいえちと度が過ぎるのぅ。落ち着くまではこの魔法道具『握手会客暴走防止装置』で障壁でも張るかな」
師匠が次元腕輪から箱のようなものを取り出して開けると、私たちの周りに薄い膜のようなものが張られます。どうやら観衆たちはこの障壁の中には入ってこれないようです。
さすが師匠、いろいろなものを持ってますね。
ただそのせいでアナスタシアたちが詰まった観衆たちに巻き込まれて近寄れなくなっているではありませんか。
ああ、アレクが目を血走らせながら剣を抜いてますよ。あいつあんなに危ないやつでしたかね?
──ヴヴヴゥゥンンッッ!
ですが、師匠の作った障壁をものともせず中に入って来るものたちがいます。
満面の笑みを浮かべながら駆け寄ってくる少女は──。
「ユリィシア様、素晴らしかったですわ!」
「あなたは……」
「こうしてちゃんとお会いするのは初めてですね。私はマリスと言います」
「ええ、もちろん存じ上げていますわ」
「まぁ、ユリィシア様に知っていただけていただなんて、すごく光栄です!」
目をキラキラさせながら前に立つマリス。
確かに過去映像で見たクオリアによく似ているんですが、彼女とは違い柔らかな雰囲気で、なんだか可愛らしいですね。
「ユリィシア様の歌になんだか圧倒されてしまいました。本当に素敵な舞台だったんですもの」
「お褒めいただき恐縮ですわ。あれはライブといいますのよ」
「へぇー、そうなんですね。わたしもユリィシア様といっしょに聖歌を歌いたいわ!」
ほほぅ、あなたもアイドルに興味がありますか。
ですが真のアイドル道はなかなか過酷なものでしてよ。あなたに耐えられるかしら?
「でも……こうしてわたしたちが顔を合わせるのは、これが最初で最後かもしれませんね」
「え、そうなんですの?」
「あら、ユリィシア様はご存じないのですか? だってわたしとあなたは──『対存在』なのですから」
対存在。
なんだか聞いたことがない言葉が出てきましたね。
その意味がなんなのかを尋ねる前に、パチパチパチ……拍手の音が聞こえてきました。
手を叩いていたのはファラロン。その横にはギュスターヴがついています。いずれも師匠に匹敵する超高位のアンデッドです。
「見事だったな。まさかこのような手があるとは思わなかったぞ」
「ギャース」
ですがそう口にしながらも、ファラロンが見ているのは私ではありません。
私の横に立つ人物。そう──師匠です。
「ファラロン、貴様……」
憎しみのような視線をファラロンに向ける師匠。ですが構わず歩み寄ってくるファラロン。
二人は至近距離でにらみ合います。
「久しいな、プロフよ。まさかそんな可愛らしい姿になっているとはな。思わずナデナデしたくなるぞ」
「……黙れファラロン」
「プロフよ、これがお前が転生してまでやりたかったことか?」
「それはこっちのセリフじゃ! ファラロン、貴様──この娘に何をした! この外道がっ!」
なにやら師匠が怒ってますね。
マリスの方を指差しながらファラロンに向かって怒鳴り散らしています。あらあら、胸ぐらまで掴んでしまいましたよ。オロオロするマリスが可愛らしいですね。
しかしファラロンがマリスに何をしたというのでしょうか? まさか……この可愛い子に手をかけてしまったとか!? だったら私も許しませんけどね。
「ご、誤解よ! わたしとファラロンの間にはなにもないわ! って、あなたもしかして……」
ですが当のマリスは慌てて否定したあと、二人の顔を見て──我が意を得たりと顔をにやけさせます。
「わかったわ!」
「あ?」「ん?」
「あなたたち……親子なのですね!?」
「は?」「ひ?」「ふ?」「へ?」「ギャース」
マリスの素っ頓狂な勘違いに、私、ファラロン、師匠、ネビュラちゃん、ギュスターヴが思わず声を出してしまいます。
いやいや、さすがにそれは無いんじゃないでしょうか。とはいえアミティとウルフェは「そうだったリュか……」「なるほど」などと勝手に信じていますが。
「そう気づいてみたら顔立ちとか目元とか似てますもんね! まーファラロンってば、こんなに可愛らしいお嬢様がいらしたのね」
「いや、姫様これは……」
「あなた、お嬢さん。お名前はなんて言うの?」
「……ウルティマじゃ」
「まあ可愛いお名前! でもね、ヤキモチ妬かなくても大丈夫ですよー。わたしはあなたのパパのただのお友達ですからねー。取ったりしませんよー」
「……」
完全にマリスのペースに巻き込まれて絶句してしまう師匠とファラロン。
「せっかく久しぶりの親娘再会なんでしょう? 仲良くしてくださいね!」
もしかして……マリスはかなりの天然なんですかね?
【終わりの四人】のうち三体を戸惑わせるなんて、なかなかやると思いますわ。
「……おいファラロン、なんじゃこの天然ボケは。おぬし、どんな育て方したんじゃ?」
「いや違う! 断じて私は関係ない! これは生まれつきだ!」
「まあファラロンってばひどいわ。わたしが何だっていうの?」
「お願いです姫様、これ以上複雑にしないでください」
「ギャース」
ギュスターヴが間に入りなんとか落ち着きを取り戻す師匠とファラロン。
……私たちはいつまでこの茶番を見ていればいいんですかね?
「はぁ、はぁ……とりあえずファラロンよ、これ以上無駄話をしていても仕方ない。ここは一時休戦といこうではないか」
「休戦とは?」
「マリスに合わせるぞ」
「はぁ? おいプロフ、それってつまり……」
「うむ、親子の振りをするんじゃ」
「げ、マジかっ!?」
「彼女を無用に傷つけるつもりもないからな。ついでじゃからギュスターヴ、おぬしも付き合え。おぬしはわしが小さい頃から側仕えしていた騎士ってことにしようかのう」
「ギャース!?」
この瞬間、奇妙な利害関係で結ばれた奇妙なチーム……全員アンデッドの架空親娘が完成したのでした。
「では気を取り直して……オホン。それではマリス、わしはファラロン──父上と話させてもらえないかの?」
「ええ、もちろんよ!」
気を遣ったマリスがちょっとだけ師匠たちから距離を取ります。
ほっと胸をなでおろす二人。……それでいいんですかね。
「話を戻すが……父上、貴様はマリスとどうしていっしょにいる?」
「それは──お前には関係のないことだ」
「ああ、もともとはどうでもいいと思っておった。お前がクオリアに似た女の子を連れていようが関係ないとな。じゃが──知りたくもない真実を知ってしまえばそうもいかん」
師匠はぐいっとファラロンに詰め寄ります。
「貴様──どうやって作った?」
「……なんのことだ?」
「偶然クオリアに似ているだけだと、まだ言い張るつもりか? わしは知っておる、彼女は──クオリアの遺伝子複製体だろうがっ!」
おや、ここでまた例の意味不明な単語が出てきましたね。
マリスを鑑定した時にも表示されていましたが、遺伝子複製体とはどういう意味なのでしょうか。
「貴様、人の生命を弄んでなんとする!? 1000年前の出来事で懲りたんじゃないのか!?」
「死霊術師のお前に言われたくはないな。私は──私の信じる道を進むのみ!」
「もうやめてください!」
口を挟んだのはマリス。
どうやら二人のやり取りに黙ってはいられなかったみたいです。
まぁそうですよね、自分のことをネタにして勝手に盛り上がられたら落ち着かないですもの。
「わたしのせいで親子喧嘩しないでください! せっかく再会できたんだから仲良くできないの!?」
「あ、ああ……」
「じゃが……」
「それにウルティマがわたしの出生のことを気にしているのなら、大丈夫ですよ。わたしは全てを知っています。知っていて、ここにいるのです」
「なっ!?」
マリスの出生の秘密?
なんでしょうか、それは。
「ファラロンから聞いています。わたしは──〝過去の人のコピー″なのでしょう?」
過去の人のコピー、とはどういう意味でしょうか。
もしや魂を転生させた……わけではないですよね。師匠はクオリアは生きていると言っていましたし。
「なんと……おぬし、知っておったのか?」
「ええ、私はファラロンの『初恋の人』に似ているのですよね。それも彼から聞いて知っていますよ」
「なんと?!」
「だからってヤキモチを妬かなくていいですからね、わたしとパパは何もありませんからね!」
師匠が驚いて目を剥いたままファラロンに視線を向けます。
気まずそうに視線を逸らすファラロン。どうやら、師匠たちの間になにやら認識の齟齬があったみたいですね。
「知っています、わたしは遺伝子という生命の設計図を基に作られた人工生命体なんでしょう? でもね、それでも──わたしはわたしなんです」
ほほぅ……いいことを言いますね。なんだか共感してしまいます。
こんなことでもなければ、ぜひマリスとは仲良くなりたかったものです。
できれば親友になって、一緒にお風呂にでも……ぐへへ。
「だから、いまはわたしの意思でここにいます。わたしは──みんなを救いたいんです」
「それは──クオリアと同じ……」
「わたしはそのクオリアという人のことを知りません。でもその人と違うとは胸を張ってはっきりと言えます。たとえ体はコピーだったとしても──心はわたしのものだわ!」
マリスの熱弁を前に、完全に言いよどんでしまった師匠。
心なしか──ファラロンの視線が柔らかいものになったように感じました。
「もうわかったか? プロフよ」
「……」
「茶番はもう終わりにしよう。満足したなら──私に【クオリアの冠】を渡せ」
そう言うとファラロンは──師匠に向かって右手を突き出しました。




