135.大教会へ再び
今回、師匠のおかけで生前のエルマーリヤの身に起こったことを知ることができました。
そして彼女の未練も──。
とはいえ、現状でエルマーリヤと対峙する準備ができたと言えるのでしょうか。
彼女はSSSランクアンデッド、一筋縄ではいかない相手です。
エルマーリヤの固有魔術である《聖者の救済》と《聖域》を使えるようになり、かつダンジョンコアを喰った今の私の身で改めて思うのは、真正面からやりあって勝てる気がしない、ということです。
仮に私が彼女を死霊術で支配しようにも、あの強固な魔法防御《聖域》を打ち破る必要があります。
もちろん、手がないわけではありません。私も《聖域》を使って打ち消せば良いのです。
ですが……同じ能力同士でぶつかった場合、勝つのは魔力が高い方です。
エルマーリヤの推定魔力値は350万オーバー。一方、ダンジョンコアを喰ったとはいえ、今の私の魔力値は100万をようやく超えた程度。エルマーリヤには遠く及びません。
もし彼女と対峙した場合の未来は……言うまでもありませんね。
まだ足りない……。
エルマーリヤを完全に私の傘下に加えるためには、さらに決定的なものが必要でしょう。
私がエルマーリヤに対抗する手段として考えられる手は、二つ。
私がエルマーリヤ以上に強くなるか、エルマーリヤを弱くするかです。
前者に関しては、既に【超越者】という存在になっている以上、現時点でこれ以上強くなる手段が思いつきません。
後者については──ひとつ、方法があります。
エルマーリヤの未練を断ち切ることです。
そうすると彼女の力の源である『未練』が無くなるので、アンデッドとしての力が落ちるはずですが……彼女の未練は──。
「魔法王国の亡者どもを……根こそぎ輪廻転生させること、ですか」
うわぁ……思い出しただけで不愉快になります。
私はアンデッドは大好きですが、怨念を持った亡者はあまり好きではありません。しかも奴らには死霊術が効きませんからね。
あの数十万の亡者どもを全員どうにかする、と考えるだけで気が遠くなります。
そもそも生前のエルマーリヤですら成し遂げられなかったことを、この私が出来るのでしょうか。
……いやぁ、めんどくさいし無理ですね。自分が強くなるほうが手っ取り早い気がします。
私にとって全ての始まりである〝彼女″を『真の意味で』手に入れることこそが、私の死霊術師としての最終目的でもある以上、彼女は避けて通れぬ相手です。
そのために必要なことであれば──何をすることも厭いませんが……。
うーん、困りました。なかなか良い解決策が見つからないものですね……。
「なぁフランケルよ。おぬしにひとつ相談があるんじゃが」
私がエルマーリヤの対処方法について一人で思い耽っていると、ふと師匠が語りかけてきます。
「ふぇ? 師匠が私に相談、ですか?」
「ああ。どうやらな、わしの古い友人の一人がよからぬことをしようとしているようなのじゃ」
古い友人──おそらくファラロンのことですね。
「じゃから、わしとともに大教会に行ってくれんかの?」
「えっ?」
なぜゆえに師匠は、アンデッドや死霊術師とは対極の位置にある大教会なんかに行きたがるのでしょうか。私なんかわざわざ逃げ出してきたばかりだというのに……。
「これこれ、あからさまにイヤそうな顔をするでない。そもそもおぬしの従者たちはどうするんじゃ? おぬしが大教会に行かなければ、あと数日で処刑されてしまうんじゃろう?」
はい?
……えーっと、それはなんの話ですかね。
「なんじゃ、知らんかったのか? おぬし聖母教会から指名手配されておるぞ」
「げっ!?」
なんと、いつのまにかとんでもない状況になっていました。
どうやら私、前世に引き続き今世でも聖母教会に指名手配されるという空前絶後の快挙を成し遂げてしまったようです。……まったく嬉しくありませんが。
つくづく私は聖母教会と相性が悪いみたいですね。それもこれも前世の行いが悪かったからでしょうか。まぁ反省こそすれ後悔はしていませんが。
「しかもあと5日以内に出頭しなければ、おぬしの従者は処刑されるみたいじゃぞ」
それは……まあ別に構いませんけど。
あ、いや、誤解なきように言うと、本当は構うんですよ?
ですがギュスターヴが彼らの命は守ると約束しましたから問題ないと考えているという意味であって……。
「それに私、すぐにでもエルマーリヤと対峙したいのですよ。前回はやられっぱなしでしたからね」
「しかし──今のままでは大聖女には到底及ばん。完全に手詰まりの状況。違うか?」
「ぐぬぬ……」
確かに師匠の指摘する通り、今のままではエルマーリヤに対抗できるとは思えません。
「もちろん、タダでとは言わんぞ。もしわしの支援をしてくれたら、おぬしにわしの死霊術の極意を伝授しよう」
「なっ?!」
「さすれば──おぬしの力でも大聖女のアンデッドに対抗できるかもしれんぞ?」
そ、それは……。
なんと魅力的な提案なのでしょうか。
ここで師匠から新たな知識を得られるとなると、渡りに船です。
私がいくら成長したとはいえ、やはり1000年もの時を生きた師匠には敵いません。過ごしてきた年月が違います。
しかも前世の師匠はほとんど耄碌していたので、まともに教わることができない状態でした。
ですが今回は違います。
キャピキャピの少女となった師匠が教えると言うのですから。
「ごくり……」
思わず生唾を飲み込みます。
師匠の死霊術の極意をマスターすることは、すなわち私が死霊術師の頂点を極めることに大いに近づきます。
それこそ──我が望みではありませんか。
「わしの持つ極意に、おぬしの力を足し合わせたら、もしかしたら大聖女にも届くかもしれんのぅ」
「乗った!」
即答です。
師匠がニヤリと笑っていますが、ここは気にしたら負けです。
たとえ師匠にどんな思惑があれ、必要なものが手に入ればそれで良いのですから。
「よし、そうと決まれば長居は無用じゃ。さっさと出発するとしよう。せっかくじゃし、新しいアイドル衣装を用意しようかな」
「ほほぅ……師匠はまだアイドル活動続けていたんですね」
「当然じゃ、そのために転生したようなもんじゃからの。おぬしも用件が済んだら、わしの活動を手伝うんじゃぞ?」
「え、私もですか?」
「くくく……今回わしは斬新なアイディアを閃いておるんじゃ。やはりアイドルは人数が多い方が良いかと思ってな。49人くらいのアイドルユニットでの活動を企画しておる」
49人……ちょっと多すぎやしないですかね。
「まぁ向かう道すがらわしのプランを詳しく話してやろうぞ。準備をするので暫し待てぃ」
いや、それよりも死霊術の極意を教えていただきたいのですが……。
◆◇
こうして──私は再び神国へと向かって旅立つことになりました。
とはいえ師匠ほどの実力者であれば、人造ゲートを作ってひとっ飛びで神国まで行けそうなんですけどね。
「今のわしはゲートが作れんのだよ」
「え、そうなんですか?」
まぁ私も不安定なゲートしか作れなくてすぐに酔ってしまうので、使えない度合いでいくと同じレベルではありますが。
……もしかして師匠は転生して10年ほどしか経ってないので、まだ完全に前世の力が使える状態にないのかもしれませんね。
「では仕方ありませんので、歩いて行くしかありませんね」
「まあそう急くでない。わしとて移動手段はもっておるよ。いでよ──《アンデッド馬車》!」
師匠が指に嵌めていた次元指輪を使い召喚したのは、馬のアンデッドであるボーンホースと、車輪のアンデッドであるホイールオブナイトメアが引く骨製の馬車《アンデッド馬車》です。
御者はデュラハンのジェヴォーダンが勤めます。アイズワンは執事として馬車内での私たちのお世話係ですね。
「まぁ、素敵な馬車ですわね! さすがは師匠、センスがずば抜けています」
「じゃろう? 街中でこれで走ろうとすると奇異の目で見られたり、子供たちがトラウマを抱えると言われてのぅ。なかなか披露する機会がなかったんじゃが、今回は日の目を見る良い機会となったわい」
ドヤ顔の師匠ですが、すぐにその顔色が曇ります。
「とはいえこの馬車は目立つのが難点でな。特に公式ゲートを通るのは危険かもしれんな。下手すると討伐対象じゃて」
「ああ、その点は心配無用ですわ」
私は来た時と同じように、隠しゲートに案内していきます。
最初は師匠も驚いていたものの、2〜3つの隠しゲートを超えたあたりで呆れ顔で私に語りかけてきました
「しかし……まさかおぬしがここまで未知のゲートを所有しておったとはな」
「ええ、だいたい100以上は発見してましたね。私、ゲートを見つけるのが得意なんですよ」
「これは得意などというレベルではないぞ? 異常じゃ、異常」
そう言われても《鑑定眼》を使えばすぐに見つかるんですよね。
この旅でも寄り道になるのでスルーしましたが、いくつかゲートかダンジョンらしいものは発見してますしね。
「……まぁ障害なく進めることは良しとするかのぅ」
なにやら納得できない表情の師匠でしたが、気にせず進むことにします。
だって、説明を求められても「見える」としか言いようがないですからね。
神国へと向かう馬車の中、約束通り私は師匠から死霊術の手ほどきを受けながら進みました。
頭がカビてない師匠の死霊術の知見は素晴らしく、まるで夢のようなひと時です。
「しかし、気が重いですわ」
「ん? 大教会に向かうことがか?」
「ええ……」
どうにもあの地とは相性が悪いんで気乗りしないんですよね、行くとロクなことがないというか……。
「しかも私、指名手配されてるんですよね? 別に聖母教会の教義など興味ありませんし、教皇を手にかけたりしてないのに……今回に限っては冤罪ですわ」
そもそも私が興味があるのはアンデッド用の素体であって、教皇を暗殺する理由がありません。死霊術師にとって、素体を殺害して手に入れるなど邪道です。私が手をかけることなどあり得ないのです。
なのに私に教皇暗殺の濡れ衣を……屈辱ですね。
「ふむ、おぬし罠にはめられたんじゃな。前世でもそうじゃったのか?」
「いえ、前世では心当たりが大有りです。大教会に不法侵入してエルマーリヤの素体を強奪したのは事実ですからね」
「おぬし……なかなか凄いことをやっておったんじゃな」
呆れ顔で私を見つめる師匠。
「しかし、大教会か……ふむ、じゃったらわしに良い考えがあるぞ」
「良い考え、ですか?」
「うむ。聖母教会のやつらの度肝を抜く、最高な感じのやつがな!」
師匠が喜ぶとろくなことにならない気がするのですが……乗り掛かった船です。
とりあえず師匠の考えとやらを聞いてみるとしますかね。




