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134.エルマーリヤ・ライトジューダス(後編)

 

 当時【宵闇の吸血帝王】と呼ばれ君臨していたファラロンと対峙したエルマーリヤは、彼の話を聞き、自らの意思で【クオリアの亡者たち】を輪廻転生させようとしたそうです。


「大聖女は、間違いなく素晴らしい力をもっておった。じゃからファラロンは彼女の力に希望を見出した。あやつはあやつなりに、クオリアを止められなかったことを悔いていたんじゃろうな。そこで大聖女と手を組んで、『魔法王国の亡者』たちを葬り去ることにした」


 なるほど、ではエルマーリヤにダンジョンコアの力を与え、【超越者シンギュラリティ】としたのはファラロンだったのですね。


「そうじゃ。究極の魔力を手に入れ絶大なる存在となった大聖女は、ついに亡者たちと対峙することとなる。決戦の場となったのが──ヤニ王国じゃ」


 ヤニ王国……師匠が全員アンデッドにした国ですね。


「まぁ間違ってはおらんが……ネタバラシをすると、実はその国はファラロンがヴァンパイアの王国として支配していた場所なんじゃよ」

「えっ? じゃあもともと全員がアンデッドだったんですか?」

「そういうわけではないが、貴族層は大概ヴァンパイアじゃったようじゃな」


 ……なんだか聞いてた話とずいぶん違いますね。


「とはいえ結果的にわしがほとんどアンデッド化したのは事実じゃがな」


 さすが師匠、そこに痺れる憧れるぅ。


「とにかくじゃ。ファラロンと大聖女が手を組んで、ヤニ王国で大規模な儀式を行った。偶然にも『クオリアの冠』が発掘入手できたことも、ファラロンが行動を起こす決意を固めた要因になったようじゃな。なにせこの冠は、【根源の魔塊】に直接接続アクセスできる魔法道具じゃからな」


 へー、その冠は凄い魔法道具だったんですね。

 実際、あの冠を被っていたせいで私も変な感じになっていましたからね。


「ところが──そこで想定外の事態が起きた」

「想定外、ですか」

「うむ。クオリアが──生きておった・・・・・・んじゃ」

「え?」


 生きて……いた?

 生身で、生きていたということでしょうか?


「まぁあの状態・・・・生きていた・・・・・と言っていいのかは微妙なところじゃがな……少なくとも魂ごと囚われていたことは確かじゃ。そしてクオリアは、大聖女を攻撃してきた・・・・・・

「なぜ攻撃を? ──あ、まさか……」


 私はすぐにその理由に思い至ります。

 アンデッドは、だいたいが生前の未練に引きずられるものです。

 クオリアの未練は──。


「魔法王国の亡者たちの魂を──護ろうとした・・・・・・んですね?」


 私の問いかけではない確認に、師匠は頷きます。


「……クオリアにはもはや理性と呼べるものは残っていなかった。ただ『魔法王国の人たちを守りたい』という気持ちだけが行動原理となっておった。そして大聖女やファラロンにとって、クオリアの存在および反撃は完全に想定外であったんじゃな」

「あぁ……それでは……」

「聞いたところによると、悲惨なまでの惨敗だったらしい。結果──ファラロンは100年以上身動きが取れなくなるほどの痛手を負い、大聖女は致命的な傷を負って命を落とすことになる」


 ならばエルマーリヤを殺したのは──。

 エルマーリヤの仇は──。


「……クオリア、なのですね」

「まぁそういうことになるじゃろうな」


 師匠は、ふぅと大きな息を吐きます。


「クオリアはさらにヤニ王国の全土を己の術……《クオリアシステム》の中に取り込もうとした。おぬしにも分かりやすい言葉で言うと──《悪魔化》しようとしていた」

「悪魔化?」

「うむ、《クオリアシステム》に取り込まれたものは魂を囚われ、莫大な力を得られる代償として輪廻転生の輪から外れることになる」

「それって──」


 ああ、では悪魔の力とは──。

 悪魔とは──。


「師匠。《悪魔の力》とは──いったいなんなのですか?」

「《悪魔の力》とはな、《クオリアシステム》によって汚染された魔力のことじゃ。その魔力の源は──魔法王国の亡者たちと一体化し、クオリアの意思を宿した【根源の魔塊】から来ている」

「それでは──悪魔の正体は?」

「《クオリアシステム》に捕らえられたものたちの魂じゃ。亡者たちは悪魔術を行使したものたちの魂を捉えて道連れにし、自らと同じ【クオリアの虜囚】としていたのじゃ」


 それが──。

 正体不明だと思われていた悪魔の力の──真相。

 人々を惑わす悪魔の──正体。


「では……私の《浄化の左手》で悪魔を追い払うことができたのは──」

「おそらくおぬしのギフトが《クオリアシステム》との繋がりを断つ効果を持っておるのじゃろうな」

「【七人の聖導女】に組み込めたのは──」

「聖属性によって繋がりを断てたからじゃろう。システムから切り離されてさえいれば、残るのはただの魂じゃからな」


 ようやく合点がいきました。

 だから──悪魔には通常の死霊術ネクロマンシーが効かなかったんですね。

 なにせ、魂が別のもの──《クオリアシステム》に縛られていたのですから。


「ただおぬしの力で救えるのは、あくまでのちに【クオリアの虜囚】──ようは悪魔になったものたちだけじゃ。魔法王国の亡者やクオリアそのものには効果が無いじゃろうな」


 確かに、『冥界ダンジョン』でも亡者たちを弾くことは出来ても、それ以上のことはできませんでしたからね。

 一人納得している私をよそに、師匠が話を続けます。


「……そんなわけで、クオリアと亡者たちはヤニ王国の住人全ての魂を捉えようとしていた。完全に狂っておったんじゃな。そのときになってようやく駆けつけることができたわしは、やむなくヤニ王国全土に死霊術をかけ、住人たちをアンデッド化させることにした」


 なるほど。

 師匠はアンデッド化させることで、ヤニ王国の人々の魂を──クオリアの『束縛』から守ろうとしたのですね。


「うむ、これ以上クオリアに縛られる『亡者』を増やさないためにやむなく取った措置じゃ。所詮わしは死霊術師ネクロマンサー、おぬしのように他に手段を持ち合わせておらなんだからな」

「……すべての住人たちをアンデッド化したあと、クオリアと亡者たちはどうなったのですか?」

「ああ、そのまま去っていったよ。あとに残されたのは、生者が誰もいなくなったヤニ王国の残骸じゃった」


 こうして、一つの伝説が出来上がったのですね。

『ヤニ王国はSSSランクアンデッド【奈落】の不興を買った結果、全員アンデッド化させられて滅びた』という伝説が。


「ヤニ王国の廃墟で、わしはこの『クオリアの冠』を回収した。以降、クオリアや亡者たちが表舞台に出ることがないよう、ずっとわしが管理しておったんじゃよ」

「なるほど。では──エルマーリヤの素体を現世にとどめる措置をしたのは……?」

「む、わしは知らんぞ? おおかたファラロンあたりが大聖女の魂が《クオリアシステム》に組み込まれないように処置を施したんではないのか?」


 うーん、だったらむしろ素体を消去して輪廻送りにしたほうが手っ取り早いと思うんですけどね。

 もしや、自らの判断ミスによりエルマーリヤが命を落とす結果になった、せめてもの罪滅ぼしのためにファラロンがやったのでしょうか?

 あるいは、エルマーリヤの美しさを現世に留めるため?

 ……もっともSSSアンデッドに感傷などという感情が残っているのかは不明ですが。



「……以上が、わしが知る限りの大聖女の死の真相じゃな」


 すべてを師匠が語り終えたとき、すでに目の前の紅茶は冷めきっていました。

 おかわりを注ぐゴーストの様子を呆然と眺めながら、私はエルマーリヤのことを思います。


 死してなお、現世に留まった彼女。

 私の術が暴走した結果、蘇った彼女は──生前の未練を満たすために活動を続けます。


 彼女の未練は──。


「──あぁ。そういうこと……だったんですね」


 この瞬間、私は初めて……エルマーリヤの行動原理を理解しました。


 エルマーリヤは、魔法王国の亡者たちを輪廻転生させようとしていた。

 志半ばで死した彼女は、それでも願いを失わずに持ち続けていた。

 だから──。


「だからエルマーリヤは……呼べばすべからく現れて、問答無用で輪廻転生を施していたのですね」


 それこそが、エルマーリヤの行動原理。

 そう……彼女は今も戦い続けて・・・・・いたのです。

 彼女の名を呼び救いを求めて来る人々を、輪廻の輪に戻すために。


 狂ってもなお──生前なし得ることの出来なかった無念を晴らすための行動を、彼女は取り続けていたのです。


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― 新着の感想 ―
[一言]  ついに、メインヒロインの過去が明らかに…(`・д・´)
[一言] つまり……やっぱりユリィシアはハブられてる(゜ω゜)!?
[一言] クオリア迷惑かけすぎやろ
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