121.ヘルタースケルター
エピソード15のラストです。
ファラロンの隣にいたのは、過去の映像で見たクオリアでした。
……と一瞬思ったのですが、よーく見ると──おや、どうやら別人のようです。そもそもアンデッドではなく普通の人間のようですし。顔立ちはものすごく似ているんですけどね。
過去の知人にそっくりな女性を侍らせるアンデッド……なんだか気持ち悪い男ですね。
「お嬢様、そこに居ては危険です! 早く逃げてください!」
……おっと、そうでした。まだ亡者たちがいましたね。
とはいえ、実はこの亡者たちは簡単に撃退できる相手ではありません。
なにせ──クオリアの『願い』がこびりついているのですから。
しかし、こんなところで無駄に時間を潰しているわけにはいきません。
私には次の目的も見つかりましたし。
陰気なやつらをいつまでも相手にしているほど暇人ではないので、さっさと撃退するとしましょう。
「お嬢様、髪の色が──」
「ん?」
ネビュラちゃんに言われて私は次元指輪からアンデッド『闇化粧』を呼び出すと、姿見鏡を持たせます。
……ふむ、半分黒くなっていますね。
なぜこんなことになっているかわかりませんが……まあ細かいことは良いでしょう。
そんなことよりも、私の身体の中から満ち溢れてくる魔力の──なんと素晴らしいのでしょうか。
以前の私とはまるで〝別格″。
今の私ならエルマーリヤともある程度渡り合えるかもしれませんね。
これが──ダンジョンコアを食った結果。
いえ、正しくはダンジョンコアをこの身に宿らせることによってのみ、たどり着く極限の領域。
──今だから分かります。
ダンジョンコアを食うとは、ダンジョンを自らの身体の中に生成させることで、【根源の魔塊】の魔力を己のものとして使えるようにすることだったのです。
この域まで達している存在は、恐らくそう多くないでしょう。
私が知るのは、師匠とエルマーリヤくらい……あぁ、あそこにいるファラロンもそうですね。
これほどの魔力を持って【不死の軍団】を操ったら、いったいどうなるのでしょうか。
……ぐふふ、想像するだけで心躍ります。転生してから今まで頑張ってきた甲斐があるというものですね。
ついに私は、〝究極の魔力″を手に入れたのですから。
──わぉぉぉぉ──おぉぅぅぅぅぅぅう──うぅぅうぅ──。
────あああぁあぁぁぁ──うぅぅうぅ……ああぁああぁ──。
あぁもう、鬱陶しいですね。
ではさっそく──亡者たちを相手に、私の力を検証するとしましょう。
「いでよ、【不死の軍団】」
私の声に呼応して、ウルフェたちの背後の扉が開きます。
現れたのは──ドラゴンボーンスケルトン〝エシュロン″を筆頭とした、私の宝物たちです。
Sランクアンデッドのバックベアードにヴァンパイア・レイス、ロイヤル・スペクターに七人の聖導女(改)たち。
なぜかエシュロンの頭に乗っているスケルトンは……元の肉体ではありませんか。ですから下から覗いても骨しか見えないのに、なんで照れてるんですかね?
更には先日師匠から引き継いだムサシとコジローのスケルトン・ソードマスターのコンビ。
あとレッサーヴァンパイアのシャプレーは……おや、見当たりませんね? はて、どこに行ったのでしょうか。
他にも大量のスケルトンたちが、わざわざ『万魔殿』からやってきてくれました。どうやらすぐ近くに待機していたようですね。さすがは私の【不死の軍団】です。
きっちりと整列した、私の愛しき軍団員たち。
まさに──壮観。
一通り見渡したところで、胸の奥から熱いものがこみ上げてきます。
……ですが、感慨に浸るのはまたあとです。
まずは面倒な亡者たちを撃退するとしましょう。
「あなたたち、やっておしまいなさい」
『キシャァォァァアァァ!!』
私の号令に従って、【不死の軍団】たちが一気に亡者たちの群れに突っ込んでいきます。
アイラ=デルトラの亡者たちは、クオリアの〝願い″によって加護されているので、治癒魔法やターンアンデッドが効きません。
ですが、死霊術であれば別です。
倒したり昇天させることは難しくても、押し返して──私たちが逃げるための道を作るくらいならば造作もありません。
我らが【不死の軍団】は恐れを抱くことなく亡者の群れに突入し、ついには突破口を作ることに成功しました。
「お嬢様!」
出来上がったばかりの道を駆け抜けて、ついにウルフェたちが合流してきます。
私たちを守るように隊列を組む【不死の軍団】たち。彼らが亡者たちが近寄ってくるのを追い払ってくれています。さすがは私の軍団ですね、実に心強いです。
「お帰りなさいませ、お嬢様──いえ、ボクのご主人様」
同じく軍団の一人、ネビュラちゃんが膝を落として待ち構えていました。
「出迎えご苦労です」
「素晴らしい光景でございますね」
「そうでしょう?」
ネビュラちゃんに褒められて、つい私は嬉しくなってしまいます。
「なんでアンデッドたちがユリィシアに従ってるリュ?」
「それはすべてお嬢様の魅力のなせる技でございましょう」
「ウルフェはそればっかりリュね、ある意味単純明快で羨ましいリュ。とはいえ、絶好のチャンスであることには変わりないリュ!」
「そうですな、さっさと脱出するとしましょう!」
アミティとウルフェが脱出を促す向こう側で、クオリアとよく似た女性がファラロンたちとなにやら話をしています。
「さすがはユリィシア様……すごい力ですわ」
「姫様、今はまだ〝魔の乙女″と邂逅する時ではありません。ここは一旦引き上げましょう」
「ええ、分かりました。あの様子なら大丈夫そうですしね」
「ギャース」
「ユリィシア様、また近いうちにお会いしましょう……」
何を言っているのかよく聞こえませんでしたが、クオリア似の三人は、ファラロンの作ったゲートでさっさと脱出してしまいました。
あぁ、そんな裏技があったのですね。
是非試してみたいところですが、今の私は【根源の魔塊】を手に入れたばかりなので安定しておらず、ゲートを作ることはまだ出来なさそうです。
とはいえ、【不死の軍団】がいればこの場を突破することは造作もないことでしょう。
「エシュロン、出口まで誘導してください」
「グラグラグラグラー!」
ドラゴンボーンスケルトンのエシュロンがブレスを放ち、亡者たちを後退させます。
その隙に出口へと向かっていき──ついに私たちは、師匠の住処であった『冥界ダンジョン』から脱出することに成功しました。
ダンジョンの出入り口であるゲートを潜り抜けると、亡者が追ってくることはありませんでした。もしや彼らはあの空間だけにいる存在なのですかね?
「お嬢様、髪の色が元に……」
おや、いつのまにやら元に戻ってますね。
そういえば師匠は以前、私に『死霊術を使うと魔力が減る』と言っていましたが……そのような気配はありません。
ただ代わりに、『アイラ=デルトラの亡霊たち』を引き付けているように感じました。
理由は分かりませんが、原因が究明されるまでは黒い魔力はあまり使わない方が良さそうですね。意識が飛んだのも、亡者たちのせいかもしれませんし……。
まあ今は使えるとわかっただけで満足するとしましょう。
「さぁ、私の【不死の軍団】よ、帰りなさい」
私はフランケルの指輪五つを全て発動させると、ゲートを開いて軍団を『万魔殿』に送り返します。
名残惜しいですが、またすぐにでも会えるでしょう。
元フランケルのスケルトンが最後まで手を振っていました。彼は寂しがりやなんでしょうか? ちょっとウザいんですが、素体が私の前世なので無碍にできないところが玉に瑕です。
……そうだ、クオリアの冠もしまっておきましょうかね。これはまた師匠に会った時にお返しするべきでしょうから。
【不死の軍団】たちの旅立ちを見送ったところで、ウルフェたちが駆け寄ってきます。
「お嬢様、ご無事でなにより!」
「ユリィシアはなんでアンデッドを操れるリュ? それにあの黒い髪は──」
説明が面倒なので質問は無視し、私は気になっていたことを尋ねます。
「ところであなたたち、シャプレーを知りませんか?」
「シャプレー? あのアンデッドバンパイアですか? だったら俺が成敗しましたが……」
「── 《 審罰の左目 》発動」
「あいたたたっ!? な、なぜ頭がいたいぃぃ!?」
まぁ今日は機嫌が良いのでこのくらいで勘弁してあげましょう。
もともとシャプレーは自我を持っててちょっとウザかったですしね。
「……マリス様たちも帰ってしまいましたね」
「マリス? あの女性の名ですか?」
彼女の名前はクオリアではなくマリスだったのですね。
……覚えておきましょう。なんとなく、また会うような気がするので。
「はい。執事のファラロンと護衛のギュスターヴとで、お嬢様をお探しする手助けをしてくれたのです」
あの龍人もどきアンデッド、やはりギュスターヴでしたか。超龍王をアンデッド化させるなんて、師匠の死霊術はやはり凄かったのですね。
「ユリィシア、これからどうするリュ?」
アミティに問われて、私は少し黙りこみます。
今回、過去に起こった出来事を見て、ある疑問を抱きました。
アンデッドの頂点に君臨する『終わりの四人』は、元々神に近い存在だった超龍ギュスターヴを除いて、いずれも超魔力──【根源の魔塊】の力を使える存在です。
ところが【根源の魔塊】を使う技術── ダンジョンコアを喰うという方法は、元々魔法王国時代の失われた知識であり、魔法王国の滅亡とともに完全に失われてしまいました。
ですが──なぜかその力をエルマーリヤは持っていました。
体内にダンジョンを持っている時点で、彼女がダンジョンコアを吸収していることは確実でしょう。かくいう私も今では身体にダンジョンを宿す身ですが。
エルマーリヤは、どうやってこのロストナレッジを手に入れたのでしょうか。
そしていつ、ダンジョンコアを食べたのでしょうか。
それほどの力を持ちながら──なぜ死んでしまったのでしょうか。
私は──あの人に憧れを抱きながら、あの人のことを何も知らないことに気付いてしまったのです。
ですから私は、あの人のことをもっと知らなければなりません。
そのためにも、私は──。
「神国に、向かいましょう」
そこにきっと──エルマーリヤの過去に迫る情報があるはずですから。
私はもう一度彼女と、対峙しなければなりません。
そのときのために──今は準備を整えましょう。
──エピソード15 完──
〜おまけ〜
「あの、お嬢様? 一つお伺いしてもよいですか?」
「なんですの?」
「【不死の軍団】がいる『万魔殿』は、いったいどこにあるのでしょうか?」
「あそこですわ」
天を指差すユリィシア。
そこに浮かんでいたのは──。
「空、ですか?」
「違いますわ、見えませんの?」
「えーっと、月ですかね?」
「はい、そうです」
「えっ?」
「あそこにいますの」
「えっ!? 月、ですか!?」
ユリィシアは、蠱惑的な笑みを浮かべながら頷きます。
「ええ、あそこならカビる心配もありませんからね。なにせ──空気がありませんから」
これにてエピソード15は完結です。
次回から、エピソード16『異端宗教編』となります!




