114.チーム結成
突如サンナミの街を襲撃した《黒百合》は逃亡し、併せて出現していた【不死の軍団】たちも撤退していった。
平穏を取り戻したサンナミの住人たちは口々に「助かったのか?」「もしかしてあの《黒百合》様ってのが、ダンジョンを暴走させた張本人なのか?」「魔王じゃないか、魔王!」「いや、女性だったから魔女王じゃないか?」などと噂し合っている。
だが、残されたウルフェたちは──。
「……いなくなってしまわれた……」
「逃げたでございますね」
「ちょっと泣いてたリュ」
哀愁と、爽快感と、同情。それぞれの感情を胸に抱えて立ち尽くしていた。
「あれは……ウルフェが悪いリュね」
「なっ!? アミティもネビュラもノリノリだったじゃないか!」
「でも最初に悪口を言ったのはウルフェでございましたよねぇ」
「ぐぬぬ……」
「あれはウルフェが泣かしたリュ。ウルフェのせいリュ」
「ぐぅぅ……」
身内同士で醜いなすりつけ合い──責任転嫁をしていると、マリスがポツリと呟いた。
「行ってしまいましたね……」
二人に責められ劣勢に陥っていたウルフェが、マリスに救いを求めるかのように尋ねる。
「そ、そうだマリス様! あなたはもしやお嬢様がどこに向かわれたのかご存知なのではないですか!?」
「ええ。ファラロンの力で存じ上げておりますわ」
「なんと! それで、お嬢様は今どこに!?」
「あそこですわ」
マリスが指差したのは、窓の外に見える遥かなる白き高嶺── 【白天の神座】アズラ=アイラ。
「あそこ、ですか?」
「……『冥界ダンジョン』」
ネビュラが思わず、といった様子で漏らしたのは──。
「『冥界ダンジョン』って何リュ?」
「ししょ……ゴホン、【奈落】と呼ばれたSSS級アンデッドのアジトでございます」
「えっ? 【奈落】って、つい最近エーデルたちによって遺骸が確認されたっていう、あの?」
「──【奈落】は滅びてなどおらんよ」
「ギャース」
ふいに会話に入ってきたファラロンとギュスターヴ。
その衝撃的な発言内容に思わずネビュラが目を剥く。
「なっ……【奈落】は滅びていらっしゃらないのですか!?」
「ふむ、おまえは既に再会しているというのにずいぶんと呑気なものだな」
「えっ!? 再会? えっ?!」
若干錯乱気味になってしまったネビュラを押し除けて、ウルフェがマリスに問いただす。
「すまんがネビュラ、俺は【奈落】とやらが死んでようが生きてようが、そんなことはどうでもいい! それよりもお嬢様がどこにいるかのほうが大事なんだ! ということで、マリス様!」
「はい」
「ではお嬢様は、その『冥界ダンジョン』とやらにいらっしゃるのですか?」
「ええ、ユリィシア様はそのダンジョンにいますわ」
返事を聞いた瞬間、一気に駆け出そうとするウルフェ。
だがその腕をすぐに掴むものがいた。アミティだ。
「アミティ、何をする!? 離せ! 俺は今すぐお嬢様を救いに──」
「それはこっちの台詞リュ! 少し落ち着くリュ! そもそもウルフェは『冥界ダンジョン』がどこにあるか知ってるリュ?」
「あっ……」
当然の事実を突きつけられ、抵抗を止めるウルフェ。
そう彼は、ダンジョンの場所も知らないまま飛び出そうとしていたのだ。
「……すまない、冷静さを欠いていた」
「分かれば良いリュ」
「ギャース」
妙に同情的な目でアミティを見つめるギュスターヴ。
そんな視線に気づくことなく、落ち着きを取り戻したウルフェが改めてマリスに問いかける。
「……あの、もしやマリス様は『冥界ダンジョン』の場所をご存知ではありませんか?」
「ええ、存じ上げておりますわ」
「なんと! ではその場所を教えていただけませんか!」
「ですが……あなたがただけをあそこに行かせるのは危険です」
「そこを何とか!」
ウルフェに頭を下げられ、考え込むマリス。
だがすぐに意を決した表情でこう口にする。
「そうですか……わかりました。ではわたくしもご一緒に参りましょう」
「はっ?」「ひっ?」「ふっ?」「へっ?」「ギャース?」
マリスの予想外の提案に、全員が素っ頓狂な声を上げる。
「いやいや、マリス様を危険に晒すわけにはまいりませんよ!」
「むしろ危険なのはあたちたちのほうかもしれないリュ!」
「そ、そうでございます! それに『冥界ダンジョン』の場所であればボクが知っておりますし──」
「ん? なんでネビュラが『冥界ダンジョン』の場所を知ってるんだ?」
「うっ!? あ、その……それはその……」
「ふはははは、そちらのお嬢さんはきっと別の場所と勘違いされているのであろうよ」
口籠もってしまったネビュラをフォローしたのは、意外にもマリスの執事ファラロンであった。
「勘違い?」
「うむ。なにせ『冥界ダンジョン』の場所は秘中の秘。冒険者ギルドでもごく限られたものだけが知るその場所を、たかが侍女如きが知るわけないであろう」
「むっ……確かに……」
さらっと自然な動作でネビュラの肩に手を置きながらフォローをするファラロン。ネビュラはものすごくいやそうな表情を浮かべるものの、フォローされている手前、無下に突き放せずにいる。
「その点、このファラロンは姫様に仕えし至上の魔術師。私が持つ《千里眼》をもってすれば、たとえ地の果てでも見て知ることができるのだ」
「なるほど、だからマリス様はお嬢様の居場所をご存知だったのですね」
あっさりと納得するウルフェ。
ネビュラはウルフェが脳筋で良かったと心の底から思った。
「ウルフェ様、ご納得いただけましたか?」
「ええ」
「それは良かったです。では──共にユリィシア様を救いに行きましょう!」
「「「いやいやいや!!」」」
ウルフェたちは慌てて同時に首を横に振る。
「そんな、マリス様を危険に晒すわけにはまいりません!」
「そ、そうでございます!」「そうだリュ! そのとおりだリュ!」
ウルフェの言葉に、なぜか必死に同意するネビュラとアミティ。
「ギャース」
「す、すまん。つい口が滑ってしまって……これでは私たちもついていかなければいけなくなってしまうな」
すぐ横ではギュスターヴに責められたファラロンが素直に謝っている。その一方でマリスは頬を膨らませていた。
「ぶーっ、わたくしも連れて行ってくれなければ場所はお教えしませんよ?」
「むむっ!?」
「それに、わたくしにはファラロンとギュスターヴがついています。二人ともとっても強いんですよ」
「ぬぬぬっ?!」
「それに、一緒に行かないならわたくしたちだけで行ってしまいますからね?」
「ぐぬぬ……」
そこまで言われて完全に悩みこんでしまうウルフェ。
だが、ウルフェにはもはや他に選択肢はなかった。アミティとネビュラが必死に首を振るが──。
「わかりました! ではマリス様、ご一緒に『冥界ダンジョン』へ参りましょう!」
「そうこなくっちゃ! なんだか面白そうな冒険になりそうですわね!」
「「「「…………」」」」
自分の提案が受いれられて、満面の笑みを浮かべるマリス。
ウルフェもまるで騎士のように膝をついて礼をする。
「……もうこうなったら受け入れるしかないリュ……」
「なぜボクたちは地上最悪の怪物たちと一緒にダンジョン探索をするという、意味不明な状況に陥っているのでございましょうか……」
諦め気味に天を仰ぐアミティと、死んだ目をしたネビュラ。
その二人の肩にポンッと手を置くギュスターヴとファラロン。
「ひっ?!」「ひゃあ!?」
「まぁそう言うな。姫様の手前、悪いようにはせんぞ」
「ギャース」
「そ、そう言われてもにわかには信じられないリュ……」
「信じる信じないはおまえたちの自由だが、いつまでも気を張ってると疲れるぞ?」
「ギャース」
「わ、わかりましたでございます……」
こうして──『冥界ダンジョン』に挑むことになる奇妙な臨時パーティが、ここに結成されたのであった。




