104.ポーション・マッピング
サンナミの領主エドワードに交渉した結果、『迷宮暴走』しているダンジョンの地図が冒険者ギルドに開放されることになりました。エドワードがフランドゥムのファンだったので、話が早くて助かりましたね。
「さすがお嬢様! この事態を想定してアイドル活動とやらをやっていたのですね!」
いえ、まったく想定していませんでしたが。
「お嬢さん、すげーな!」「ありがとよ!」「あんたはサンナミの冒険者の救世主だ!」「シアちゃんって言うんだって? ありがとな!」
たくさんお礼を貰いましたが、これからキリキリと働いていただく予定ですのでお気になさらずに。
マップ開放に色めきだった冒険者たちは一致団結して、ついにはダンジョンから溢れ出たモンスターたちを一掃することに成功しました。
これで三つ星エクストラダンジョン『サファイアとルビー(改)』の攻略への最低限の準備が整ったことになります。
「ではお嬢様、いよいよダンジョンアタックですね?」
「違いますわ」
相変わらず脳筋のウルフェがいきり立っていますが、残念ながらまだダンジョンに潜るには早いです。怒られた犬のように目に見えてしょげるウルフェ。ですが、知ったことではありません。
「は、はぁ……ではダンジョンに潜らずに何をするのですか?」
「ふふふ……これからあなたがたに〈ユリィシア流のダンジョン攻略法〉をお見せしますわ」
「そ、それは……具体的には、どのようになさるのでしょうか?」
私にとってモンスターを倒すことなどほぼ意味がありません。せいぜい魔法道具が手に入るくらいですが、その確率は極めて低く非効率です。
そもそもモンスターを倒したところで私の魔力は増えません。私の魔力が増えるのは、人を治癒したときと、人の才能を開花させたときなのですから。
ということで、私がすべきことは──。
「ポーションを配布しますわ」
「えっ? ポーションを、ですか?」
私の答えが予想外だったようで、いつもは冷静なネビュラちゃんでさえ目を丸くしていました。
◆◇
Sランク冒険者チーム【光の翼】の四人──エーデル、スライ、イスメラルダ、フィーダは、エクストラ化したダンジョン【エメラルドとルビー】の攻略に先陣を切って参加していた。
もともと彼らはサンナミの街を拠点としていたチームなので、街を守ろうと思うのはごく自然なことであったのだ。
ただ、彼らに心残りもあった。
共に旅した仲間──魔法薬師のシアが、つい先日の探索から行方不明となったままなのである。
シアがトラップによってどこかに飛ばされてから、彼らは必死になって『冥界ダンジョン』の中を捜索した。しかしシアの痕跡を見つけることができず、時間切れでしぶしぶ引き上げていたのである。
「シアは……きっと生きてる。あたしそう思うんだ」
妹のフィーダにそう言われ、苦渋の決断で撤収したリーダーのエーデルであったが、どうしても諦めきれずにギルドには『行方不明捜索』の依頼を出したほどだ。
だがいつまでもシアを探しているわけにはいかない。彼らはSランク冒険者。多くの依頼が待ち受けていたのだから。
そして今は、突如暴走を始めたエクストラダンジョンから出てくるモンスターたちを撃退するため、最前線に立って戦っていた。
エクストラ化したダンジョンのモンスターはかなり強くなっており、出てくるモンスターのランクが2ランクほど上がったように感じられた。
ゴブリンはボブゴブリンを通り越してゴブリンファイターやゴブリンソーサラーなどに。さらにはオーガーやオークロードなどのかなり高位モンスターまで溢れ出る始末。
なんとか撃退して疲労困憊のまま冒険者ギルドに戻る【光の翼】の四人。
すると、そこで待ち構えていたのは──。
「いらっしゃいらっしゃい、ポーション無料配布リュよー!」
「はいはい並んでくださいませー。ポーションは逃げないでございますよー」
「一人5本までだ、ズルは許されんぞ」
なにやら人だかりが出来ており、その中心では見たこともない三人がなんとなく見慣れたポーションを配布していた。
「これは……シアのポーション?」
「ああ、なんか似てるな」
「同じ魔力を感じるわ、間違いなくシアのよ」
「無事だったのね、よかった……」
列に並んでポーションを受け取り、これが行方不明になっていたシアのものだと気づく四人。
「シアは……生きてたんだな」
エーデルはポーションを握り締めながら、配布をしていた狼獣人の青年に声をかける。
「あの……すまない。このポーションを作った人に会わせてもらえないだろうか?」
だが狼獣人は冷たい目で見返すと、感情のこもらない声で言い放つ。
「お嬢様を勝手にさらった方々に会わせることはない。それに今、お嬢様は領主と協議中だ」
この狼獣人の青年にはどこかで会ったことがあるような気がする。そう思ったものの、エーデルはシアが生きていること、今も変わらず皆を助けようとしていることを知ってホッと安堵の息を漏らす。
「わかった。それじゃあシア──いやお嬢様とやらに、エーデルが心配していたと伝えてもらえないだろうか。あと、とても感謝していたと」
「機会があれば伝えよう。それよりもおぬしも冒険者なら、その力を持ってお嬢様に貢献することこそが──真の恩返しになるのではないか?」
狼獣人にそう諭され、頷くエーデル。
「確かにその通りだ」
「ならばお嬢様のためにも、全身全霊でモンスターたちを排除するがいい。さすればお嬢様も喜ばれるであろう」
「ああ、分かったよ」
なんとか顔だけでも見たかったものの、これ以上は彼らの作業を邪魔するだけだと考え、エーデルは無理を押さず身を引くことにする。
「これだけのポーションを無料配布してるんだから、きっとシアちゃんも忙しいのさ。仕方ねえよ、エーデル」
「あぁスライ……でもまぁシアが元気であれば良いか」
「そうよ、生きていればきっとまた会えるしね」
「イスメラルダの言う通りよ、お兄ちゃん!」
仲間たちに慰められ、エーデルは手に力を込める。
「よし、俺たちもこの街を守るために頑張るぞ!」
「「「おーー!!」」」
◆◇
「いらっしゃいいらっしゃい、ダンジョン攻略に参加する冒険者には、ポーション一人五本まで無料配布するリュよー!」
「はいはい、割り込まなくても在庫は十分ございますからねー」
「不正に入手しようとしたり転売などをしようとすると、厳正なる罰が与えられるからな!」
冒険者ギルドの一階の一角では、アミティ、ネビュラちゃん、ウルフェの三人が冒険者たちに大量にポーションを配布しています。
かつてシア時代に作っていたものではなく、ただの水に私の治癒力を注ぎ込んだだけの簡易複製版ですが、効果はそれなりにあるので問題ないでしょう。
ウルフェたちにポーション配布を丸投げし、私は冒険者ギルドの三階にある貴賓室でエドワードとともに別の作業に入っています。
「あの……このわたくしめと配下のものにもユリ様のポーションを下賜いただけますでしょうか?」
「よいでしょう、忠実なる下僕エドワード。あなたには特別にこの特製ポーション『乙女の黄金水』を与えますわ」
あれ、こんな名前でしたかね?
自分で口にしながらなんとなく違うネーミングのような気がしますが──まぁ別に名前が違ったところでたいした問題はないでしょう。
「お、おぉぉぉ……この黄金色の輝き、もしや……」
「ただのポーションですわ」
「ぬぅぅうぅぅ、我慢ならん! 今すぐ飲ませて頂きます! ぬっふー!!」
なぜか興奮気味なエドワードが、鼻息荒くポーションの蓋を開けています。そんなにポーションが飲みたいのですかね?
怪我をしてないのにポーションを飲んでも意味などないのですが、まぁ色々と協力してくれているので不問といたしましょう。
ごくっ……ごくっ……一気に飲み干すエドワード。
「ぬぅぉぉおーーーッっ! 滾る、滾るゾォォォーーッ!! なんという力! これがユリ様の黄金水……すごいぞぉぉおアァォァァァァぁぁ!!」
そんなに効果ありましたかね?
確かに、ただの水のポーションに比べてこの黄金水のほうは多少は薬草を入れているので、基礎能力向上の効果はあったかと思うのですが……ここまでの効果があったとは意外です。
とりあえず一人で興奮しているエドワードを無視して、私は大きなテーブルの上に【エメラルドとルビー】ダンジョンのマップを拡げます。
……ここに私の魔力を流し込んで、と。
すると、ポツポツとマップ上に白い点が浮かび上がってきます。
「はぁ、はぁ……おやユリ様、これは?」
「元に戻りましたか、エドワード。これは『ダンジョン攻略マップ』ですわ」
私は浮かび上がった白い点を指差します。
「私はポーションの所有者がどこにいて、いつポーションが使われたのかを把握できるのです。ほら、ここが光りました。おそらく罠にでもかかったのでしょう」
他にも色々と光が反応を示します。かなりの頻度でポーションが使われているようですね。さすがはエクストラダンジョン、罠の質の悪さもモンスターの強さもかなりのもののようです。
ですがおかけで続々とポーションが利用され、結果として私の魔力がぐんぐん上昇していきます。ポーションによる遠隔地治癒魔法は、実に素晴らしい効果をあげていますね。
「なんと……ユリ様はどこでどのようにポーションが使われたのか、すべてお分かりになるのですね!」
「ええ。ほら、こちらの光の集団があなたの手持ちの公務員たちです。さすがですね、かなり統制が取れていますわ」
エドワードと会話を交わしながらも、発生している状況から踏まえたダンジョンの罠などの位置情報を次々と書き込んでいきます。
そしてぞくぞくと増えてゆく魔力──あぁ、素晴らしいですわ。
現場におらずしてダンジョンの地図の最新化を行う。
ついでに、私の魔力も向上して一石二鳥。
これぞ──ユリィシア流治癒術・亜流奥義 《ポーション・マッピング》。
そうです、私は──冒険者ギルドに居ながらにして、ダンジョンの攻略を進めていたのです。
「さすがはユリ様です。そこに痺れます、憧れますぅぅう! イエス・フランドゥム!!」
「ありがとうございますわ、エドワード」
心から感服した様子のエドワードに、私はアイドルスキルで新たに獲得した《セクシー・ウインク》を返したのでした。




