102.ダンジョンを攻略する、ということ
ここからエピソード14となります!
ウルティマが去ったあと、しばらくして準備を整えに散っていたウルフェたちが食堂に戻ってきます。
全員でテーブルについたところで作戦会議開始です。
「私たちはこれから──ダンジョンを攻略します」
「おお! ダンジョンに突っ込むのですね! 行きましょう! 今すぐ行きましょう! あぁ、腕が鳴るなぁ!」
「いいえ、すぐには行きませんわ」
鼻息荒くいきり立つウルフェをすぐに制します。
まったく、これだから脳筋は無策でいけませんね。
「えっ? すぐには行かないのですか……?」
「ええ、すぐには行きませんわ。なぜなら今回私たちが行うのが──ダンジョン攻略だからです」
「攻略とは──探索とは違うのでございますか?」
「違います。ダンジョン攻略とは一言で申し上げると──ダンジョンの真の最奥に到達することです。そこに、答えがあります」
「……なんと、さすがはお嬢様! 既にダンジョン暴走の原因に心当たりがおありなのですね!」
「ほぉおぉ……最奥に答えがあるリュね」
さすがにコアを喰う、とは言えないのでぼかして伝えたのですが、どうやらウルフェたちは都合よく解釈してくれたみたいです。
ちなみに私、【ダンジョン暴走】の原因も解決策もさっぱり分かりませんからね? そもそも解決するつもりもありませんし。
目標を共有したところで、次は知識の共有です。
ダンジョンに挑む前に──まずはメンバー全員に『管理された』ダンジョンの基礎知識を与える必要があります。なにせまともに管理ダンジョンに潜るのはこれが初めてですからね。
「この中で管理ダンジョンに詳しいのは──ネビュラちゃん、みなに管理ダンジョンについて知ってることを説明してあげてください」
「はっ、ではボクから説明さしあげます。そもそもダンジョンは、いつどこで発生するかも不明です。ですが、今のこの世の中では人々のためになくてはならない欠かすことのできない存在となっております。その理由は──ダンジョンが産出するカードにあります」
ネビュラちゃんが取り出したのは、一枚のカード。
そこには【パン】と書かれた文字と、パンのイラストが描かれています。
「これがダンジョンカード……通称カードです。ダンジョンでは宝箱やモンスターからこのカードが輩出されます。ちなみにこのパンのカードは、カスダンジョンと呼ばれる星無しダンジョンで手に入るものです。価値は低いですが保存性があることから、これでも通常のパンの10倍くらいの値段で取引されています」
ダンジョンに潜るものたちは、このカードを手に入れるために潜ります。そしてダンジョンのランクは、モンスターが落とすカードや宝箱から出る魔法道具の質によって決まるのです。
「モンスターの強さとダンジョンの難易度、そして輩出するカードのレアリティは必ずしも一致しません。ですが基本的には貴重なカードや魔法道具を輩出するダンジョンほどモンスターは強く、難易度が高くなる傾向にあります。ダンジョンは──危険が伴うものの、貴重なアイテムを産出する重要な資源なのです」
ゆえに、星付きダンジョンのほとんどは、国家か大企業によって所有され管理運営されています。これを──【管理ダンジョン】と呼びます。
通常ダンジョンを所有する国家などは、ダンジョンから資源を獲得するために、探索業務にあたるもの──公務員や探索者を自前で確保し、所定の給料を払ってカードや魔法道具の回収をさせています。
公務員や企業の探索者は、徹底的に組織化され効率化された組織で、たとえ難易度の高い三つ星ダンジョンであっても、生存率は99パーセントを超えるそうです。
ただ、それは彼らが強いということを意味しているのではなく、安全策を取って奥深くまで探索していない結果の産物です。なにせ無理をしなくても、十分に資源類が手に入るのですから。
とはいえ手に入れたカードや魔法道具は基本的にすべてダンジョン所有者──すなわち国家や企業が持っていきます。公務員や探索者は、所定の給料や良い発見をした時に出る臨時給料を貰って満足しているのです。
安全に探索して最低限の資源だけ手に入れてそこそこの給料を貰って満足する……私にはあまり理解できない生き方ですね。
「ゆえに管理ダンジョン──特に星付きダンジョンは、通常国家や大規模商会に管理されていて、一般の人たちは入ることはできません。国家公務員として潜る使命を与えられた騎士などの精鋭部隊がチームを組んでダンジョンに潜り、カードや魔法道具を発掘しているのです」
「はい、質問リュ!」
「なんでしょうか、アミティ」
「ダンジョンの最奥には……なにがあるリュ?」
「それは……わかりません。最奥到達者は一定数存在しています。たとえば非正規ダンジョン探索者──通称冒険者たちの中でSランクに昇格する条件は、ダンジョンの最奥に到達することだと言われています」
たしかに【光の翼】のメンバーも、ダンジョン最奥到達者の称号を持っていましたね。
「ですが、ダンジョン最奥を目指すのは彼らくらいです。その他のほとんどは、さほど深くまで潜らず発掘をしています。このことから、おそらくは……ダンジョンの奥にはなにもないのではないかと推測されます」
ネビュラちゃんの言う通り、ダンジョンの最奥には何もありません。
なぜ知っているかって? それは前世において個人所有していたダンジョンの最奥まで潜ったことがあるからです。ですが、そこには行き止まりがあるだけでした。
以降私は、ダンジョンにおいては必要なアイテムを獲得するだけで、最奥を攻略することはありませんでした。だって時間の無駄なんですもの。
その考え方は、国家や企業も同じなのでしょう。
リスクを負って奥深くまで潜っても得るものがないのであれば、誰だって命に危険が及ばない範囲で発掘を行ないます。
あまり無理をせず、ダンジョンを鉱山のように扱い、資源や魔法道具といった莫大な富をなるべくローリスクで手に入れる。これが──管理ダンジョンの姿なのです。
ですが──師匠はさきほど私に言いました。
「ダンジョンコアを喰え」と。
喰う、の意味はよくわかりませんが……とりあえず師匠の言葉は、この世界のだれも知らない事実──すなわち『ダンジョンにはコアがある』ということを明確に示唆しています。
名前から推測するに、ダンジョンコアとはおそらくは──莫大な魔力の塊なのではないでしょうか。
それをどうにかして喰うことができれば、私はどれだけの成長を遂げることができるのか……想像するだけでゾクゾクしますね。
しかもどうせ喰うのであれば、星なしダンジョンなどではなく、ハイクラスダンジョンのほうが良いに決まっています。しかも都合が良いことに、今は【迷宮暴走】のおかげで三ツ星ダンジョンに出入り可能です。
この絶好の機会を逃す手はありません。
「なるほど……お嬢様は、異変が起こったダンジョンの最奥において何かが起こっているのではないかとお考えなのですね。ゆえに攻略する、と」
「ええ。ですがそれは最終的な行動です。まずはそのための下地作りが重要になります」
大量のモンスターが湧くダンジョンに四人で挑むなど、不可能ではないかもしれませんが極めて非効率です。
以前一人で攻略したときは、アンデッドを大量召喚して物量と力技で押し切りましたが、未だ『万魔殿』に至る門が開いていない現時点では切れない手札です。
「ですので、他の冒険者たちとの連携が不可欠になります。そこでウルフェ、仕入れてきた街の状況をお教えなさい」
「はっ、お嬢様。先ほど冒険者ギルドに顔を出してきたのですが──どうやら問題が発生しているようです」
「問題?」
「ええ、なんでもサンナミ領主がダンジョンのマップを開放しないのだとか」
ダンジョンマップを非公開、ですって?
ウルフェが持ち込んだ情報によると、今回問題が発生しているダンジョン【碧玉と紅玉】は5階層あるそうです。そんなに深いダンジョンをマップもなしにアタックするなど、どれだけ攻略に時間がかかるかわかりません。
それはいけません。攻略が極めて非効率になってしまいます。
……仕方ありません、ここは私が動くとしますか。
「わかりました、私が出ます。あとは──私にお任せください」
「えっ? お嬢様はサンナミ領主とお知り合いなのですか?」
いいえ、顔も名前も知りません。
ですが、私には最強の武器があります。
そう、師匠との出会いによって、私は新たな力に覚醒したのですから。
「だ、大丈夫なのですか、お嬢様?」
「問題ありませんわ。……ねえウルフェ、あなた知ってまして?」
私はウルティマ仕込みの秘奥義──必殺・セクシーウインクを飛ばします。
「私って──とっても可愛らしいんですのよ?」




