第89話 罪と罰
すいません、ここからハルが容赦なくなります。いつもののほほんとしたハルの面影は見る影もありません。そして、少し暴力? シーンもありますご注意ください。
あと、今頃になりますが段落が作れるようになりました! これで少しは見やすくなるとは思います。
俺がリタの命が絶えたと知ったのは警戒眼からの報告のおかげであった。警戒眼は必死に俺の右目をクリクリと動かしている。とてもうざったるい。
「・・・これはマズイ」
そんなヤミの声が聞こえたような気がした。
「あぁ、まずいよな。不味すぎるよな。こんな吐き気のするような茶番は初めてだ」
これが声を発するとなにやら近くからペキリという音が鳴った。それと同時に右目に感じていた違和感も消え去った。俺はアイネやその他の島民全てに隠滅をかけた。
「さてと。お前が囲いの魔女ってやつか?」
俺は腕の中でプルプルと震えるアイネを地面に捨ておき、さっきまで猿を思わせるほど馬鹿みたいに魔法を乱射していた女に向き直った。
するとその女はくるっとこっちを向いて下衆な笑みを浮かべる。
「あらぁ? どうしたの? お嬢ちゃん? まぁっ! 右目にバッキバキのヒビが入ってるわよ!? もしかして私の魔法が当たっちゃったのかしらぁ!? ごめんねぇ」
妙に甘ったるい、それでいてモノが腐ったような酸味を思わせるババアの香水が思い浮かぶような猫撫で声で返事をする。大層吐き気を催す。
「さぁ? 俺に魔法は効かないからな。俺が知らん間に掻きむしってたんじゃないか?」
俺がてきとうな返事を返すと女はクスクスと笑い、俺に火の玉を飛ばしてくる。俺は勿論避けることなどせず体で受け止める。すると、火の玉は俺の体に触れるやいなやスっとその姿を宙に溶かす。
「・・・あらっ! ほんとに魔法が効かないようねぇ」
余裕のある笑みを崩さぬまま、女は拍手をして俺を褒め称える。俺はその音を右から聞きながら丸焦げになってしまったリタの元へと向かう。
「ごめんね、リタ」
俺はリタにそう告げた後、土属性の魔法でリタのお墓を築いた。俺の築いたお墓はそんなに立派なものではなかった。だが、そんなことは俺にとってどうでも良いことだった。
「ふふっ。さっきの問いに答えてあげましょう。そうよ。私こそが囲いの魔女よ。本名をエリザベート・ナッツィーニと言うわ。
そんなことより! ビックリしたわ! 私の可愛い可愛い娘ちゃんを迎えに来たらいきなり転移させられちゃって! それに目の前にはあの汚らしいイエローエルフが居たの。もーっ! やになっちゃうわ! ふふっ、思わず魔法を連射しちゃったわよォ!」
ふむ。ふむふむ。つまりこいつがメリーさんを苦しませてリタを殺し、未だに俺の足にしがみついて「リタさんを助けてっ!」ってアイネに懇願させ、号泣させたヤツなのか。
「死刑」
またもや俺の顔の近くからパキリという音が鳴った。しかし、気にしない。俺は地形変更のスキルを発動し、囲いの魔女の周りの土を液状化させる。液状化、それは泥とか沼とかそんな生易しいものではない。言うなれば湖。自分の足元の地面が突然湖に変わることに等しい。
「なっ!!」
囲いの魔女は驚きの声を上げ、どっぷりと肩まで地面に身を落とす。その直後、俺は地面を固形に戻す。そして、ロストマジックを使い囲いの魔女の魔法を封じる。あまりに呆気ない決着であった。
「かっ、硬っ! なんなのよこれっ! 爆発魔法っ! 粉砕っ! ・・・なんでっ!? なんで発動しないっ・・・ま、まさかっ!?」
どうやら俺のロストマジックに気づいたらしいが後の祭りだ。もう、打つ手はないだろう。俺はゆっくりと囲いの魔女に近づいていく。俺が近づく程、囲いの魔女の焦りは増していく。
「なぁ? 囲いの魔女。お前に判決を言い渡す。勿論死刑だ。まぁ、理由は分かるよな?」
「まっ、待って! 死にたくないっ! 私っ!死にたくない!」
「はいはい、わかったわかった。んで、その死刑の方法なんだが、幻覚1000年の刑後、島中引きずり回しの後、拷問後、さらし首で問題ないよな?」
俺が言葉を紡ぐ度に囲いの魔女の顔が青くなっていく。
「俺、思うんだ。ハンムラビ法典はある意味現代日本の法律よりも人道に乗っ取ってるんじゃないかってな」
「は、ハンムラビ? 日本? 何言ってんの!? あなた!」
「なぁ? おかしいと思わないか? 殺人鬼に対する最高の刑が死刑だなんて。何人もの人生を奪っておいて、数ヶ月、いや、運が良ければ数年間の猶予がある房に入れられて仕事もせずのうのうと暮らしていけるんだぜ?」
囲いの魔女がほんのりと頷く。
「なぁ、おかしいと思わないか? 強姦魔が数十年刑務所に入って大人しくしてたらまた社会に放たれるんだぜ? 他人の精神滅茶苦茶にして人生を狂わせてもよ。
んでさ。俺はこれを全ておかしいって思うわけなんだわ。そして、この島、いやこの国では俺がルールな訳よ。そんな法律を採用すると思うか?」
もう、囲いの魔女の顔は真っ青を通り越して真っ白だ。
「てことだ。言いたいことは分かったな。つまりお前は「死にたくない」なんて言葉を口に出来るほどの身分さえないってこったな」
俺はそう言うと顔だけピョッコリ飛び出している囲いの魔女目掛けて思いっきり足を振るう。
ゴキっという鈍い音がした。囲いの魔女は首の骨が折れてしまっているのか首を傾げたままぴくぴくと震え、白目を剥き、口からは唾と血の混じった液体をタラタラと流している。
俺はそんな囲いの魔女の口の中に完全回復薬を注ぎ込む。すると、囲いの魔女に意識が戻ってくる。俺はそんな彼女の顔をのぞき込む。
「ハローっ! 大丈夫ぅ? もう1発いくよ?」
俺はもう一度足を振り上げた。すると、囲いの魔女はニヤリと口を歪め叫んだ。
「ばっ、馬鹿めっ!! ボムっ!」
俺が足を振り下ろした瞬間に魔女の周りの大地が爆風と共に砕け散る。俺が砂煙で目隠しを食らって居ると真上からまたもや火の玉が飛んでくる。俺は今度はそれをかわした。
やがて砂煙がはれると囲いの魔女は俺から10メートル程離れた位置に立っていた。
「アハハッ! アハハハハッ! 私っててんさぁい! そうよっ! 今まで使われた魔法が使えないのならその場で即興で作っちゃえば良いのよっ!
さぁっ! 行くわよ! お嬢ちゃん?」
パチン
囲いの魔女が強力な新魔法を繰り出そうとしたその時、指パッチンの音が聞こえると共に、彼女は見覚えのない場所に立っていた。
地面には芝生が敷き詰められ、右には薄い桃色の花びらを持つ小さく可憐な花を持つ並木が太陽に照らされ微かに輝いている。
左には、葉、花、全てが枯れ落ち、色さえも枯れ落ちてしまったのだろうか、真っ白なか細い幹の木達がぶうぶうと吹雪く雪の中懸命にその場に突っ立っている。
そして、真正面にはそのどちらの影響も受けそうにない小さな可愛い背中が見えた。いや、どちらかと言えばこの子に似合うのは右だろう。そんな風に囲いの魔女はただポケーっと突っ立ってただ少女を見つめていた。
すると、急にくるんっと少女が振り返る。その時の香りは妙に甘ったるかった。それと同時に囲いの魔女の顔が真っ青になる。
「やぁやぁやぁ。落ち着いたか? そしてどうだい? 新しい魔法の撃ち心地はさ。
おーっと。どうせこの世界では使えないさ。何せここは幻想郷。楽園だ。他人に危害を加えることなんて出来やしないさ。
さぁ、飲もうじゃないか。積もる話もあるだろうさ」
確かに、確かに幻想郷はこの世界の光景を言い得ているのかもしれない。確かにこの位置からみる景色は継ぎ接ぎながらも美しく、心躍るものがある。囲いの魔女はそう感じながら突き出されるおちょこを手に取って口に運ぶ。
「ぐはぁっ!? なっ、なにをっ!」
囲いの魔女は完全に油断していた。なぜかは分からない。ただ一瞬、この子ならは信用するに値するという幻想を抱いてしまった。
「あぁ、だから幻想郷ね。全く、幻なんていいもんじゃないわ」
囲いの魔女は目まぐるしく変わる痛みや不快感に耐えながらも、ただじっと据わった目で少女を見つめる。
「だから言っただろ? まずは幻覚1000年の刑だってな」
そう言うと少女はすたすたと歩いてそのままふっと消えてしまった。
「はぁ。千年ね。この光景が見られるのならそれも良いのかもしれないわ」
それほどまでにその風景は美しかった。栄華を誇るものに儚さを感じ、耐え忍ぶものに美しさを感じる。そんな風景だ。
囲いの魔女はそう呟いた後、強烈な吐き気に見舞われ、胃の中のもの全て、つまりは胃液を吐き出した。
ここまでご覧下さりありがとうございます!
いやぁ、ここにきてようやくハルの感情の起伏が出来たような気がします。いっつものほほんとしてますからね。ほんと。
高校生の頃、反抗期も終わりこれで精神が安定してくるのかな? と思った頃に来る世の中全てのものに対する否定や鬱憤が吹き出す時期。それが今のハルです。
表ではうまーく取り繕っているけれども心の奥では何だかなぁと感じている。
そんな時期皆さんもありましたよね?
あると思った方は評価ボタンおしてって下さい!(露骨な評価稼ぎ、YouTuber風)
あっ、あと前言ってた山田三郎視点の外伝もこの章が終わったら年1から月一のペースで始まります。思い立ったが吉日ってやつですね。




