第86話 クラフ島、経過報告
「ふー! やっと出来た! 今日のノルマはこれで終わり?」
「はい、ご苦労様です。ダンジョンマスター」
俺が今作り終えたのは魔道擬似録だ。なんとかマナーが身についてきた俺はもう一度魔導擬似録にチャレンジしていたのだ。
どうやら妖気だけではなくマナを使うことによっても魔導擬似録が進化してしまうようだったので、俺は魔力の状態を保てる限界まで魔力を圧縮するという作業に苦戦を強いられていた。
だが、そんなのも1日程でらくらく出来るようになったので、俺は毎日100冊程度の魔導擬似録を量産していた。そんな日々も今日で1ヶ月目だ。
獣人達も目に見えて回復してきているし、子供達も俺の邪魔をしたり、イタズラをしたりするぐらいには健康的な状態になった。
まぁ、そのイタズラ癖が最近アイネ達に向きつつあるってのが悩ましい所なのだが。
あっ、あとハリネズミもいつの間にか進化していた。真っ白な棘に真っ白な体。鼻の先と足の先だけ焦げ茶色。とっても可愛らしい。
俺は進化を機にこのハリネズミのことをユキと名付けることにした。
ちなみにユキの最近のお気に入りのお昼ね場所は俺の頭の上だ。気づいた時にはスースーと寝息をたてている。
こんなユキちゃんでも魔物としてはかなり強力な部類に入るんだそう。どれくらいかというとスーちゃんに傷を付けれるくらい。あとは、リリスやクリスとタイマンで1日張り合えるぐらいらしい。まぁ、そんなことさせる気ないけどね。
次に獣人とエルフについて。エルフは分かんない! 今、ディアンヌがせっせと働いてるからまだ解決してないんだろうね。
獣人は10歳以上の男性をエラスが鍛え、8歳以上の女性にはマーシーが生産物の知恵を叩き込んでいる。
男性の中の有望株は15歳の虎の獣人ルチャと24歳のタカの獣人ボラだ。
ルチャは爪斬撃(全属性)という、獣人にとってはとても有能なスキルを持っている。
ただし、ヒューマンやエルフにとっては使えない雑魚スキルらしいのでこの場に残っていたとの事。また魔力も多く、身体強化術の素質もあった為近距離の戦闘では抜きん出た性能らしく、奴隷でさえなければAランクの冒険者には余裕でなれる程の実力者だったらしい。
ボラはスキル:守護者の務め とスキル:司令官 という2つの優秀な援護スキルを携え、なおかつタワーシールドという身の丈程の大きさの盾の扱いが非常に上手い。
尚且つ支援魔法を得意としており、自身の耐久性を上げながら味方の援護と指示もできるという万能っぷりだ。
エラス曰く、これなら大国の騎士団の団長にはなれると言っていた。ちなみにボラがこの島に居残っている原因は生まれた時から翼に障害があり、タカの獣人なのに飛べないからだという。
次に女性。女性達は色々な魔物達の皮のなめし方や魔石やその他素材の扱い方、そして計算や文字などを教わっていた。
こちらは一人一人得手不得手あるもののみんなある程度はマスターしていて全員労働力として数えられる程にはなったらしい。
その中でもマナという狸の獣人の計算がとても速く、家事も出来て、素材の処理も完璧、性格も明るく美人な有望株で将来獣人であってもお婿さんに困らないレベルなんだそう。
みんな順調に育ってくれているようでとても有難い。ちなみに獣人の平均寿命は40歳だが、この暮らしを続けていけば50歳までは引き延ばせるとの事。健康に長生きしてほしいね。
次に、以前液体状にしたマナを混ぜた聖水は完成していない。まだマナの量の調整が上手くいかず、『マナが過剰な聖水』しか作れていない。
いや、もしかしたら混ぜる以外の方法が必要なのかもしれない。とりあえず、これは要研究だ。
そして、最後。最近メリーさんの調子が目に見えて悪い。時折1人で震えていたり、ご飯の途中で涙を流したり、なんというか情緒不安定だ。
アイネ達と共にクラフ島のダンジョンに潜る時もかなり危なっかしい場面が増えてきている。
元々はアイネと比べるのもおこがましいぐらいだった魔法の腕も今やほとんど差がない状態だ。別にアイネが劇的に変化したわけではない。むしろメリーさんが劇的に弱くなったと言っても過言ではないだろう。
これは絶対に何かある! と思ってメリーさんに声をかけるも愛想笑いを作って「大丈夫です」って言うだけなのだ。なんか心配だ。
「ということで今回はメリーさんを見張ろうと思います!」
「ご主人様、それメリーに聞こえていますよ」
俺がメリーさんの方を向くとジト目で俺の事を見つめるメリーさん。どうやら見張られるのは嫌なようだ。
「だが! 僕は! 見張るのを! やめない!」
「まぁ、ご主人様の気持ちも分かりますから私も協力しますよ」
シャルルがそういった瞬間、メリーさんの顔が絶望に染まる。どうやら俺だけならまけると思っていたが、シャルルの登場によってその希望が絶たれてしまったのだろう。
「なんで私を見張るの! どうもないって言ってるでしょ!」
メリーさんが足を踏み鳴らしながらこちらへ近づいてくる。多分本人はドシン! ドシン! をイメージしているのだろうが、実際は女の子がプリプリ怒っているようにしか見えず、とても微笑ましい。
「まぁまぁ、いいじゃないですか。あなたが何をしようとしているかはほぼほぼ見当がついていますが、ご主人様はまだ気づいてないみたいですからね。気づかせてあげるのが私の使命です」
シャルルがそう言うとメリーさんは口をパクパクさせてビックリしていた。
「そ、そんなはずないじゃない! 私の考えてることなんて誰にも分かりはしないわ!」
いや、多分そんなことないと思うよ? さっきの顔ってなんでバレてんだ! って顔してたもんね。ポーカーフェイス絶対下手なタイプだよ。
「いえ、完全に把握しきれる人がこの世に2人だけいます。
1人はご主人様。今は制御されていますがやろうと思えば可能です。2人目はルプルですね。あの子は誰の心でも一瞬で看破します。上っ面の考えも、深層心理もですね」
う、うおぉ。ルーちゃんハンパねぇ。ルーちゃんには隠し事は出来ないと思った方がいいな。
「で、でも! 今ここで出来る人は居ないじゃない!」
「まぁ、あんなわかりやすい行動をしていたなら誰でも気づきますよ。あなたが何かを企んでいるなんてね。ね? ご主人様」
「いや、俺全く気づいてないんだけど」
俺はメリーさんが心配だから見はろうと思っただけだもん。何か企んでるだなんて全く眼中になかったよ。
「えっ!? では何故メリーを尾行しようと?」
「元気なさそうで心配だったから!」
俺の返事に頭を抱えるシャルル。恥ずかしかったのか顔を赤くしてそっぽを向くメリーさん。なんかカオスになってきたな。
「まぁ、確かにメリーにとっては結構大きな企てですからね。気が重くなるのはこの歳では仕方の無いことでしょう」
シャルルがまだまだですねって感じで首を横に振る。それに反応するメリーさん。また、プリプリと怒り始めてシャルルを挑発する。
「てか、さっきから知ったような口聞いてるけどホントに私の計画知ってるわけなの!? 知ってるなら説明して見なさいよ!」
それを聞いたシャルルは1つ大きく溜息をつきこう返した。
「本当に言ってもよろしいんですね? 私はご主人様には事実を含んだ嘘を上手く誤魔化しながら伝えようとしていました。
ですが、ここで言ってしまったらそれは不可能になりますし、計画も失敗に終わりますよ。本当によろしいんですね?」
「ええ!! 知ってるんなら早く答えなさいよっ!」
シャルルが勿体ぶる様子を見て、益々挑発を加えるメリーさん。
「はぁ、分かりました。メリー、あなた今晩この島から出ていくつもりですね?」
その言葉がシャルルから発せられた瞬間、メリーさんの顔は蒼白に染まった。
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