ブリクスト陥落②
「ねぇ、ルーちゃん。ほんとに行くの? 嫌ならやめてもいいんだよ?
ルーちゃんがやめたら俺ルーちゃんのこといっぱい褒めるよ?」
俺達はブリクストに行く準備を全て整えて、あとは船に乗って出発するだけの所まで来たのだが、俺はどうしてもルーちゃんを止めずには居られなかった。
「マスター、もう決まったことです。今更ゴネても何も変わりませんよ」
「でも、ルーちゃんが」
「ルーが頑張ったらご主人様はいーっぱい褒めてくれるってルー知ってるの! だから、ルーはご主人様のために頑張るよ!」
やっぱり無理! こんな健気なルーちゃんを止めることは俺には出来ない!
「うん、分かった。頑張ってね! 頑張ったらいっぱい褒めてあげるからね」
「うん! だからご主人様もルーの勇姿見ててね!」
「分かった! 瞬きひとつもせずに見とくよ」
「ありがとう! ルー頑張る!」
あーー、ルーちゃん可愛いんじゃあぁぁぁ! 本当は、ホンットーーは! 行かせなくないんだけど可愛い子には旅をさせよって言うしね。
「それじゃあしゅっぱーつ!」
「しゅっぱーつ!」
俺の掛け声に合わせてハリボテ空母が動き出す。
ちなみに今日の船長はソラだ。ソラの運転は揺れも少なく、船酔いしてしまう人でもかなり酔いにくい。
そして、同行者はルーちゃん、海竜の巫女、ディアンヌ、ディース、シャルル、半蔵、海竜、ヤミだ。
ヤミは行きたいと駄々をこねて無理矢理ついてきた。
まぁ、ルーちゃんを応援するためのはっぴとかサイリウムとか作るぐらいなんだから多少の我儘は許してあげないとね。流石に可哀想だし。
俺達の乗っている船はヤミと俺の隠滅を重ねがけしているのでまず他の人達には見つからない。
なんか魔法をボンボン撃ち合っている海域も突っ切ったのだが、バレることも魔法に当たる事もなかった。
そして、他にはなんの音沙汰もなくブリクストに到着した。着いたのはブリクストの都、ヨームタウンだ。
ブリクストは流石島国の列強って感じで港町はとっても発展していた。まず、カンネルとは港の規模が違う。遠目で見ただけでも何十隻もの軍艦が停泊していて、でっかい大砲のようなものも取り付けてある。また、戦争中にも関わらず市場はとっても賑わっている。
だが、そんなのよりももっと目立つのは街の奥、海から離れた所にあるにも関わらず港からでも見えるほどの巨大な2つの建物。
片方は半円状のドームを用いた荘厳な建物。つまりはロマネスク様式で建てられたものだ。
こちらには何やら勾玉が2つピッタリ合わさったような紋章が飾られている。
もう片方は尖頭アーチが特徴的で、広い窓を持った建物だ。つまり、ゴシック様式。
こちらには赤薔薇の紋章が屋根に刻まれている。
「すっごい発展した国だな。そりゃ強いわけだ」
「えぇ、これ程海軍が鍛え上げられている国はそうそうありません。
また、植民地も大量に持っていますので物資も大量にあり、尚且つ陸軍もそれなりには鍛え上げられています」
うへぇ! 強すぎるだろ、ブリクスト。でもそんな国が今倒されようとしてるんだもんな。
いやぁ、怖い怖い。ショッギョムッジョッってやつだね。
「海竜の巫女、ルプル、半蔵、海竜さん、作戦は覚えていますね?」
シャルルが4人に確認を取る。
革命を起こす! と言ってもそう簡単に起こるものでは無い。
というより俺達の目的は革命ではなく、今の王家から王位継承権をぶんどることだ。
王位継承権をぶんどる方法は大まかに分けてふたつある。
1つ目は武力に任せて王様をぶっ殺して王位を奪う方法。
2つ目は外堀から埋めて言って王が王権を譲るしかなくする方法。
俺達が選択したのは勿論前者。と思いきや後者だ。
ルーちゃんの力と、海竜の伝説を使い、圧倒的なスピードで民衆を味方につけ、そのままあの王の住まう城へと突撃させる。
そう、それだけでは兵士達に民衆が押さえつけられてしまい、大量の死者が出てしまう。
そこで活躍するのが半蔵だ。半蔵は予め分身の術で分身を多く作っておいてもらい、民衆が城への突撃を始めると同時に兵士を全て拘束してもらう。ちなみに分身には変装をさせるので全く違和感はない。
そして何やかんやで城へと入城し、王に王位を譲る手続きをさせ、それが終わると同時に各国に降伏の意を伝えるということになっている。
ちなみに海竜の巫女は最後の最後に王位を譲られるだけだ。他はディアンヌとシャルルの傍でじっとしていてもらう。
「では、拙者は分身を民衆達に紛れ込ませておくでござる」
そう言って半蔵はビュンッとジャンプしてどっかへ飛んでいってしまった。まさに忍者! って感じでかっこよかった。
「さて、では半蔵も行ってしまったので、我々も動き出すとするかのぉ」
「はーい! 海竜のおじいちゃんよろしくね!」
「ほっほ、任せておけ。お主に傷一つ付けさせる気はないのでな」
「わーい! ありがとー!!」
どうやらルーちゃんと海竜もやる気満々なようだ。海竜は「この子を見てると孫のような愛着が湧いてくるわ」とか言っていた。年の離れ具合は孫どころじゃないんだけどな。
「よし! 行くぞい!」
「うん! 頑張る!」
海竜はそういうとヨボヨボの老人の姿から元の海竜の姿へと変身した。
「うおおおおおおぉ!!! なんだっ、なんだぁ!」
都に居た人々はみな街中に現れた巨大な竜に驚きの声を上げていた。が、とある声でその声は一転して賞賛の声に変わっていく。
「おいっ! あれってもしかしてっ、、、海竜さまじゃないか?」
ちなみにこれを叫んだのは男の声真似をしたシャルルだ。いや、暗殺って言ったって万能過ぎやしないかい?
そんなシャルルの声が全ての人へと伝わるのはそう遅くはなかった。変装をしている半蔵も勿論その話を拡散させているし、民衆も周りの人達にその事を伝えたりしているからだ。
そして、ある程度民衆に海竜の噂が広まったところで海竜が口を開く。
「人の子達よ、お前らは今悪しき王に利用されている! そんなお前らを今から我が契約者が解き放つであろう!
だが、まずはその王によって締められた心の鎖を解かねばならぬ! 心して聞け! 我が孫の癒しの歌を!!」
その声を聞いた民衆は盛り上がって「海竜様が我らをお救いになるんだっ!」 とか 「やっと戦争が終わるのかっ!」とか色々言って騒いでいる。
そして、海竜の声が直接聞こえていない民衆達も色々脚色された話を聞いて盛り上がる。
おい、海竜。ルーちゃんのこと孫って言ったろ。後で説教な。
「じゃあ行っくよー ミ☆ No.SIX 破魂の歌!」
そんな中始まるルーちゃんの歌。それはなんとも言えない歌だった。文字に出来ないような歌詞、何となく不安を煽る曲調。そして、まったりとしたぬるいリズム。だが、どこか惹かれるものがある。
だが、輝きと呼べるようなものはどこにも見当たらない。アイドルのルーちゃんが歌うにはあまりに暗すぎる。
実はそれがルーちゃんの能力の中の一つ。それは歌で人の心を動かすというものだ。また、その効果は歌により異なる。
そして、今回選んだ楽曲ナンバーはSIX。曲名は破魂の歌だ。この曲を耳にしたものは正気を失い、ルーちゃんの指定した人物の言いなりとなる。
今回指定したのは勿論海竜の巫女。民衆達の騒ぎ声はルーちゃんが歌いだしてから数秒で全てなくなった。そのせいで街には異様なまでの静けさが訪れる。
そんな中、隣に居るディアンヌがガタガタと震えるディアンヌ。
「ディアンヌ! 大丈夫!?」
「ま、不味いですね、、、寒気が抑えきれません」
そんなディアンヌを見てシャルルが口を開く。よく見るとそんなシャルルもディアンヌよりはマシだがプルプルと震えているのが分かる。
「えぇ、これは耳栓をしてきた方が良かった見たいですね。ほら、海竜は耳毛を沢山生やして栓をしています。
半蔵は? あっ、無事そうですね。何人か城に向かって走り出しています」
どうやら2人はルーちゃんの歌に怯えているようだ。確かに夜、お風呂で聞いたら呪われそうな曲だもんね。
そんな状況でもヤミは震えながらもサイリウム振ってるからルーちゃんへの愛は本物のようだ。ルーちゃんのファン第二号として認めてやってもいいだろう。
そんなルーちゃんの歌も終わっていよいよ物音ひとつしなくなった。そんな中、響き渡る海竜の巫女の声。
「ブリクストの善良な市民たちよ! 今こそ革命の時! あの穢れの王を引きずり下ろす時が来たのだ! さぁ、こぶしを掲げよ! 王の住まう城を叩き潰すのだ!!」
海竜の巫女がそういうと、民衆達はノロノロと腕を上げて城の方へと歩き出す。
その先頭には海竜とその上で座っているルーちゃん。その次に海竜の巫女と続いている。この光景を言葉で表すならば亡者の行進という言葉がピッタリだ。
そんな世界一覇気のない革命軍が少しずつ城へと近づいていく。
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