第62話 ルーちゃん誕生!
「ルプル殿が孵ったでござる!」
いや、タイムリー過ぎるだろ! なんでこんなタイミング良く孵るんだよ! 神の思し召しか?
あっ、そういやディースも神だったわ。
「えっ? 早すぎませんか? シャルルとヤミはなんて言ってますか?」
「シャルル殿によるとルプル殿が無理してマナを吸いまくって孵化したと、ヤミ殿はルプル殿が主殿のために急いだと言っているでござる。
なにかあったでござるか?」
「まぁ、あったっちゃああったけど」
「そうでござるか、とにかくこれ以上待たせるとルプル殿が暴走するでござるな」
「分かった、今からルーちゃんのとこに行けばいいんだね? どこに居るの?」
「案内するでござるよ」
てことで一時ブリクストについての話し合いは取りやめになり、俺はルーちゃんとのご対面、ディースとディアンヌは海竜の巫女への対応という感じに分かれることになった。
「シャルル殿、主殿を連れてきたでござる」
「ルーちゃんが孵ったってほんと!?」
「えぇ、正確には今から孵る所なんですけどね」
そう言ってシャルルが指さした先には卵と化したルーちゃんが微妙に揺れているのが見えた。
心なしかヒビが入っているようにも見える。
「後どのくらいで産まれるの?」
「それはヤミに聞くのがいいでしょう」
シャルルがそういうとルーちゃんをじっと見つめてたヤミがとてとてと駆け寄ってくる。
「私になにか用?」
「いや、ルーちゃんはあとどれ位で産まれるのかなぁって」
「それならあと5秒で産まれる」
「えっ!? ほんと?」
「嘘」
「ひどいっ!」
「でもあと数分で産まれるのは事実」
パリッ
ヤミがそう言った瞬間ルーちゃんがいきなり光始めた。まるで裸電球を間近で直視しているような眩さで思わず目を覆ってしまう。
「ねぇ、ヤミ。ホントに5秒で産まれたね」
「さすが私、ルーちゃんの事を知り尽くしてる・・・!」
「1回嘘って言ってなかった!?」
「それは主の聞き間違い」
そんなくだらない話をヤミとしている間に徐々に光が収まっていく。
そして、そんな光のなかから現れたのは神々しい真っ白な翼を持ち、赤色の濃いピンクの髪をツインテールで伸ばした女の子だった。
服はゴッリゴリのアイドルって感じでピンクと白を基調としている。
「お久しぶりっ! ご主人様っ! 改めて自己紹介するね! ルーはアイドル天使のルプルですっ! ルーちゃんって呼んでねミ☆」
ル、ルーちゃん? ルーちゃんなのか? ものすっごいツッコミたいところ沢山沢山あるんだけどさ・・・
「あっ! ご主人様ルーの可愛さに声も出ない感じーっ!? ルーちゃん嬉しいなぁ!」
「いや、違ぇよっ!!」
「えっ!? ご主人様、ルーちゃんのこと嫌いになっちゃったの? うぐっ、ひぐぅ、うわぁぁぁぁん! ご主人様のバカァァァ!!」
「違う! それは絶対違うから!」
でも、面倒臭いな。
「ほらっ! 面倒臭いんでしょ! ルーのこと嫌いなんでしょっ!!」
「えっ!? 心読めるのっ!? じゃあ、嫌いって言うのも俺の心読んで言ってるのか?」
「・・・読んでないよ、だって怖いもん」
ルーちゃんが騒ぐのをやめて、しゅんとして俯いてしまった。
「ルーちゃんのことは嫌いにならないし、今でも大好きだよ?」
「ほんと? ルーが心読んでも大丈夫?」
「うん、大丈夫だから読んでみてよ」
なんか、告白してるみたいではっずいなぁ。それになんだよ! 心読んでみてよって! 臭すぎるだろ! セリフが臭すぎるだろ!
でも、ルーちゃんの為なんだ。仕方ない。耐えろ、俺。泣かせちゃったのは俺なんだしな。
「・・・ほんとだぁ、ルーのこといっぱい好きなの伝わってきたぁ!」
「ねっ? ルーちゃんを嫌うことなんてないんだから安心してね?」
「うんっ! ルーもご主人様のことだーいすき!」
そう言ってルーちゃんは俺の胸に飛び込んで来る。俺はその頭をゆっくりと優しく撫でる。
ふと気がついて周りを見ると、そこには手で口を抑えて吹き出すのを堪えるシャルルの姿が。
「心を読んでみてとかっ! ぶふっ! くさっ!」
やめてっ! 心抉らないで!!
一方ヤミはいつ準備したのか分からないが、ピンク色のはっぴを来て、『ルーちゃん命!』と書いたハチマキを巻いて、ピカピカ光るピンクのサイリウムをルーちゃんに振っていた。
時たま「ルーちゃんサイコー!」と言っていたのが少し面白かった。
「あっ! そうだ! ルーね、ご主人様の困った感情っていうかなんというかね、そんな感情を感じたから早く産まれてきたんだよ!」
あっ、そういえばヤミがそんなこと言ってたって言ってたな。まぁ、もちろんここは知らなかった体で甘やかしまくるんだけどね。
「そうなんだ! ありがとね、ルーちゃん!」
俺はルーちゃんの頭を思いっきりナデナデする。ルーちゃんは嬉しそうに「キャフー!」とかいってもっともっとって強請ってくる。
俺がそんなことを数分間し続けていると後ろからディアンヌの声が聞こえてきた。
「全く、いつまでやってるんですか。マスター!」
「ディアンヌもやって欲しい?」
「っ遠慮しておきます。それでブリクストの件についてなんですが」
「今だけはその話しないで! 俺はルーちゃんと戯れて現実逃避するんだい!」
俺達がそんなやり取りをしているとルーちゃんが割り込んでくる。
「それならルーが何とかするよ! ご主人様!」
キラキラとした瞳で俺の方を向いてくる、ルーちゃん。それに「もらった!」とばかりに飛びついてくるディアンヌ。
「そうですね! きっとルプルがその問題をちゃんと解決したらマスターはいっぱい褒めてくれますよ!」
あっ! 余計なこと言うな! ディアンヌ!
「ほんとっ!? ご主人様褒めてくれるの!? ルーやる! ご主人様からご褒美もらう!」
「ルーちゃん! 俺はルーちゃんがそんなことしても」「褒めない気ですか?」
「ルプルがこんなに楽しみにしてるのにマスターはその楽しみをルプルから奪うんですか?」
「ぐぬぬぅ!」
確かにルーちゃんはもうやる気がぶんぶん漲っている。いま、止めちゃったら相当ガッカリしてしまうだろう。でもっ! でもっ!
「マスター、私はルプルに傷ひとつ付けさせるつもりはありません。
もし、かすり傷ひとつでもつ出来たら一瞬でルプルをこの島に戻して、私の腕1本を献上することを誓います。なのでどうか! ルプルを貸してください!」
そう言ってディアンヌは俺に向かって頭を下げる。
「いや、いやいや! 腕1本て重」「軽すぎますね」
俺の言葉を遮って来たのはシャルルだった。
いや! どう考えても重すぎるだろ! シャルル! 分かる? 腕! 分かる? 1本だよ? 腕って2本しかないんだよ?
「まぁ、ご主人様の気持ちも分かります。ですが、ディアンヌの今行おうとしているのはご主人様への裏切りなのです。それでご主人様の大切な仲間を傷つけたなら命を落とすべきでしょう?」
命? なんで? 重すぎてちょっとよく分からないなぁ・・・
「いや、そもそも裏切りって」
「えぇ、その通りです。私のやろうとしていることは裏切りです。私たちの生まれた理由。それはマスターの『望むべき幸せ』のための手助けをすることです。
ですが、今回私は私欲のためにマスターの所有物を勝手に用いようとしています。これは裏切りでしかありません。
と、なると私は生まれた意味を無視している訳ですから、やはりシャルルの言っていることは正しいのです」
「それでも命を落とすのは重すぎる! それにそんなこと俺は望んでないし! それは幸福でもなんでもない」
「えぇ、ご主人様にとってはそうですが、ディアンヌにとっては違います。生きる意味の否定。それはそっくりそのまま死を表します。
つまり、ディアンヌにとっては裏切りを行った時点で生きる意味などないのです」
シャルルとディアンヌが言っているのはおかしい。でも反論出来ない。
何故なら俺の世界にはそんなことなかったから。生きる意味を決められて、それを知っていて、それを裏切った生物なんて存在しないからだ。
シャルルとディアンヌの言っていることはある意味正しいのだろう。自分の生きる理由を否定した。ならば死ね。幸福追求権とかの概念が抜け落ちているこの世界ならば全くおかしいことではないのかもしれない。
「でも、ここでは俺がルールだ。そんなことで死ぬなんて俺は許さない」
「じゃあ、何で償えば良いのですか? もし、ディアンヌが万が一にもルプルを死なせた場合どうするんですか?」
「ルーちゃんは死なない。さっきルーちゃんのスキルを見た時に確信した」
「まぁ、、、そうですね。では、もし傷つけた場合は?」
「デコピン」
「はい?」
「傷の数だけ俺の本気のデコピンがディアンヌに炸裂する」
「それはご褒美ですか?」
「今なんか言った?」
あれ? シャルルってドSなイメージがあったんだけどなぁ。
「いえ、なにも。はぁ、まぁそれがご主人様の『望み』なのでしたら、私はそれを支援するまでです。ディアンヌ、覚悟して下さいね。キズはひとつ残らず数えますから」
「・・・はい、分かりました」
ふぅ、これでこの島で血が流れることは無さそうだな。ほんと、そんなに深く思い詰めなくてもいいのに。どうしてもというなら寂しいけど島から出ていっても俺は許すつもりなんだけどなぁ。
俺がそんな事を考えていると半蔵が俺の傍によってきて小さな声で囁いてくる
「主殿、間違えても今考えてたことは口にしてはいけないでござるよ。
今はそれどころじゃなく、聞こえてないみたいでござるがそれをシャルル殿達が知れば収拾がつかなくなるでござる」
「えっ!? 半蔵って心読めないんじゃ」
というより収拾がつかなくなるってどういうことだろう? もしかしてみんなこんな島が嫌ででていっちゃうの!?
「読めるでござるよ。ただ、主殿には事情があって隠してただけでござる。
あと、収拾がつかないというのは、まぁ見てて欲しいでござる」
半蔵はそういうとディアンヌに注意しているシャルルに向かって何やら耳打ちした。
「嘘をつくなっ!」
その瞬間、シャルルは半蔵の脇腹に思いっきりアッパーを食らわせた。そして、倒れ込む半蔵の顔に思いっきり蹴りを入れる。その反動で浮かび上がった半蔵にトドメと言わんばかりの金的。
半蔵は股間を抑えてピクピク痙攣している。あれ玉潰れたんじゃねぇか!?メディーーック! メディーーーック!
そして、再びシャルルを見るとその顔は涙で濡れていた。その顔のまま、俺の方へずんずんと近づいてくる。そして、俺の目の前まで来ると俺をぎゅっと抱きしめた。
「ご主人様ぁ、どうか私に出ていっても良いなどと言わないでください。お願いしますから・・・」
おい! 半蔵! その言い方だとニュアンスが違ってくるだろうが!
なんかクビにされたみたいになってるじゃねぇか! でも、その事伝えてもこのままだったら怖いな。完全に否定しておこう。
「いや、そんなこと言ってないから!」
「ほんとですか?」
「うん! 絶対! 命かける!」
「・・・分かりました、半蔵なんかクソ喰らえです」
もうクソ食らう気力すら残ってないと思うぞ。
シャルルが泣きやみ、ひと段落した所でディアンヌが俺に声をかけてきた。
「マスター、もうそんなこと言わないでくださいね? この島から用事以外で出ていくというのは私たちに取ってそっくりそのまま死を表すのですから」
俺はこのディアンヌの言葉でもう二度とそんなこと考えないでおこうと誓った。
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僕も10歳ぐらいの頃生きる意味ってなんだろうってよく考えてました。
でも結局そんなのあるはずも分かるはずもなくて途中でそんな自分がバカバカしくなってやめた思い出があります。
でも、ディアンヌやシャルル達にはそれがある。だから価値観もこの世界とは全く異なるのでしょうね。




