1-9 会議と本命
「これより会議を始める」
翌日、昼食後に王都から来た全員そろっての会議だ。
「執政官として、私ハークが進行を務める。報告書は一日で読みきれなかった、貴官らの働きは素晴らしく敬意を評したい。また私の読みの甘さを笑ってほしい……量が多かったな」
少しばかり笑いが漏れたので、これで軽い挨拶は済んだだろう。
「たまにおかしなことを言い出すかもしれないが、私は以前は王宮の書記官でした。いろいろ足りない責任者の赴任一日目だと大目に見て頂きたい」
「大丈夫ですよ先輩、違った、執政官。私が皆さんにいかにハーク様が有能か語っておきましたので」
「……ハルーシル、後で部屋に来い」
胸を張った後輩を睨んでおく。これで茶番は終わりだ。
順次口頭での報告と、報告書を照らし合わせながら状況を頭に入れていく。
行政や地理などについては素人であり、付け焼き刃で王宮で勉強はしてきたもののやはり足りない。途中何度も聞き返したり戻ったりと、文官たちには手間取らせてしまった。
ここに居並ぶ文官たちは、エリートである。
元々は王宮の領地関連の担当官だったり、財務大臣の側近とも言える人材が、英雄の派遣ということで名分がそろい同行が叶ったのだ。
つまり大先輩に向かって長官だと振る舞っているので、胃が痛いルベルドだった。
報告があらかた終わり、それだけでもゆうに一刻半かかった。
次に話し合うのは、何をすべきかという基本方針である。
だが――
「……やはり、治安かと」
「いえ、配給体制と支援取り付けかと」
「町の復旧では?これでは指令体制の構築すらできません」
もはや議題が領地経営どころか、復興の内容である。
急務の問題しかなく、どれを一番に手を付けるべきかというそれだけですら紛糾した。
「……今日のところはここまで」
次第に煮詰まり、話が平行線になりつつあった。
「道筋は見えたと思う。そこで……」
じっくり議論すべきかと思うが、時間が惜しい。
ここは早くも執政官の権限を使って強引に取りまとめた。
主に話に上がっていた、配給と支援の体制構築、治安……主に盗賊への対策、疫病対策、この3つが火急速やかにすべきこと。
対策を各自提案すること。
会議はしばらく毎日同じ時間に行い、参加できるものはできるだけ席につき、提案書は随時受け付けるということ。
ほとんど命令というかたちになり、緊張で冷や汗が止まらない。なにせ、人生初の命令である。本来なら目上の文官に向かって。
「ただし、代官と執政官を除き、明日から順次二人ずつ、2日間の休暇を取ること」
ざわめきが一瞬広がった。
「これからなのに、もう疲れていてはこの後が持ちません。はやっている疫病のこともある、調子が悪ければ素直に申告し適宜休んでいただきたい」
「しかし……」
「しばらくこの人員でやるしかない。王宮もおそらく報告後には対策を考えてくれるだろうが、動きは遅いと睨んでいる。だから、少なくともそれまでは誰ひとりとして欠けてもらっては困るのです。これは危機管理です」
「……承知しました」
一番地位が高い財務官が了承してくれて、ほっとした。無理をして誰かに倒れられて長期療養などスケジュールに入れたくない。
(わりと王宮の人間はこのあたりが意識が低い)
裕福だし、医療などが整っているせいで、倒れたところで食って1日寝れば治るというような強行軍をしがちなのだ。そんなことをこんな戦後の土地でやってしまえば傷病人まっしぐら……と、従軍したことがある文官や騎士上がりの知り合いに聞いて心に留めておいてよかった。
しかし整った生活ができる王宮で倒れるのが日常茶飯事というのも何かおかしくはないか。ルベルドも実のところ心当たりがあるだけに、気をつけたい。
ともかく、聞きたいことはほぼ聞けたし、伝えたいことも伝えられたと思う。
初の会議が終わった。これは軽い肩慣らしである。
今から――執政官としての最大にして最速ですべき仕事に取り掛かる。
王宮への報告書である。
先に来て調べてくれていたハルーシルたちの報告書をもとに、さらに分かりやすくまとめ、いかにひどいかを情に訴え、今後の国からの支援をいかにどれだけもぎ取るか、自分の筆致と文章力にかかっている。
執政官として、文官人生でも一二を争う大仕事であろう。
(がんばれ俺、メンディズークの未来は俺のペンにかかっている)
――自分にしか聞こえない内心ですら、ふざけていないとプレッシャーに負けそうになるくらいだ。
しばらく会議と緊急事態以外はこもるから、食事は部屋に運んでほしいと執事に頼み、愛用の羽根ペンを荷物から取り出した。
(そういや荷解きも……まあいいや)
ともかく時間が惜しい。
この報告書を王宮に上げなければ、何も始まらない。
領地にはまだ数千人の人間が明日をも知れぬ命として残っている。彼らが救われない。
――その後、ルベルドが4日間不眠不休で仕上げた報告書は『領地行政の革命の嚆矢』と呼ばれ、文官の手がける書状の手本と長く評されることになる。




