1−21 王宮からの返答は
町長と、不明団体による代官襲撃は、町にも広められた。
結果、またもや領事館取り囲みなどが行われたわけである。
町長と司祭――黒ローブだ――を返せ、と。声を上げながら取り囲まれ、しばらく放置しておいたが、頃合いを見計らって数人捕縛し、解散を命じた。
ひとが集まっていた廃屋は集会所兼礼拝堂だったらしい。町の信者もだが、国外からやってきた関係者の根城であり、町長や商隊兼連絡係が赴くのも活動の一環だった。そこも即座に封鎖した。
商隊は、周辺村に滞在しているのは知っている。捕縛するか逃すか、今は意見が分かれていて足止めに騎士を送ったところだ。
地方の小さな町では国の役人に逆らうということがどんなことか分かっていないのもあるが、それだけ町長のことを大切に思っていたのだろう。
同情だけではなにも解決しない、だが、少しばかりやるせない。
「……どうして黙っていたんです?」
これもやるせないことなんだろうなと、執務室に呼んだ執事とメイド頭を眺めた。
「言葉もございません」
「申し訳ございません……」
ふたりとも、沈鬱な表情だ。
「少なくとも、正直に答えてくれていたら、代官殿を危険にさらすことはなかったかもしれません」
何度か、館の使用人にも町についての事情聴取を行っていた。
意図的な隠蔽、あるいは嘘は、遠慮してほしかった……家族や、町の人間をかばいたかったのだとしても。
彼らが黙っていたのは、かの邪教と町長から、領事館の内部事情を報告しろと言われ、それを断ったという事実。
要はスパイ活動を断ったというのだ。
町を庇ったと同時に、主人に義理立てした彼らは板挟みになり、それで館の使用人全員が町からの爪弾きに遭ったということなのだ。
(苦しかっただろうな)
話を持ちかけられたのはこのふたりで、ほかの者は知らないのだという。
せめてその背任行為を促されたという事実さえ、答えてくれていれば。
「貴方たちの行為は撹乱だ。執事とメイド頭という誰よりも代官殿に従わなければならない立場で、これはあんまりです。……このままにはしておけない」
ふたりは、深々と頭を下げる。
「執事は侍従長、メイド頭はパーラーメイドに。後任はドランダント殿付きの執事とメイドから選任する」
「は……」
驚いたように一度頭を上げかけた彼らに、間髪入れず、それと、と続けた。
「人手が足りない。新しく人を入れたいので、その募集と選考、教育を任せる」
「……!かしこまりました」
「誠心誠意、努めさせていただきます」
彼らは事実上の降格。さらに仕事も増やしたのにうれしそうなのは、謎である。
後日理由を聞くと、解雇されなかったことがまず予想外であり、どうやら王都から来た使用人というのは格が違うらしく、それと同等かそれ以上の差配権限を持つことに気が引けていたらしい。けしてドランダント邸の人間と仲は悪くないが二重体制であったこともあって、それが解消されることにむしろほっとしたようだ。
なかなか人事も難しいことだ。
「で、予想通り英雄殿は部屋から出てこない、と」
「すみません……」
代官の部屋の前で、エミリオが肩を落としている。
まあ、言わずもがな、昼間の『大活躍』のせいだろう。
何がどういう心理で、人前に出てこれないほど落ち込むのか。
今までどおり、当たらず触らずにしていれば、おそらく大丈夫だろうけれど。
(また助けられたってのに、歯がゆいぜ)
今思い返してもゾッとする。
あの場にドランダントがいなければ、今頃ルベルドも行方不明になっていただろうから。
「まあ、養生なさってください。健康と、お気持ちを落ち着かせられることが何よりも優先です。エミリオは、ドランダント殿をよろしく頼む」
「……はい!」
ぺこりと頭を下げ、微笑むエミリオに手を振り、ルベルドは歩き出した。
すでに夕食後の時間だが、何やら報告があると会議が招集されている。忙しく立ち回っていたルベルドに詳細は知らされていない。
会議室に行くと、全員すでにそろっていた。
「どうされました?」
「こちらを。数時間前に届きました」
ゲディネから直に手渡された厚手の封筒。
封蝋は、
「王宮……」
行務大臣である。
ペーパーナイフがハルーシルによって手渡され、震える手で開封、出てきた公文書扱いの手紙を読み……
「……」
ルベルドはテーブルに突っ伏した。
「失礼」
ゲディネが慌てて手紙を拾い上げ、一読し、近くに座っていたテリーに渡した。
「……え、どういうものですか」
次々に文官たちに順に回る手紙。
それぞれ、いろんな反応だったが……最後のハルーシルは、読み切る前に途中で両手を挙げた。
「やりましたね!先輩!」
「……ああ」
ルベルドはほとんど涙目だった。
それを隠すために突っ伏したのだが、珍しくゲディネが相好を崩してルベルドの肩を叩く。
「お見事。まさか全面的に訴えが通るとは」
そう、着任早々に送った報告書と陳情の、色良い返事だった。
「すごい……!」
「おめでたい。いやはや、これで少しは計画が立てられる」
「しかし、王宮らしからぬ迅速な返答。これは英雄の名が効いていそうですな」
そうなのだ、まだ着任してから2週間程度。
伝使の往復時間を考えると、ルベルドの報告書が届いてから、王宮で話し合いや調整が行われたとしても数日間。
よほど、救国の英雄の次なる活躍を期待しているのだろう。
(なんでもいい、良かった)
この地の復興というなら、ただスタートラインに立っただけだ。
けれど、この窮状を訴え惨状を国と共有し、当初の予定以上に支援をもぎ取ったことは、まずは成果であるともいえる。
無税は一年から二年に延長。
医者とさらなる騎士団の追加。
今までは支援物資だけだったのが、おもに工事や復興のために使われる物資のリスト入り。
特に医者と騎士団の追加は大きい。疫病の根絶と賊の討伐は喫緊だったから。
周囲も盛り上がる中、ルベルドは思った。
(どうせなら、代官殿と祝いたかったな)
間違いなく、彼のおかげなのだから。




