1-15 町の闇
「……襲撃と、食糧か……そんでもって、そろそろ農地の復旧計画……」
つらつらと書き連ねていく。
ともかく生活ができるようにしなければ。
実のところ、国はメンディズーク領の1年の無税という措置をしてくれている。
人々から徴収ももちろんせず、予算も融通され、1年は復興にひたすら専念すべしという方針だ。
……圧倒的に、足りないが。
これは調査で分かったことだが――
領地の水路と水門が、ほとんど壊れている。
戦争で壊れたのだ。
領地は川に囲まれ、水自体は潤沢だ。井戸もあり、生活に使う水が確保できているのが数少ないこの地の幸運だった。
けれど、農業や産業、これから行われる工事などには、さすがに領地の外側を流れる本流から一々汲み取って使おうなどということは事実上不可能だ。場所によっては、毎日広々とした畑に撒く水を、1週間かけて汲みに行くことになる。
元々麦を中心に農作物が主な納税品と収入だった土地で、土壌は十分に肥沃といえる。
だからこそ、一刻も早く農地の復旧をしたいのだが……水路が問題だ。
工事をしようにも、人員が足りない。
それでも、しないわけには行かない。
支援体制が整いつつあり、特に町は余力が出てきた。人員を募り、早く水路と農地の復旧をいう計画が提出されて、検討するつもりである。
しかし……懸念は、別にあった。
町の様子である。
なぜか敵を向けられていた教会――スミオール大司祭は、旅立った。
何も追い出したわけではなく、十分な護衛を付けて、領地を巡幸してもらうことになったのだ。
結局領事館取り囲みの件は町長が住人を諭し罰したと報告はあったが、その後もスミオールへの冷遇はなくならなかった。アシスの町では安全面が不安だったため、一度去るというのも手だったのだ。
その間に、領事館が問題の解決を目指す。
(っていっても、根が深すぎるんだよなあ)
町長は領事館にバレていないと思っているのだろうか。
けれど、ルベルドたちは調査済みだった――スミオールに敵意を示し、領事館に石を投げ込んだ輩の身元だ。
全員、赴任初日の歓迎の晩餐会にいた有力者たちの身内である。
つまり、町ぐるみでの犯行である。
――これはアシスの町だけのことなのか。
もし、領地全体で教会に何かしら拘泥があるのなら。
スミオールの巡行はそれを調べるためにちょうど良く、かつ教会がこの地に力を伸ばすつもりならその下地作りにも最適だった。
(そういえば……)
ドランダントがスミオールを嫌っていたのは結局なんだったのだろうか。
エミリオに聞くと、彼は苦笑していた。ドランダントはスミオール自体を嫌っているのではないらしい。教会という組織にも特に好き嫌いはないとか。
ならば、なぜ。
スミオールは英雄に嫌われた、とかなり落ち込んでいたが、理由が分からないでは慰めようもなかった。彼をドランダントが助けたことから、本当には嫌っていないのだろう、くらいしか言えない。
(おっと思考がそれた)
スミオールがいないことで教会関連で面倒事が起こることはしばらくないだろう。
しかし、それ以外にも不穏なこと――塩のことがある。
これから本格的に町に協力を頼むのに、正直不安がある。
塩の密輸だとして……一番の疑問はどうしてそんなことをしているか、である。
(しかも、おそらく町は密輸であることに気づいていない)
値段がおかしいことに気づいたのは財政に関わる者たちだけで、王宮にいたハルーシルすら知らなかったし、かくいうルベルドもかじった程度の知識だった。
塩の売買を堂々と町の帳簿に載せているため、罪に問われるという意識がなかったのだろう。
(じゃあ誰が、なんのために)
密輸なら、買い手がいるはず。
なのに、塩は町で使われている……消耗品扱いだ。
その他いくつか値段がおかしかったり、通常では考えられない物品がこの町に入ってきていた。
ルベルドが商隊を見て、確信した。
一年かそれ以上、この国では輸入が禁止されていたり、規制されているものが、この村では外国の商会によって持ち込まれている。
それはすべて正規の手続きの上の購入だった。帳簿は巧妙に偽装されていた。
どんな芋がただの芋と書かれていては、忙しい文官は一度は見落とす。
(目的は何だ?この町に闇市でもあるなら分かりやすいが、そんなものはなかった。悪事なりなら王宮から来た俺たちの方を警戒するだろうに、教会の方へあからさまに嫌悪を示す……周辺村からの出入りは気になるが……皆町の住人の知り合いや親戚と言っていた。移住だったりは当たり前だしな……)
実害がないのが現状だ。
塩や禁制品の密輸はかなりの犯罪だが、不正な金儲けだと糾弾するには、税も何もぐちゃぐちゃなこの領地でのことだ。凶悪犯罪かと問われればほとんど失笑することだろう……財務官以外は。
実際ゲディネ財務官に報告するとたいそうお怒りだった。
ともかく、町を徹底的に調べたい。
けれどよそ者の自分たちが派手に動くと警戒される。気づかれ、隠されたりされたら厄介だ。
既に一度後をつけられた。こちらが町を疑っていることに、いくらか気付かれたにちがいない。
(……目を瞑って警戒しつつ、復興計画に移るか……)
すっきりしないのだが。
復興計画の詳細を決めなければ、という意見はちらほら出ている。あまりの状態のひどさに支援が先だと後回しになってしまったが、そろそろ着手しなければ。
王宮のエリート文官がこぞって頭をひねっていて、画期的な手段というものは今の今まで見つからないわけではあるのだが。
そうつらつら、かなりざっくばらんだが、気がつけば大量の書き付けを作ってしまい苦笑する。
書き殴ったそれを整理していると、ドアのノック音。
メイド頭のレニティだった。
「失礼いたします。お食事のご用意ができております、どうなさいますか」
「ん?そんな時間か……この部屋にお願いしたい」
「かしこまりました」
「あ、あと、夜食になるものも一緒に用意してくれないか」
レニティが、ピクリと眉を動かした。




