8話
「何十年ぶりだろうな、羊」
「うん、元気そうでよかった」
二人の間にしばらく静かな時間が流れる。
長い年月会えなかった恋人同士。
羊は守護者を守るという使命を選び、山羊はその使命を誰よりも理解していた。
だからこそ、会えない時間も受け入れて待ち続けていたのだ。
言いたいことはたくさんある。
それでも今は、こうして顔を見られるだけで十分だった。
「おい」
蠍が呆れたように声をかける。
「久しぶりに会って嬉しいのは分かるが、守護者様もいるんだぞ」
その言葉で山羊は我に返った。
「はっ…!守護者様!失礼いたしました!」
慌てて頭を下げる山羊に、守護者は小さく笑う。
「気にしなくてもいいよー 久しぶりに会ったんだから当然だもん」
「ご理解いただきありがとうございます」
羊は一歩前へ出た。
「山羊、射手にいじめられてないか?蠍に食べられそうになってないか?」
その言葉を聞いた瞬間、
蠍と射手が同時に反応した。
「羊!!何を言ってんの!!」
「俺は山羊なんて食べないぞ!」
射手も慌てて続ける。
「山羊は俺の大事な協力者なんだから!」
しかし羊は疑いの目を向けたままだった。
「山羊に何かしたら…絶対に許さない」
その一言に二人は思わず黙り込む。
守護者はそんな様子を見ながらくすりと笑った。
(使命、使命って言うけど… 本当に守りたいのは山羊の方じゃないかな)
山羊の顔が真っ赤になる。
「羊…」
「山羊…」
二人の間に再び甘い空気が流れ始めた。
「うわあああああ!!」
射手が頭を抱えた。
「また始まった!!」
蠍も大きくため息をつく。
「守護者様!何とかしてください!」
「本当に!」
守護者は楽しそうに笑う。
「蠍と射手は男だから分からないかもしれないけど、こういうのを愛おしいって言うんじゃないかな?」
蠍と射手は同時に頭を抱えた。
「分からん!」
「分かりたくもない!」
守護者は笑いながら山羊へ視線を向ける。
「そうだ、変わったことはなかった?」
山羊は優しく微笑んだ。
「はい、平和に過ごしております」
少しだけ寂しそうな顔を見せる。
「ただ…羊を待つ日々の繰り返しですが」
再び二人だけの空気が流れ始める。
「やめろぉぉぉぉ!!」
「うわああああ!!」
射手と蠍の叫びが砂漠中に響き渡った。
やがて話も一段落し、
守護者たちが帰る時間がやって来た。
守護者は三人を見渡す。
「射手、蠍、山羊、もし何かあったら必ず知らせてね」
「承知しました」
「いつでも呼んでください」
「待ってますよー!」
射手は笑いながら手を振った。
「また弓の練習しに来てくださいね!」
「うん!」
山羊も羊へ向き直る。
「羊、今度はもう少し長くいてくれ」
羊は少しだけ照れたように微笑んだ。
「約束する」
山羊も嬉しそうに笑う。
そうして守護者は再び羊の背中へ乗った。
二人は星の光をまといながら宇宙へ飛び立つ。
遠ざかる砂漠を見送りながら、
山羊はいつまでも手を振り続けていた。
しばらく飛び続けた後。
守護者が静かに口を開く。
「ねぇ、羊」
「はい」
「たまには私のそばじゃなくて、山羊のそばにいてもいいんだよ?」
羊は即座に首を横へ振った。
「それはできません。守護者様もご存じでしょう、私の使命は守護者様を守ることです」
迷いのない声だった。
守護者は苦笑する。
「ほんとに頑固だなぁ…」
やがて二人は目的地へ到着した。
そこは守護者の惑星。
巨大な神殿がそびえ立ち、
空には無数の星々がゆっくりと軌道を描いて輝いている。
いつ見ても美しい光景だった。
羊は静かに地面へ降り立つ。
守護者は背中から降りた。
「お疲れさま、羊。戻ったら休んでね」
羊は深く頭を下げる。
「承知しました、何かあればすぐにお呼びください」
「うん、またね」
羊は一礼すると光となって去っていった。
守護者は一人になる。
ようやく一息つき、
柔らかな草の上へ寝転がった。
満天の星空が視界いっぱいに広がる。
(みんな元気そうでよかったなー今日も平和だったし…)
その時だった。
ゴゴゴゴゴゴゴ…
大地が低く唸る。
守護者は勢いよく起き上がった。
「…!」
背後から妙な気配を感じる。
振り返ると、
何もないはずの空間に亀裂が走っていた。
パキ…
パキパキパキ…
まるで誰かが向こう側から無理やり押し広げているかのように、
空間そのものが砕け始める。
守護者の背筋に冷たいものが走った。
そして確かに感じた。
その向こう側から、
誰かがこちらを見ている。
(今のは…一体…?)




