7話
「守護者様、口と鼻を隠してください」
「うん」
羊に言われるまま、守護者は袖で口元を覆った。
二人が降り立ったのは、激しい砂嵐が吹き荒れる惑星。
乾いた風が容赦なく吹きつけ、息をするだけでも苦しい。
見渡す限り黄金色の砂漠が広がり、舞い上がる砂が視界を遮っていた。
羊は砂漠へ向かって大声を張り上げる。
「おーい!蠍!聞こえるかー!」
……
返事はない。
「蠍!!砂嵐を止めろ!」
その瞬間だった。
ズズズズ…
砂漠の奥から巨大な尾がゆっくりと姿を現す。
ブォン――
尾が大きく振られた瞬間、荒れ狂っていた砂嵐が嘘のように静まった。
パァァァ…
やがて砂の中から姿を現したのは蠍。
巨大な鋏。
鋭く伸びた尾。
どんな相手でも一瞬でねじ伏せそうな、圧倒的な体躯だった。
「ん?羊か?」
「守護者様をお連れした」
「守護者様?」
守護者は羊の背中から降りると、小さく手を振る。
「蠍、久しぶり」
蠍は目を見開き、慌てて頭を下げた。
「守護者様!?来られると分かっていたら準備くらいはしたのに!」
「大丈夫だよ、いい経験になったし、砂嵐もたくさん浴びられたから」
「申し訳ありません!死んでお詫びを…!」
「だから本当に大丈夫だって」
守護者は周囲を見回した。
「そういえば、この惑星には山羊と射手もいたよね?」
「はい! いますけど…」
ヒュン!!
突然、一筋の矢が一直線に飛んできた。
「守護者様!!」
ガキィン!!
蠍は咄嗟に巨大な尾で守護者を包み込み、その矢を弾き返した。
「射手ぇぇぇ!!」
遠くからのんびりした声が返ってくる。
「んー?どうしたの、蠍」
「誰に当たりかけたと思ってる!」
「別にいいじゃん~おもちゃの弓なんだから」
蠍は額に青筋を浮かべた。
「守護者様だ、このバカ」
「守護者様?」
その一言で射手の表情が固まる。
冷や汗が滝のように流れ落ちた。
「ん?」
守護者が笑顔で手を振る。
「こんにちは」
「…」
「うん?」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
射手は全速力で駆け寄ると、その場で勢いよく土下座した。
「申し訳ありませんでした!!どうかお許しください!!」
守護者は慌てて両手を振る。
「私は当たってないから大丈夫だよ」
そして羊を指差した。
「あっちの羊に謝ってあげて」
「羊?」
射手が振り返る。
そこには全身に矢が刺さったまま、無表情で立つ羊の姿。
「おい!俺が見えなかったのか?」
射手は乾いた笑いを浮かべる。
「ははは…」
「笑い事か?」
「昔を思い出してさ~俺の獲物だった頃はよくそんな顔してたじゃん」
(あとで絶対ぶっ飛ばす…)
羊の額に血管が浮かぶ。
射手は慌てて話題を変えた。
「それより守護者様、今日はどうしてここへ?」
「みんな元気にしてるかなって、様子を見に来たの」
「平和ですよ~蠍が砂嵐を起こさなければ」
「はぁ?」
蠍が睨み返す。
「お前が無駄に攻撃してこなければもっと平和だ、このバカ」
「なんだと?」
「やるか?」
「望むところだ」
今にもぶつかりそうな二人。
守護者はパンッと手を叩き、二人の視線をこちらへ向けさせた。
(この二人は天秤様でも止められないかも…)
「そうだ!山羊が見当たらないね?」
射手は遠くを指差す。
砂漠の真ん中。
蜃気楼のように浮かぶ小さなオアシス。
その中には青々とした森が広がっていた。
「ああ、山羊ならあそこですよ」
射手は大きく息を吸い込む。
「おーーい!!山羊ーー!!」
「守護者様と羊が来たぞーー!!」
しばらくすると、森の奥から一つの影が勢いよく飛び出した。
「羊?」
あっという間に羊の目の前へ降り立つ。
現れたのは山羊だった。




