6話
「もう一度言ってみろ、魚」
羊の笑顔がすっと消える。
その表情を見た守護者は思わず一歩後ろへ下がった。
(や、やばい…本気で怒ってる)
魚はそんなことなど気にもせず、にやりと笑う。
「聞こえなかった?乙女の方が守護者様より可愛いって言ったんだ」
「…はぁ?」
ふわり、と羊の身体から星の力が溢れ始める。
魚も負けじと星の力を解放した。
「遊んでばかりかと思ってたけど、ちゃんと戦えるみたいだね」
「望むところだ」
二人が同時に一歩踏み出した、その時だった。
「ま、待って! 二人とも!」
守護者が慌てて二人の間へ飛び込む。
羊は首を横に振った。
「守護者様、私にも譲れることと譲れないことがあります」
魚も肩をすくめる。
「先に始めたのは羊です、僕は付き合ってあげるだけ」
二人は睨み合ったまま、一歩も引かない。
やがて羊が口を開く。
「魚、お前は知っているか? 守護者様がお風呂へ向かう途中で転んで―」
『いたた…転んじゃっ、でも大丈夫! 私は勇敢だから!』
「そう言って自分を励ましていた姿を。」
(えっ!!)
守護者は耳まで真っ赤になった。
「や、やめてぇぇぇ!!」
魚は吹き出しながら笑う。
「その程度? うちの乙女なんて――」
『今日も私、可愛いなぁ~ 誰に似たんだろ♪』
「って言ってるよ」
(えぇぇぇぇ!?)
今度は乙女が顔を真っ赤にした。
「魚!それは言わない約束でしょ!」
羊は得意げに胸を張る。
「まだ甘い! 守護者様なんて着替えながら――」
『いつになったら胸、大きくなるんだろ…』
「と真剣に悩んでいたんだぞ!」
(もうやめてぇぇぇぇ!!)
守護者はその場にしゃがみ込み、顔を両手で隠した。
魚は勝ち誇ったように笑う。
「でも、うちの乙女はそんな悩みないけど?つまり乙女の勝ち!」
「なんだと!? 認められるか!」
羊と魚は再び睨み合う。
乙女と守護者は恥ずかしさのあまり俯いたまま動けなかった。
その様子を見ていた蟹が大きくため息をつく。
「お前らぁぁぁ!! いい加減にしろぉぉ!!」
水瓶も静かに続けた。
「あなたたちが騒げば騒ぐほど、恥ずかしい思いをするのは守護者様と乙女ですよ」
二人は同時に守護者と乙女を見る。
「…」
「…」
「ちっ―」
「ふん―」
二人は同時に星の力を収めた。
「運が良かったな、魚」
「そっちこそね、羊」
その時
乙女がくるりと振り返り、にっこりと笑った。
「それじゃあ私、天秤様に連絡してくるね♪」
「…え?」
羊と魚の表情が固まる。
「星座同士の争いは禁止だって知ってるでしょう?」
「乙女!?」
「ふっ、ざまぁみろ、魚!」
「笑ってる場合じゃないって!」
守護者も楽しそうに笑った。
「乙女、それいい考え!天秤様にお願いしよう!」
「守護者様まで!?」
羊と魚は顔を見合わせる。
そして次の瞬間。
「悪かった」
「ごめん」
二人は素直に頭を下げた。
黄道十二宮の中で最も公平な裁きを下す天秤。
その裁きは厳しいことで有名らしい。
守護者だけは一度も見たことがないため、その恐ろしさを知らなかった。
「うん!」
「ケンカは絶対ダメだからね!」
「はい…」
「わかりました」
守護者は満足そうに頷く。
「それじゃあ、そろそろ最後の惑星へ行こう!」
羊はその場でしゃがみ込んだ。
「守護者様、どうぞ」
「うん!」
守護者は羊の背中へ飛び乗る。
乙女、魚、蟹、水瓶は笑顔で手を振った。
「お気をつけて!」
「また遊びに来てくださいね!」
守護者も大きく手を振り返す。
「また来るね!」
星の光を纏った羊は、大空へと舞い上がった。
四人はその姿が見えなくなるまで、いつまでも手を振り続けていた。




