5話
ちゃぷんー
穏やかな水音とともに、守護者と羊はゆっくりと惑星へ降り立った。
どこまでも続く青い海。
澄み切った空の下、陽の光を受けた水面は無数の星のようにきらめき、潮風が守護者の銀色の長い髪を優しく揺らしていく。
守護者は景色を見渡し、ふっと笑みを浮かべた。
(やっぱり…ここは変わらないな)
羊が静かに歩み寄る。
「守護者様、乙女を探しに参りましょう」
「うん!」
しばらく歩いていると、不意に聞き覚えのある声が響いた。
「そこ、どなたですか?」
籠を抱えた一人の少女がこちらへ歩いてくる。
空色の長い髪。
白いエプロン。
どこか温かな雰囲気を纏った少女『乙女』だった。
守護者の姿を見つけた瞬間、乙女は目を丸くした。
「守護者様!?」
守護者は満面の笑みで手を振る。
「乙女! 久しぶり!」
「ご連絡もなく来られるなんて…」
「みんな元気かなって思って、会いに来たんだ」
羊も軽く一礼する。
「お久しぶり」
「羊も久しぶりね」
乙女は微笑みながら籠を持ち上げた。
「ちょうどお昼の準備をしていたところなんです、よかったら一緒に召し上がりませんか?」
守護者の表情がぱっと明るくなる。
「もちろん」
三人が案内されたのは、海を見渡せる小さな木造の小屋だった。
窓からは青い海が一望でき、部屋の中には食欲をそそる香りが漂っている。
守護者は鼻をひくひくさせた。
(ん…?この匂いわ…)
「サバ?」
乙女は嬉しそうに頷く。
「はい!焼き魚ですよ」
守護者の動きがぴたりと止まる。
(…まさか)
「魚座を…焼いたの?」
乙女はきょとんとした。
隣では羊まで真剣な顔をしている。
「……」
乙女は慌てて両手を振った。
「ち、違いますよ!? 私が釣ってきた普通のお魚です!」
「あっ!そうなの?!」
「はい!魚座さんも、蟹さんも、水瓶さんも、みんな元気ですよ!」
守護者と羊は同時に胸をなで下ろした。
「よかったぁ…」
「安心しました」
乙女は少し頬を膨らませる。
「もう、お二人ともひどいです!」
守護者は照れ笑いを浮かべた。
「えへへ…ごめん」
食事を終えた三人は浜辺へ向かった。
守護者は両手を口に添え、大きな声で呼ぶ。
「魚ー!蟹ー!水瓶ー!遊びに来たよー!」
その瞬間――
ザバァッ!!
海面が大きく揺れ、一匹の大きな魚が勢いよく飛び上がる。
その隣では、大きな蟹が立派なハサミを振っていた。
「呼んだ?」
「乙女、どうしたの?」
乙女は微笑みながら言う。
「誰が来たか見て」
魚と蟹は同時に守護者を見た。
「守護者様!?」
「本当にお久しぶりです!」
守護者は笑顔で手を振る。
「うん! 久しぶり!」
周囲を見回した守護者は首を傾げた。
「でも…水瓶がいないね?」
蟹が空を見上げる。
「まだ仕事中です」
守護者も空を見上げた。
遥か上空。
巨大な水瓶が静かに傾き、澄んだ水を惑星中へ流し続けている。
しばらくして、水の流れが落ち着くと、巨大な水瓶がゆっくりと地上へ降りてきた。
「守護者様、お帰りなさいませ」
守護者は嬉しそうに笑う。
「ただいま! 今日も頑張ってるねー」
水瓶は静かに答えた。
「これが私の役目ですので」
羊が一歩前へ出る。
「守護者様、本題を」
守護者は四人を見回しながら笑顔で言った。
「今日はみんなが元気に過ごしてるか、様子を見に来たんだ」
その時だった。
魚が勢いよく前へ出る。
「あります!」
「え?」
「問題が一つあります!」
守護者は少し驚いた。
「どうしたの?」
魚はにやりと笑い、乙女を見た。
「乙女の方が守護者様より可愛くなりました!」
「ええぇぇぇぇぇぇぇ!?」
乙女は顔を真っ赤にする。
「な、何を言ってるの!」
守護者は思わず自分の頬に触れた。
「確かに…可愛くなったねー」
羊は笑顔のまま魚を見つめる。
「守護者様より…か?」
魚も負けじと笑い返した。
「事実だもん」
二人の視線がぶつかる。
辺りの空気が一瞬で張り詰めた。
(あ…また始まる)
蟹は大きくため息をつく。
「またか…」
水瓶も静かに呟いた。
「今日も平和ですね」
蟹がすぐさま突っ込む。
「これのどこが平和なんだよ!」
守護者は慌てて二人の間へ飛び込んだ。
「ま、待って! ケンカはダメ!」
しかし、その言葉は一歩遅かった。
羊と魚は互いを見据え、一歩ずつ前へ踏み出す。




