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13話

巨大な存在はゆっくりと天秤へ視線を向けた。


深い闇の奥に沈む瞳。


その視線だけで空間が軋み、周囲の星々が震え始める。


まるで宇宙そのものが彼を恐れているかのようだった。


静寂。


誰も息をすることさえ忘れてしまう。


やがて巨大な存在が低く口を開いた。


「…お前は、天秤か?」


その声は耳からではない。


胸の奥へ直接響く。


心臓を掴まれるような圧迫感に、守護者は思わず息を呑んだ。


天秤は剣を握る手に力を込める。


それでも、その表情だけは変わらなかった。


「私をご存じなのですか?」


巨大な存在は僅かに目を細める。


「遥か昔の話だ…だが、お前も間もなく消える運命にある」


その一言で、守護者の背筋が凍りつく。


(やっぱり…あの記録を知ってる…)


『彼が来た』


『憎しみと怒りに囚われ続けている』


歴代守護者が遺した最後の文章。


あれは警告だった。


目の前の存在こそ、その『彼』なのだ。


天秤は守護者の前へ静かに立った。


そして後ろ手で守護者を少しだけ押し下がらせる。


「守護者様、ここから先は私がお守りいたします」


「嫌です!」


守護者はすぐに首を横へ振った。


涙が止まらない。


「もう誰も失いたくありません!羊さんも…獅子さんも…牡牛さんも…射手さんも…!みんな私を守るために…!」


声が震える。


胸が苦しい。


目の前で仲間が倒れていく姿が何度も脳裏をよぎった。


「天秤様まで失うなんて…そんなの絶対嫌です!」


天秤はゆっくりと微笑む。


いつも通りの、優しい笑顔だった。


「守護者様ー あなたは本当に優しい方です だからこそ、皆が命を懸けてでも守ろうとするのです」


守護者は唇を噛んだ。


「でも…!私だけ助かるなんて…そんな守護者になりたくありません!」


その言葉に天秤は小さく笑う。


「それでも、生きてください、あなたには未来があります」


「未来…?」


「私たち黄道十二宮は、その未来を守るために存在しています」


巨大な存在が再び一歩前へ踏み出した。


ゴゴゴゴゴ…


宇宙そのものが悲鳴を上げる。


割れた星々が漂い、


黒い雷が空間を切り裂いていく。


足元の大地も崩れ始めた。


天秤は静かに剣を構える。


黄金色の星力が身体を包み始める。


最初は小さな光。


しかし次第に眩い輝きとなり、


無数の光輪が天秤の周囲を巡り始めた。


巨大な存在もまた漆黒の力を解放する。


闇。


それは光を喰らい、空間さえ飲み込もうとする絶望そのものだった。


白と黒。


相反する二つの力が宇宙の中心で激しくぶつかろうとしている。


巨大な存在は静かに告げた。


「天秤、抵抗に意味はない、静かに運命を受け入れろ」


天秤はゆっくりと目を閉じる。


そして最後に守護者へ振り返った。


「申し訳ありませんねー それだけは、お断りします」


次の瞬間。


天秤は大地を蹴った。


黄金の閃光が一直線に宇宙を駆け抜ける。


同時に巨大な存在も腕を振り下ろした。


黒い闇が宇宙を覆い尽くす。


二つの力が真正面から衝突する。


ドォォォォォォォォォン――――!!


眩い閃光が宇宙を白く染め上げた。


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