10話
ゴゴゴゴゴゴゴ…
神殿全体を揺るがす轟音は、止む気配を見せなかった。
天井へ走った亀裂は一本では終わらず、まるで蜘蛛の巣のように四方八方へ広がっていく。
パラ… パラパラ…
細かな石片が降り始め、静寂に包まれていた神殿は一瞬にして崩壊の音に飲み込まれた。
「守護者様!」
羊が反射的に守護者の腕を掴む。
天秤も剣へ手を掛けながら周囲を見渡した。
「ここは危険です!!外へ!」
守護者は小さく頷く。
「う、うん!」
三人は崩れ落ちる柱を避けながら神殿の外へ飛び出した。
その瞬間だった。
守護者の足が止まる。
「…え?」
思考が止まった。
呼吸も止まった。
目の前に広がる光景を、脳が理解することを拒んだからだ。
空が――割れていた。
夜空を覆う無数の星々。
その中心を引き裂くように巨大な亀裂が走っている。
裂け目の奥には、底知れぬ闇。
そこから黒い雷光が何本も宇宙へ走り、空間そのものを軋ませていた。
キィィィィィン…
耳の奥へ直接響くような、不快な高音。
まるで宇宙そのものが悲鳴を上げているようだった。
(何…これ…空が…壊れてる…?)
守護者の頬から血の気が引いていく。
そんな彼女の隣で、羊も天秤も言葉を失っていた。
「こんな現象は…記録にもありません」
天秤の声が僅かに震える。
その時だった。
キン――
どこかで、何かが砕ける音が響いた。
守護者は反射的に空を見上げる。
一筋の光。
流れ星――
違う。
「…星座?」
一つではなかった。
二つ。
三つ。
十。
百。
無数の光が空から落ちてくる。
星々ではない。
そこに宿る命。
星座たちだった。
「そんな…」
光を失いながら、悲鳴を上げながら。
宇宙中の星座たちが、雨のように降っていた。
「どうして…!!」
守護者の声が震える。
何が起きているのか理解できない。
理解したくもなかった。
ドォォォォォン!!
遥か彼方で爆発が起きる。
続けて、別の場所でも。
ゴォォォン!!
赤い閃光。
青白い爆発。
黄金の光。
あらゆる色の星の力が宇宙を照らしていた。
「押し返せ!!」
「まだ終わるな!!」
「負傷者を下がらせろ!」
「次が来るぞ!!」
怒号が飛び交う。
それは戦場だった。
守護者が一度も見たことのない、本物の戦争。
星座たちは命を懸けて戦っていた。
守護者は呆然と立ち尽くす。
(どうして…昨日までは、みんな笑ってたのに…)
乙女。
魚。
蟹。
水瓶。
羊。
射手。
獅子。
牡牛。
天秤。
昨日まで笑い合っていた仲間たちの顔が、次々と脳裏をよぎる。
その全員が今、この宇宙のどこかで命を懸けて戦っている。
「守護者様」
羊がそっと肩へ手を置く。
「まだ終わっていません!私たちは必ず守ります」
その声で、守護者はようやく現実へ引き戻された。
「…うん」
震える足に力を込める。
守護者は拳を握り締めた。
その時。
戦場の中心から、一際大きな咆哮が響く。
「戦える星座は守護者様を守れ!!」
獅子だった。
黄金の剣を掲げながら、宇宙全体へ響くほどの声で叫ぶ。
その一言だけで、多くの星座たちが一斉に動き始めた。
守護者を守るために。
命を懸けて。




