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生命線上に独白の告発を  作者: 為世 斐文


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34/35

第34話「――に、二人で告白を5」

 花と友達になってからというものの、この頃夜に電話をする機会が増えた。

 なんでも私の買っている本が気に入ったようで、また読みたいというのと、おすすめな本を教えてほしいとほぼ毎日私のおすすめの本を話している。

 本好きに出合ったのは嬉しいけど、行動力とか色々と違いすぎて私の心が追い付いていない感が否めない。

 でも着実に、私と花の仲は深まった。

 しかもそのおかげというべきか、やはり李月くんからの話を聞きたいと焦る心がなくなった。少し長めに見てもいいのかもしれないと、そう考えられる。

「明日、家に行ってもいい? ちょうどバイトない日なの」

「うん、いいよ」

 友達が増えるのはいいことだ。

「何かおかし持っていくよ。かすみん何が好き?」

「え、いいよ」

「え、一緒に食べようよ」

「んー……」

「気にしないでいいって」

「分かった」

 友達がいるとこうやって、昔の自分ではない成長した自分になれる。

「それなら、カフェオレベースの色んなお菓子を売ってるお店知ってるんだ」

「えー、やっぱりかすみんって女子力高いよね」

「いや……」

「肌めっちゃ綺麗だったしさ、毛とかどこにも生えてなさそ」

 ん……

「恥ずかしい……」

「あははっ、ごめんごめん。分かったよ。またそこの店の写真かなんか送ってよ。ちょっと寄ってくるから」

「うん」

 智花よりもぐいぐいと踏み込んでくる人は初めてだ。

 でもそういう点では、もしかしたら智花とは相性がいいのかもしれない。

 今度三人で遊んでみようかな……

 お店の場所を花に送りながら、私は智花に電話をかけた。



「李月ちゃんと寝てるか?」

「まあ……」

 勇気が出たのはいいけど、今度はどこに呼び出そうか迷ってしまう。

 やっぱりデートをした後に告白したいけど、香澄にとってそれが迷惑だったらどうしようか。

「お前は本当にどこでもためらうよな。変なとこは踏み込んじゃうくせに」

 奏吾が初めて俺に物を言ってきた。

「いや……まあ、踏み込んでるならごめんだけど、俺は相手のことを考えて」

「だから、そこなんだよ」

「そこ?」

「そう。その相手のことを考えてってとこだよ」

 それがなんだと言うつもりか予想が出来そうで出来ない。

「まあ……李月のいいとこでもあって、悪いとこでもあるんだよ」

「ごめん……」

「いや、俺はそう感じたことはないけどな。付き合ってた玉乃さんはもろにそれを感じてたんじゃないか?」

 変なとこで踏み込んでしまう……踏み込んでいないから……?

 矛盾が生じていて意味が分からない。

「ごめん……どういうこと?」

「まず躊躇うってことは、それだけ相手にとっては線を引かれているように感じるってとこ」

 ……確かに

「それでいて、李月は優しすぎるから、求めたくない時にも優しさを発揮してしまってるんだよ」

 それは……そうか。でも求めたくない時ってなんだ……

「前に全て包み込むからって言われたんだろ」

「ああ、うん」

「多分、そういうことなんだよ」

 そういうこと……?

「香澄に優しくしちゃいけないってこと?」

「いや、それは単極に考えすぎ。難しいけどいい塩梅ってものがあるんだよ。七十くらいの優しさで接したらちょうどいいんじゃないか?」

 七十くらい……

「残りの三十は自分に向けて、自分に優しくするんだよ」

 自分に……

「李月大丈夫だ! 俺もよく分かねぇ。けど、李月が優しすぎるってのだけは分かるきがするぜ」

 俺が優しすぎる……か

「だから、何も全て玉乃さんに合わせるんじゃなくて、自分のやりたいようになるのも大事だってことだよ。何も付き合うって片方が幸せになるんじゃなくて“互いが互いを幸せにするものだろ”」

 奏吾の言葉に俺は完全に納得がいった。

 確かに……俺は今まで、香澄のためにって思ってた……でも、恋愛って互いが幸せになるもので……俺も幸せになっていいのか……

「奏吾、確かにその通りだ」

「な。気づける脳があって良かったよ」

 奏吾は維吹を横目に喋った。

「な、なんだよ! 俺も分かったぞ!」

「本当か?」

「つまり『互いが互いを幸せにするものだろ」?」

「俺の言葉を復唱しただけだろ」

 やっぱりこいつらは最高な友達だ。

「んなことねぇよ! だから、『互いが互いを』」

「その時点で俺の復唱になってるんだよ」

「んなことねぇって、なあ李月!」

 はぁ――

「完全な復唱だった」

「そんな……馬鹿な」

 ――悩むなんて、ばかばかしい話だった




 そして俺は香澄をデートに誘った。

 決心が着いたと言えばそうなる。でも、それ以上に俺は自然体で居られるようになったという方が正しいのかもしれない。

 よしっ……!

 待ち合わせ時刻よりも早めに着くと、香澄はもうそこに立っていた。

 はや……

 少し残る緊張感を、手のひらに「人」と書いて飲み込むことでほぐした。

 事前練習でもしとくか……

 香澄に見えない場所で、香澄に向けるように口を手で覆って呟く。

 手の生命線上に分岐点として作用してくれると信じて、これからの未来を誓って、


 ――好きです。もう一度、俺と付き合ってください


 そう言い終えると香澄がこちらに気づいて、小さく手を振ってきた。

 前髪を手でいじる香澄に近づくと、香澄はいじりながら微笑んだ。

「久しぶり」

「おう」

 大丈夫だ。前のような緊迫感はない。慢心しているわけではないけど、自信はある。

 言える。今日なら確実に言える。

「行こうか」

「うん」

 食い気味で答えた香澄に笑いながら、俺はまた香澄の隣を歩いた。

「どこ行くの」

「ここで俺が水族館とか言ったら怒る?」

「怒りはしないけど……私たち三回目だよ?」

「いや……何というかさ、言っちゃえば変な記憶が水族館に結びついちゃってるからさ」

「今日、私と行くことでそれが消えるの?」

「いや……それは分かんないけど、でもこのままだったら、水族館が嫌いになっちゃいそうで」

 昔なら言わなかった俺の弱さを見せる言葉に驚いているのか、香澄は呆気にとられたように表情を固めながら頷いた。

「いいよ」

「よかった」

 香澄に了承も受けて、俺たちは三回目の水族館へと足を運んだ。

 一度目、それは君と話をしたくて誘った水族館。

 あの頃の俺は、君とまた会うことに意味づけをしたくて、話がしたいと誘った。実際には振られていなかったけど、俺を振った理由。そして、佐江月とのことで相談なら受けたいと思っていた。

 結局は俺が君という人を決めつけて、疑問形ばかり喋っては楽しくないんじゃないかと言ってしまった。

 きっと、香澄からしたらあの頃の俺は嫌なやつに映ったんじゃないだろうか。

 悪いことをしてしまったけど、それも俺だ。これからの行動で新しい俺を君に見せられたらそれでいい。

 二度目、全国大会が終わって一週間が経った日に、君の本音と俺の罪を知った水族館。

 気づけばあの頃にも一度だけ、古賀さんに香澄について相談したことがあった。

 香澄が俺の事を全て掌握している気がして、ちょっと気になったのだ。

 単純にどこまで香澄が人の事を見る能力があるのかが気になって、疑問として古賀さんというかみんなに話をした。

 奏吾と維吹は関わってきてないから分かっていなさそうだったが、古賀さんは友達だからそういう節を知っていたのか、感じたことがあったのか、話に乗り気になっていた。

 結局、香澄は真顔だと俺の気持ちを読み取れなかったけど、でもたぶん俺よりも俺を知っているんじゃないだろうか。

 それは今もそうなんだろうか。

 横を歩く香澄は何を思っているんだろうか。

 目線を横に移すと、香澄もまた俺を見ていた。

「どうした?」

「ううん」

 落ち着かない様子で前を向いた。

 やっぱり……話をすぐに聞きたいんだろうな

 俺に出来るのはせいぜいこのくらいの考察だ。結構色々と言い当ててくる香澄はやはり、人を見る目がすぐれている。

「すごいよな……」

 心の声が漏れたとき、香澄はまたこちらを向いては何を考えているのか分からない顔でまた前を向いた。

「ごめん、気にしないで」

「うん」

 というか、話何かしたほうがいいか……? でも、この雰囲気も俺は好きだな……

 会話をしていないけど、まるで途切れない会話をしているみたいな居心地の良さを感じる。

 不思議だな……

「なんで……今日はデートだったの?」

 ん……

「いつもは話がしたいって。今日だって李月くんが話を持ってるだけで、デートではないじゃん」

 ああ、そっか……でもそうなると、

「それも後で言うよ」

「後で……」

「うん」

 「ふーん」と言いながら香澄は渋々と言った様子で頷いた。

「逆に質問していい?」

「ふふっ、私は制限した覚えはないよ」

 なつかし……

「そうだね」

 香澄はいつしか喋ったセリフをそのまま言ってきた。

 その一言は、ただの一言と思いたくなかった。

 俺と香澄の過去の会話で、俺たちの軌跡だ。

「なんでさ、デートだったのに来てくれたの」

 何も喋らない香澄の顔を覗くと、香澄は瞬きを数回続けてそっぽを向いた。

 ん……?

「言いたくない?」

 黙って頷く香澄に俺も頷いて返した。

 静寂だけが過ぎていく。今の言葉たちを飲み込んで。

 行き交う人の声が聞こえない。

 まるで俺と香澄だけの世界が広がっているように感じた。

「香澄、来てくれてありがとう」

 感謝を述べる俺に、香澄は微笑んで頷いた。

 やっぱり言葉はそこにない。でも、それが俺たちの共通言語のように感じた。

 むしろ無言で通じ合えるなら、それは最強の言語だろう。

「まずは腹ごしらえしようか」

※この作品は他サイトでも掲載しています。

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