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生命線上に独白の告発を  作者: 為世 斐文


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第33話「――に、二人で告白を4」

「それで、玉乃さんは稲吹くんのことが好きなんだよね? それであってるよね?」

 特に寄りたい店もない街中の道、桜田さんは私の顔を覗き込むように喋った。

「……はい。えっと、好きです」

「そっか……」

 桜田さんは今、一体どんな気持ちでいるのだろう。

 自分は振られてしまったけど頑張れと、応援してくれているのか、はたまた、私も振られてしまえばいいと怨念をぶつけてきているのか。

 何にせよ、気まずいことに変わりはない。

 なぜ友達になってしまったのだろう。

「でも玉乃さんって元カノなんでしょ?」

「え……」

 桜田さんは何気ない顔で触れられたくない言葉を喋った。

「あー……あまり触れないほうがよかった感じ?」

「ごめんなさい……」

「いや、謝んないでよ。こっちが悪いし」

 智花は一度別れたとしても、また付き合うなんて普通だと言ったが、桜田さんは今の感じだと潔く別れたままにするのが普通だと言わんばかりだった。

 どっちが正解なの……

 頭が混乱する。

「まあさ……別れたとしても、自分の気持ちが一番だから、また惹かれてるんならいいと思うけど。それでうまくいくのかって心配にはなるよね」

 自分の気持ち……

 世間一般論では、この答えが正解ということなんだろうか。

「桜田さん……は、その……一度別れた人たちでも、また付き合い始めるのはいいと思いますか……?」

 また「は?」と言わんばかりに顔を顰めて、何か納得したように頷く桜田さんは深く溜息を吐いた。

「こりゃ……私が入る幕ないわけだ」

 なんて小言を吐きながら、私の顔を注視した。

「いい? 言ってしまえばそんなのどうでもいいの。そりゃ相手が迷惑してるなら別だけど、別に稲吹くんが迷惑してないなら、玉乃さんがどう動こうと勝手なの。それは私もそう。だから今のあなたたちの関係を知っても、告白して、稲吹くんを困らせた。でも、それってただ困らせた訳でもないの」

 一理ある。

 つまり、自分の好きなようにすればいいということを言いたいのだろう。

「まあ、私があまりいうことでもないけど……正直、稲吹くんは私に告白されて嬉しいって意味じゃない感謝をしてきたの」

 嬉しいって意味じゃない感謝……?

「まあだから、助かったみたいなニュアンス? 頭冷やせたとか、そんな感じ」

 いまいちよく分からない。

 つまりどういうことなんだろうか。

「まあ……だから、もし付き合えなかったとしてもお互いに経験として、記憶に残ることになるの」

 経験……

「だから、嫌だったとしても、嬉しかったとしても、それは一種の経験で、それに関係値を上乗せして考える必要はないの。だから、一度別れたからとかでうじうじしてるのは、もったいないし意味ないし、行動してから考えたらどうかって言いたいわけ。私はね」

 行動してから……

 確かに、今までの私は行動より考えることを先にしていた。

 考えて考えて、その中で見つけた答えをまるで完璧な答えだと仮定して、それを行動に移していた。

 でも、それが一番ではないんだろうか。

 行動して失敗するのは怖い。

 それでどれだけ、私はみんなから責められてしまうのだろうか。それを考えると、自ずと完璧な答えを探すのは当たり前なのではないだろうか。

「今の玉乃さんが何を考えてるのか知らないけど、とりあえずはそんなこと稲吹くんからしてみても、どうでもいいってことだけは知っといて。私たちは“今”を生きてるんだから」

 今を生きてる……

 桜田さんの言葉は妙に説得力がある。

 私とは多分真逆のタイプなのだろうけど、それでもその行動の価値と意味は充分にあって、事実それで今生きられている。

「もっと楽に生きなよ。なんか、私がバカみたい」

 楽に……か

「ありがと……ちょっと、分かった気がします」

「ん。でさ、やっぱり友達なら敬語やめない? 普通に、素で居てほしいんだよね」

「分かりました」

「それは敬語ね」

「あ……」

 思っていたより、桜田さんは優しいし面白いしいい人だ。

 警戒心は、少し和らげてもいいかもしれない。

「桜田さん」

「花って呼んで」

「あー……は、花」

 なんか、智花も花がついてて、花ばかり……でもちょっと、ハードルが低くて呼びやすいかも

「なに」

「トリュッセンってところのケーキが美味しいの。一緒に……その、食べない?」

「いいよ」

 よかった……

 ぎこちなく接する私と、フレンドリーに接してくる花は、まるで対極であって、同じ人を好きになった。

 少し気まずさはあるけど、花ともいい関係を築ける気がする。

 ぎこちない私に笑う花の横顔を見ながら、私は足取り軽くトリュッセンに向かった。



 もう新年も開けた。

 あれから稲吹の野郎は香澄に告白したんだろうか。

 今頃、香澄と稲吹は付き合っていて真冬の道を動くストーブと化しているのだろうか。

 くそっ……うらやましい……でも、

 俺の家には今、翠が来ている。

 吉森 翠。まだ付き合ってはないが、多分、付き合うだろう。

 波長も合うし、香澄に教えてもらった人の心と、優しさを翠になら全てさらけ出せている。

 でも、おすすめのケーキ屋さんがあると言ったら「寒いから買ってきてよ」とパシリにするのはどうかと思う。

「あーはい、一時間でお願いします」

 モンブランであってたよな……

 久しぶりにトリュッセンに来たが、流石に何の祝いの日でもない今日に、香澄はここに来ることはなさそうだ。

「五千円でお願いします」

 何気なく、外の様子を眺めていたら、そこに見知った顔の人がいるのに気づいた。

 あれは……香澄だな

 こちらに近づいてくる香澄を確認した俺は、ケーキを受け取ってすぐに店を出た。

 香澄からしたら、多分俺とばったり店で会うのは避けたいだろう。

 早く帰ってやろう……香澄のために、いや翠と俺のためにも



 トリュッセンに着く前、佐江月さんがいるのが見えた。

 ケーキの入った袋を持って急いで走っていったが、その前に確実に私と目を合わせていた。

 多分気まずいかなにかなのだろうけど、私はまだ終業式前日に教室で泣いてしまった時のお礼を言えていない。

 また……今度、ちゃんと言わないとね

 何か嬉しいことでもあったのか、笑顔の佐江月さんの顔を見ながら、話を振ってくる花とケーキを選んだ。



「んー……だからさ、なんか……逆に言いづらくなってきたんだよ……」

 香澄に伝えると豪語して早二日が経ってしまった。

 あの時の威勢はどこへやら、俺の気持ちは完全にへなへなにしなれていた。

「お、見ろよ奏吾! しなしなのポテトがあったぞ! これ俺好きなんだよな~」

「まるで俺みたいだな……味は美味しくないけどな」

「まあまあ、そんなに焦ることもないだろ。ゆっくりと着実に気持ち作っていけばいいって」

 奏吾はそういうが、香澄はきっと今すぐにでも決断を聞きたがっている。

 でも、振っていないなんて話を思い出してしまって、色々と反省モードが勝ってしまう。

「元気出せよ~。ほら、しなしなカリカリポテトあげるよ李月」

「既に恥ずかしさでカリッカリだよ……」

 ああ……また二人に迷惑もかけて……

「ん、古賀さん着いたって」

「お! 早く映画見に行こうぜ!」

 なんで俺まで呼んだんだよ……空気感絶対に悪くなるのに……

「李月、古賀さんに色々と話してみたらどうだ?」

「いや……」

「古賀さんはいつも玉乃さんの近くにいるだろ? 何かアドバイスくれるかもしれないぞ」

「えー……くれないだろ。流石に……男気もなくなる」

「安心しろ李月! もう、すでに――」

 何か言いかけた維吹の口を、奏吾はハンバーガーで封じた。

「既に何? 何か言ったの?」

「いや、多分。すでにお前の気持ちには気づいてるんだと思う。映画行くときたまに、俺らにも話振ってくるし」

 まじか……

「そういうことだ李月!」

 なら……

「もういいか……」

 俺は前に進むためにも変な意地を持つのはやめて、古賀さんに話をすることに決めた。



「香澄って、何かゲームとかしてないの? 趣味は?」

「んー……」

 花とケーキを食べると、だいぶ心を開けた。

 根幹に私を恨んでいないかと怖がる気持ちもあるけど、それでも気にならないほどに花は優しい。

「ゲームはしてないかな」

「いつも何やってるの?」

「んー……」

 私、何やってるんだろ……

「本読んで……本読んで……本、本……」

 本を読むことしか頭に浮かばず、本という単語を繰り返し言っていると花は鼻で笑いをこらえた。

「つまり、本を読んでるってことだよね」

「う、うん。本好きだから」

「でも、どこに置いてるの?」

「えっとね、もう一個部屋があってそこに置いてるよ」

「見てみたい」

「いいよ」

 花と喋っていると、李月くんの返事を聞きたい欲はだいぶ収まる。

 不思議な能力でも持っているのだろうか。



「ってことで……もしかしたらもう聞いてるのかもしれないけど……その、この週のどこかで告白するんだけど……何か、いい方法というか、ある?」

「んー……」

 古賀さんはジュースをストローで飲みながら、上を向いた。

「それってさ、私が介入すべきことかな」

「いや……ごもっともです」

「うん。だけど、そうだなー……あえて言うなら、焦らずに二人のペースでいいんじゃないかなって思うけど。どれだけ相談してきてもいいし、それで結局進まなくても別に私は気にしない。だって友達の悩みだし、結局は友達って言っても他人の悩みで、私が何かしたわけでもないし、まあ……別に気にしないってことだけ言えるかな」

 二人のペースな……

「二人のペースって……具体的に、どういう感じ?」

「言葉を濁さないでいいなら、びしっと言えるけど」

「言ってみてほしい」

「遅すぎて、逆にすごい」

 古賀さんの言葉に、奏吾も維吹も黙って頷いていた。

「それは……つまり、面倒臭がられているみたいな……ってこと?」

「そこがまたすごいんだけど」

 またすごい……

「遅いくせに、別に二人とも突き放さないんだよね。なんか、本当に線で結ばれてるみたいな」

 突き放すわけがない……でも、香澄も突き放してはない……

「香澄は……! 香澄は、俺のこと――」

「言わないよ」

 結論を聞こうとしたが、流石に教えてもらえなかった。

「それを聞くのは野暮だよ。私の口からいうことじゃない。二人の関係は、二人で考えなきゃ」

「うん……そうだね」

「まあでも、早めの方がいいんじゃない? 香澄は可愛いから、ほかの人に取られちゃうかもよ」

 実例がある分、その言葉は着実に焦りとなって心を蝕む。

「俺……次会った時に告白する」

「おぉ!」

「いいじゃん」

 みんなから肩を叩かれて、俺は少しまた勇気が湧いてきた。

 今度こそ、俺も逃げたりなんてしない。

※この作品は他サイトでも掲載しています。

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