第32話「――に、二人で告白を3」
何とか十四分で家に付けた。
全力で走りすぎて気持ち悪い。
「あんた、どうしたんね。そんな血相悪くして」
「ただいま母さん……」
「友達とお参り行ってきたんやろ? 何をそんな息切らして」
母親の会話を早めに切り上げて、俺はすぐに自室でスマホの充電を始めた。
電話って……何秒待てば出来るかな……
残量がゼロパーセントと表示されては画面が消える。それに焦燥感が湧きたてられる。
早くしてくれ……
「でも、稲吹さんは安心したって伝えてほしいって」
「でもひとまずなんでしょ……」
智花は顔を膝に埋める私をどうにか元気づけたいのか、横から抱きしめながら色んな言葉を書けてくる。
「大丈夫だって、そのうち電話来るよ」
「来ないよ……」
「ほ、ほら充電切れちゃったとか」
「李月くん……そんな人じゃない」
「また決めつけてるよ」
「違うよ……」
この瞬間だけ、智花が嫌い。
もう何も聞きたくない。黙ってそばで私を抱きしめてくれるだけでいい。
何の情報も聞きたくない。
そう思っていると、ひざ下に置いていたスマホに通知が届いた。
……え?
それは李月くんからだった。
冒頭の文しか見えていないが、そこには明らかにスマホの充電が切れたことが綴られている文だと分かるものがあった。
「智花……」
私は顔を上げて、悲しそうな顔をする智花にスマホを預けた。
「内容……読んでほしい。李月くんからの……」
智花は頷いてスマホを手に取った。
充電が切れただけだと、まだ謝るのかこれからは会わないと言われるのかが分からない。
「香澄、電話してもいいか聞いてるよ」
……電話
「それだけ? その……もう会わないとか……」
「それは、電話して聞いて上げなよ。大丈夫、私がいるから」
心が上手く乗らない。
スマホに手を伸ばすけど、きっと通話ボタンは押せない。かと言って、電話をかけてほしいと文章を書いて送ることもできない。
「智花……」
「もう……流石に、これ以上私が介入するわけにもいかないから。どうしたい? 電話かけてほしいって文章なら書くよ」
「お願い……」
呆れたように溜息は吐きながらも、仕方ないなと小言を吐きつつ文章を打ち込む智花から、通話に応答するかだけの画面が移されたスマホが返ってきた。
「私、ちょっと水取ってくるから」
立ち上がった智花に手を伸ばす私に首を横に振るだけの智花。
分かっている。流石にこれ以上迷惑はかけていられない。
振り上げた手はそのまま、力なくスマホの画面に振り下ろした。
運よく通話ボタンに当たればいいと、そう思って。
「あ、香澄」
スマホから李月くんの声が聞こえる。
智花は微笑みながら笑って、部屋を出ていった。
「もしもし……」
なんて言われてしまうのだろうか。
怖くて言葉を出せない。
現実を見たくない。
「ごめん、スマホの充電が切れちゃって」
「……ううん」
「……なんで、逃げたかって聞くのは野暮かな」
……どっち?
李月くんは別れたいのか、これまでと同じように望むのかどっちなのだろう。
「り、りつ……きくんはさ、私となんで会いに来てくれたの……」
「え?」
「私が降った理由を聞きたかったからなんでしょ」
一度タガが外れた私は、思いのたけがするすると喉を取りぬけていく。
「私がらしくないって言った理由、私が降った理由を聞きたかったから、ただそれだけで私と会う行動にとってただけなんでしょ? だから、今からはもう完全に別れようって話をしたいんでしょ? 神社でもそう願ったんでしょ? もう、互いが互いの道を歩むって……」
李月くんは黙り込んだ。図星だったからだろうか。
「もう……いいよ。その通りなら電話切っていいよ。私も……この関係を続けるのは精神的にきついから……」
「切らないよ」
「……え?」
「切らない。絶対に切らない。この電話も、香澄に繋がってる線も、俺は切らない」
切らない……
「なんで……? それは友達でいたいから? 他の可愛い子と付き合う時に、私に相談でもしたいの?」
「……違う」
「じゃあ……」
「ちょっと時間が欲しい」
なんの……
「まず、俺は香澄と会うのにそんな考えを持ったことは初めから一度だってないよ」
「……じゃあなんで」
「……そこの時間が欲しい」
他の理由……ってなに?
はっきりしない李月くんにもやもやがたまっていく。
折角勇気をもって話しかけたのに、私の勇気が変な方向に動いていく。
李月くんに近づけずに、折れ曲がっていく。
「どのくらい……?」
「今日、言うつもりだった……けど、やっぱり今日はまだ言えそうにないから……また後日にしたい。ごめん」
「分かった……。じゃあ、あと一週間。せめて一週間のうちに教えてほしい」
「分かった。それで、蹴りを付けるよ。待ってて、俺絶対に言うから」
「うん」
そうして通話は終わった。
机に置いたケーキはアイスが使われていることもあってもう原型をとどめていない。
もったいないことしちゃったな……
なんて考えていると、智花が笑みを浮かべて部屋に入ってきた。
「ちゃんと話せたじゃん」
「聞いてないでよ……」
「ごめん」
でも本当に智花には助けられてばかりだ。
「私も……ごめん。こんな面倒くさい性格で……」
「前も言ったけど、そう感じるなら私は友達やめてるよ」
「そうだね……うん。ありがと」
「どういたしまして」
あれから二日経った。
李月くんはまだ話をしてくれない。
別に急かしているわけでもないけど、早く決心をつけたい。
特に学校が始まるまでには知りたい。気分の持ちようが違うから。
「はぁー」
息が白い。
私は家に居てもやることがなくて、おばあちゃんからお年玉も貰ったことだし街中に掘り出しものを求めて買いにやってきた。
トリュッセンのケーキはマストでしょ……あとは、小物? 何か可愛いのがあったら買うけど、何かあるかな……
窓から見える店内の様子を見ながら、何となくで場所を決めて入ってみた。
うわ……すごい、小物ばっかり……
雑貨店という店だろうか。
可愛くて小さい雑貨が大量に置いてあって、ほのかに香る木材の匂いがどこか懐かしいようで、心を温めて、自然と微笑みがでる。
あ、チンアナゴ……
私の目にはすぐ、チンアナゴが映った。
海のコーナーか……買ってもいいけど、振られちゃったらな……
そんな考えでチンアナゴを見ていると、隣から肩を叩かれた。
ん……?
隣を見ると、そこには見覚えのあるような女性が立っていた。
「えっと……どこかでお会いしましたっけ」
「うん。サッカー部のマネージャーしてるから。ベンチに一回来たでしょ」
あ……
恥ずかしい光景が頭に映し出された。
あの先生を睨みつけていたマネージャーの人だ。
「その節はお騒がせしました」
ぺこりと頭を下げる私に、マネージャーの人は溜息を吐いた。
「私、桜田 花夏」
はなか……珍しい
「単刀直入に言うけど、玉乃さんは稲吹くんのことが好きなんでしょ?」
「え……」
名前……
「名前くらい知ってる」
苛立っているのか、桜田さんは私を睨むように見つめた。
その時に、私の頭の中に嫌な展開が出て来た。
もしかしたら桜田さんと、李月くんは付き合っているのではないだろうか。
「あのさ……」
心がこの場から逃げたくて仕方ないと嘆いている。
一歩、また一歩後ずさむが、商品の置いている棚にぶつかってしまった。
「逃げないでよ。別に変な事いうつもりないし……」
「付き合ってるんでしょ……」
「え?」
「李月くんと付き合ってるから、これ以上近づかないでって言うつもりなんじゃ……」
桜田さんは「は?」とさらに怒っている顔を浮かべた。
そんな当たり前のことを言って、機嫌を取るつもりかとでも言いたいのだろうか。
「ごめんなさい……そんなつもりはなくて……」
「いや、」
「付き合ってることもっと早く知ってたら私も諦めてました……」
「だから……」
桜田さんは私の方に一歩近づいてきた。
「私は、稲吹くんの事好きだけど、付き合ってないし、この前振られたの。この店で会ったばっかりに」
「……え?」
溜息を私にぶつけて、後ろの棚から商品を取った。
「私とて悪魔ではないけど……玉乃さんがちょうどいいところに居たから。一つだけ聞きたいことがあったの」
「な、なんですか?」
「もう遅いけど、クリスマスプレゼント。渡していい?」
「え……?」
桜田さんは私に後ろから取った商品を突き出してきた。
「どういうことですか……?」
「あー……私、あなたを憎みたくないわけ。だけど憎いの。だから、逆にプレゼントでもあげて友達って位置関係にしたら、傷が少しでも癒える気がして」
友達……
「だから、なんていうか……私のためになっちゃってるけどさ……。別に、かわいいとか思ってるわけで……その、嫌な気持ちばっかりじゃないから……その、」
あまりうまく呑み込めなかったが、私はとりあえず桜田さんの手から小物を受け取った。
「分かりました。私で良ければ、それで傷が癒えるんなら友達なります」
そういうと、桜田さんは歯を食いしばって笑った。
「……なんだよ。納得しちゃうな……」
「え?」
「なんでもない。それ買ってくるから頂戴」
「あ、はい」
桜田さんは微笑みながら溜息をついて、雑貨を持ってレジの方に向かっていった。
友達……李月くんに振られた友達……変な気分
やはりあまり飲み込めないまま、私はレジにいる桜田さんの元へ歩いて行った。
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