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生命線上に独白の告発を  作者: 為世 斐文


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第31話「――に、二人で告白を2」

 逃げ出してしまった。悪いことをしたと思っている。

 でも、足が止まらない。

 智花に連絡を入れて、家にお邪魔出来ることになってよかった。

 李月くんにちゃんと話をしてしまった。

 あなたの勘違いだと、まるで私が被害者だと言わんばかりに言ってしまった。

 李月くんはどう思っただろうか。

 どうであれ、もう私たちが会うことはないんだろう。だって、話をしてしまったから。

 「失敗した」なんて言葉を吐きながら、私は笑っていた。

 もうよく分からなかった。

 多分、辛いからそれを感じたくないんだと思う。笑って、現実を誤魔化そうとしているんだと思う。

「香澄~」

 智花の家の前に行くと、寒そうに玄関に立っている智花がいた。

「どうしたの? 別に一緒に過ごしてもいいけど、稲吹さんは? もう終わったの?」

 私が笑顔でいるからか、智花はいいことがあったんだと勘違いしたのだろう。嬉しそうに私を家にあげてくれた。

「ケーキ食べる? 実はねー、パティシエ目指してるいとこから試作品が届いたんだ~」

 そう言って冷蔵庫からケーキを取り出す智花に、私は変わらぬ笑顔を向けた。

「うん。ありがとう」

「お祝いだね~」

 鼻歌で上機嫌に皿を用意して、私は次第に涙が出そうになってきた。

 実感がどんどん湧いてきた。

「おまたせー……」

 一滴の雫が机に落ちたとき、智花は顔をしかめた。

「え、ん……ん? え?」

 なんて戸惑いの声を上げながらも、智花は動きだけ冷静で「ふん……ん?」と言いながらティッシュを私の目の前に置いた。

「ちょっと待ってね。えっと……香澄、どうなったの?」

 目からこぼれようとする大量の雫を、私は下唇を噛む強さで誤魔化そうとした。

「いいよいいよ我慢しなくて。別に、まだ眠くないし。話聞くよ?」

 智花の優しさが、私のタガを壊した。

 涙のダムは決壊し、智花に抱き着いて涙を流していた。

「一旦、泣こうか」

 まだよく分かっていないからだろうか、智花は私の頭を撫でながらどこか上の空だった。


「もう、大丈夫そ?」

「……うん」

 ひとしきり泣いた私は、なんとか冷静を取り戻せた。

「それで……どうなったの?」

「あのね……」

「うん」

 フラッシュバックで出てくる思い出が幸せで辛い。

「降った理由を話しちゃったの……」

「あー……うん」

「それでね……」

「うん」

「李月くんはね、それを知りたかっただけっぽいんだ……」

 探りを入れて、李月くんの目を見て、感じたことを智花に喋った。

 きっと、この年が変わるこの日、昔の事を喋って新しい年を始めるために、今日話してくれるって考えたんじゃないだろうか。

 それで互いに心機一転して、お互いの道を歩んでいく。

 李月くんはそれを神社で願ったんじゃないだろうか。

 私が既読を付けなかったことよりも、やっぱり振った理由を詳しく聞きたいとはっきり断言された。

 それは、何よりの証拠であり、あの熱心な目を見たら私だって悲しい顔を浮かべてはいられなかったんだ。

 でも、足取りが重くなっていたらちょうど光のない岩場に座らせてくれて、だから、私はその時に心がひどくすさんで、もうこの場にいるのがきついと感じた。

 だから、何も言わないで逃げてしまった。何か言ってまた繋がろうとすると、本当に壊れてしまいそうに感じたから。

「香澄……よく聞いて」

「……うん」

「もう一度しっかりと言うね」

 智花は私の頬を持って、目を合わせた。

「それは本当に、稲吹さんの事を考えられてる?」

 何が言いたいのだろうか。

 事実に基づいた考えをしたら、この結論に至るのが自然で、当たり前のことだ。

 どこに矛盾点があると言おう。

「香澄、スマホとか確認してみたら? もし、これで稲吹さんから連絡があるなら、行った方がいいと私は思うよ」

「でも……」

「またそうやって意味づけして逃げるの?」

 え……

 その言葉は、私の心をひどく痛みつけた。

「そんなに理屈が必要?」

「だって……」

「ううん、違うよ。香澄、気持ちは言葉にしないと伝わらないんだよ」

 ん……

 一理はある。実際にそういうことは幾度と経験してきた。

 だけど、私は何人もの人を見て、傾向などを把握して、人を観察することを趣味としている人間だ。

 体の動きだけで、空気感だけで、多少なりと分かる気持ちがある。考えがある。

「香澄が言うこと、いっつもこう思っただけなんだもん。その時に目が泳いでてとか、心理学を侮辱するつもりはないけど、それで相手を分かった気になろうとするのは、香澄の悪いとこだよ」

 ぐうの音もでない。

 でも心が反発する。

 もやもやが収まらなくて、私は叩きつけるようにスマホを智花に突き出した。

「そんなに言うなら、また呼んでみたらいいじゃん……どうせ、既読もつかないよ……」

 そんな負け惜しみを吐くと、智花は納得のいかない顔でスマホを覗いた。

「そんな相手から今、電話がかかってきてるんだよ」

 少しむすっとした顔を見せて、スマホを私の方へ押し返した。

「こんなのどうせ、もう縁を切ろうって言うだけの会話だよ」

「まだ話してもないんだよ?」

「だから……!」

「こんな寒い中、外を今走り回って探してるかもしれないんだよ?」

「……え」

 そんなこと考えてなかった。

 いや、私と縁を切るつもりでいるだろうから、本来そんな必要はないだろう。

 だけど、私が一方的に逃げた場合はどうなる?

 それは、最後の別れ話も出来ずに逃げられたということで、探すのは必然的ではないだろうか。

「稲吹さん。香澄を探して風邪ひいちゃうかもしれないよ」

 でも、私の心はそんな訳がないと、否定する心が勝ってしまって動けない。

「香澄……」

 溜息を吐かれた私は、また涙が流れた。

「ごめん……動けないから……助けて」

 そういうと、智花は呆れた表情からころっと顔を変えて頷いた。

「いいよ。どうすればいい?」

「電話、かけてほしい……」

「分かった」

 私のスマホを取って、智花は李月くんへ電話をかけた。

 これで証明してやるなんて気持ちは、もうなかった。

 智花が言うことを、理解できてしまったから、私は久しぶりに人を信頼することにした。

 昔とは違う。中学校の頃のみんなとは違う。

 これだけ愛されているから、嘘何て吐かれてないはずだから。



 香澄……?

 もう明かりも少ない街中の道を走っていると、香澄から電話がかかってきた。

 無事だったか……

 すぐに電話を受け取ると、聞こえて来た声は香澄ではないような声だった。

「リツキくん……」

 誰だ……?

「香澄じゃないですよね。誰ですか? そのスマホの持ち主、別の人なんで、返してもらっていいですか」

「あはははっ、よく分かったね稲吹さん」

 ん?

「あー……古賀さん?」

「そうそう。香澄なら横で動けないのに顔だけあわあわさせてるから心配いらないよ」

 そうか……よかった……

 安堵と共に、その状況が頭に浮かんできて微笑みと笑いがこみあげてきた。

「多分、もう事情は聞いてるんだよね」

「うん」

「なら、ひとまず安心したって伝えておいてもらえたら嬉しい」

「了解~。でも、香澄が喋りたいみたいだから、変わるね。たぶん数分間は喋らないと思うけど」

 え?

 がさがさとスマホから物音が聞こえてくる。

 何が起きてるんだ……

 いまいちよく事情が把握できていない。

 つまり……古賀さんの家に居るってことでいいんだよな……でも、動けないって……

 頭にカチコチに固まった香澄と、ロープで締め付けられている香澄と、布団に包まって芋虫みたいになっている香澄と、緊張で肩を上げて固まる香澄、色んなパターンの香澄が浮かんでくる。

 だめだ……全て可愛いになってしまう

 頭を振って冷静さを取り戻した俺は、無音のスマホに喋りかけた。

「香澄に、変わってる?」

 そう言っても反応がない。というか、本当に音が聞こえない。

 ん……?

「香澄、えっと……怒ってる? 俺、また君に何かしたのかな」

 やはり無音だ。

 ここまで無音に出来るのも才能だろう。

 数分間は喋らないかもしれない……ね。本当にそうなるのか……

 スマホを耳に当てたまま、立ち止まると汗が冷気で冷えたのか、くしゃみが出た俺は一度家に帰るために歩くことにした。

「えっと……喋れるようになったら、いつでも喋っていいから。それまで、待つから」

 そういってもやっぱり無音だ。

 んー……

 何か違和感がしてスマホを確認すると、画面が真っ暗だった。

 え……

 電源ボタンを押したが、電源がつかない。

 もしかして……

 探すときに、ずっと連絡がいつ返ってきてもいいように電源をつけていたからか、このおんぼろスマホの充電はいつのまにかなくなっていたようだ。

 おいおいおい……

 俺はすぐに家に向かって走った。

 ここからじゃ頑張ってもに十分はかかるぞ……いや、

「十分で帰る……!」

 そう意気込んで、いつもよりだいぶ早いペースで走り始めた。

 香澄が待ってるんだ……!

※この作品は他サイトでも掲載しています。

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