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生命線上に独白の告発を  作者: 為世 斐文


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30/35

第30話「――に、二人で告白を」

 第八話「」



 寒いのに暑い。

 人も少なく、静かな環境に香澄の鳴らす下駄の音しか耳に入ってこない。

 コツコツと、石にぶつかる音が、俺の地面を踏むリズムと重なったりずれたり、逆に合わせにいってしまったり。

 何も喋っていないのに、足音だけで会話しているみたいで、面白おかしくて、不意に笑みが浮かぶ。

 思えばこの一年は色々な事があった。

 高校に入学する前に別れて、割と早めにばったり出会って、水族館に二度も行って、ずっと君を想って過ごしてきた。

 やっぱり俺は香澄が好きだ。

 言え、言え、言え……

「……香澄は、何をお願いするの」

 ばかが……

 好きだとは言えなくとも、俺は「香澄」としっかり対面で言うことが出来た。

「……これから、幸せになれますように」

 これから……

「……りつは」

 え……

 香澄は短期間で俺の名前の呼び方をころころ変えた。

 距離を取ってか「李月くん」呼びになったかと思ったら、今日はまた「りつ」と呼んできた。

 二人きりだし、誘ってきたし、期待したい。

 言ってもいいだろうか。もう好きだよと、伝えてもいいだろうか。

「りつ……あのね」

 香澄はゆっくりと立ち止まった。

「既読……付けなかった理由をちゃんと言えてなかったから、怒ってない……?」

「そんなのどうでもいいよ。俺はもっと知りたいことがあるから」

 言える。言え、今だろ

 胸が熱くなる。

 時間が勝手に進むのがひどいほど憎い。

 香澄は口を閉じずにこちらを覗いている。その目には俺がどう映ってるだろうか。

 ひどく馬鹿で、滑稽で、落ち着きのない“らしくない”俺じゃないだろうか。

「……私が降った理由?」

 香澄は顔を曇らせた。

「それは……」

 気になりはする。もしかしたらまだ俺にその原因があってしまうかもしれない。そうなると今ここで告白しても、香澄は承諾してくれないかもしれない。

 一度、聞けるなら聞くか……

「教えてほしい……」

 香澄は何を考えているのか、俺の目を真っすぐ見つめ、微笑み目を伏せた。

「分かった。ちゃんと話すから、一度、お参りしたいな。そのあと、ちゃんと話すから」

「……分かった」

 香澄はまた俺を見て微笑んだ。

 その様子はまさに今、命が果てる寸前に見せる花の輝きのようなものに見えた。

 何かまた、俺たちは交差している気がする。今までも、ずっと交差して、すれ違ってきた。

 やはり、自分の気持ちを伝えるなら今しかないかもしれない。

 勇気出せ俺……!

 静かに前を歩き出した香澄に、俺も呼吸を整えながら着いて行った。



 りつは、やっぱり気になった。私が降った理由を教えてほしいと言った。

 それはつまり、それが根幹の理由で今日も来てくれたのだろう。

 私たちは会ってもいい存在だけど、二人とも違った理由で会っているなら、私はいまここで神に願いたい。

 もし時を戻せるなら、私はあなたとちゃんと話しをしていたと。

 そうすれば今の状況になることなんてなかったんだ。

 こんなにおめかしをして、ばかばかしい。

 張り切って、りつにもっと見てほしくて、かわいいって言ってもらいたいなんて思った私は、実に滑稽だ。

 五円玉を放り、手を合わせる。

 この世界が、止まってくれたらいいのに。

 そうしたら、この人に愛を伝えられるのに。


 ――りつが、好きです。ごめんなさい……大好きなんです。もう、許してください……




 香澄を真似して、俺も五円玉を入れた。

 香澄のご縁が俺になってくれたらいい。

 小さい君の手に重ねて手を合わせたい。

 目を瞑ると永遠を感じる。

 この人に、上手く愛を伝えられるだろうか。


 ――香澄が、好きです。お願いします……大好きなんです。もう、見失いたくない……




 神社の鳥居から出て、最初に待ち合わせをした場所までやってきた。

 香澄は慣れない下駄に足を痛めたのか、少しぎこちない足取りをしている。

「足、大丈夫? 怪我した?」

「え……あ、いや……うん」

 おんぶとか……キモイよな……

「ちょっとそこで休憩しようか」

「あ、うん」

 座れる場所はないけど、少し出っ張った岩があったため、香澄をそこに座らせた。

「話……聞きたいよね」

 上に木があって、暗くて香澄の表情が読み取れない。

「うん」

 そう答えると、しばらくの沈黙の後、香澄の声が小さく聞こえてきた。

「私……振ってないよ」

「……え?」

 香澄は震える声を出していた。

 俺は言われた意味が分からなくて、思考回路が追い付かなかった。

「私ね……りつの優しさに耐えられなかっただけで……それでらしくないなんて言って、突き放して……でも、別れようって私、言ってないよ……」

 記憶を遡ると、確かに言っていなかった気がする。

 でも、笑ってくれない。目を合わせてもくれない。話もしてくれない。それで「らしくない」と言われた。それに愛想をつかされたと、放りだしだ。

 確かに、別れようなんて言葉は言われていない。

「え……じゃあ、あの時まだ付き合ってたの?」

「……うん」

 それは分からないと豪語する自分と、しっかりと無視なんてせずに話を聞いていればこうなっていなかったのかもしれないという意見が交差する。

「でもね……りつは悪くないよ。悪いの私なの」

「いや……」

「ううん。りつの優しに依存しすぎて、甘えてたの。全部、全部……りつは包み込んでくれたから……罪悪感だけが重なって……私は、あなたに何も返せなかった……」

「そんなことない」

「でも……笑いもしない。目も合わせないで、らしくないって突き放して……あなたをここまで追いやったのは私。言われもない悪女だよ」

 つい最近聞いた単語が耳に入って、俺の心にも香澄の言う罪悪感がのしかかった。

「違う。香澄は悪女なんかじゃない。君は、君は……」

 言葉の先が出てこない。

 喉でずっと突っかかって、何も出てこない。

「ごめんなさい……あなたが知りたかったことは、こういうことだったの……。ずっというタイミングを探して、今日やっと言えました。ごめんなさい」

 敬語……

 かつかつと下駄の音が聞こえる。

「香澄?」

 岩場に手を伸ばしたが、暗くて香澄がどこにいるのか確認できない。

 スマホ……

 スマホのライトをつけると、岩場にも近くにも香澄がいなかった。というか、下駄の音も消えた。

 どこ行ったんだよ……まさか、足音すら消してこの場から……

 すぐに香澄に電話をかけたが、香澄からの応答はなく、俺は急いで街中の方に向かって走った。

 行く場所といったら、必ず家になるだろう。それなら、一度は街中の道を通らないと帰れないはずだ。こんな寒空の下、野宿なんてするわけがない。

 まだ、俺は言えてないんだ。

 しっかりと君に、好きだって。




 家に行って、色んな場所を探したけど香澄は見つからなかった。

 なんで逃げるんだよ……

 こうなるならもっと早くに君の手を掴んで、「好き」の二文字を伝えればよかった。

 また後悔かよ……何度目だよ……!

 香澄に再度連絡を取ろうとして、昔に待ち合わせをして、佐江月に殴られた公園のベンチに腰掛けた。

 時刻はもう零時を回って、どんどん寒くなってくる。

 雪がぽつりぽつりと、俺の体温を冷やしていく。

 香澄……このままじゃ停滞温床になるぞ……

 告白なんかよりもそっちの心配が大きすぎて、焦りが頭の中を充満する。

 くそ……くそ、

「くそ……!!」

 今日の香澄の笑顔が頭にずっと流れてくる。

 見つける……絶対に……!

 寒くて、冷たい足で走り出した。

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