第26話「友達2」
そしてカラオケを終えた私たちはトリュッセンに向かった。
「俺、モンブランが大好きなんだ~。あの……な。やっぱり、形だよな。茶色で」
「おい維吹?」
「なんだよ」
「下品すぎる」
「え~、先に感じ取れた船本も船本じゃない?」
「は? いや、それは」
道中、やっぱり三人は子供みたいな会話をする。
「騒がしいな」
「うん」
でも、こうやって二人で歩けるから、私はちょっと嬉しい。
「やっぱりイチゴのタルトは買うの?」
「え?」
「昔買ってたじゃん」
「あー……」
なんで覚えてるの……
「うん。あったら買いたいな」
「変わってないね」
「そういう李月くんだって、どうせチーズケーキ買う癖に」
「いや、ショートケーキにするよ」
ええ……
まるで私だけが相手の事を分かっていないようで恥ずかしい。
「でも覚えてたんだね」
「ん……うん」
どう接したらいいだろう。
李月くんは私に嫌われてないかを心配していた。それはつまり、単純に会ってもいいと言うことでもあり、またそれだけ気を遣う相手でもある。
でもそれは友達の感情。李月くんは、私をどこの地点で考えてくれているんだろう。
付き合う前として私を見ているのか、もう付き合った後で二度とそういうことがおきるわけではない存在なのか。
聞けばいいけど、聞けない。
恥ずかしいし、そんなことを聞くのは気持ち悪いし、重い人だと思われたらそこで終わってしまう。
「そういえば、李月あの話どうすんだー?」
前に居た古江さんが首をフクロウのように回転させて、体はほぼ前なのに顔だけが後ろを向いている怖い態勢を取った。
「え、古江なにそれ!」
智花もそれに驚いたのか、でも笑いながら古江の肩をバシバシ叩きながら笑い出した。
「え、昔から出来るんだよねーこれ」
そう言って何度も披露している古江さんたちを見ていると、悩んでいることが馬鹿げていると嘲笑する自分が生まれるけど、やはり私の核に触れられるのは“りつ”だけ。
偽りの私を引き出してくれるのは紛れもない“りつ”で、私にもそれは出来ないことだった。
やはりこの人は私にとって、とても特別な存在だ。
「んで、どうすんのー?」
また笑いを取る古江さんとは対照的に、李月くんは随分と落ち着いた顔で、考えを巡らせているみたいだった。
「行こうかなとは思ってるけど、まだ遠い話だし……今決めることでもないかなーって」
「まあ、そうかー。でもいいよなー」
「いや、そんなにいいものでもないよ」
何の話なんだろうか。
「まあ、今は二人もいることだし、別の話題にしよう」
李月くんは私たちを気遣って話をそらした。
でもさわりだけを聞いた話というものは、どうしてこうも気になってしまうのだろうか。
気になる……
そわそわした心で李月くんを見ると、李月くんもまたこちらを見ていた。
「なんでもないよ」
そういう李月くんの目の奥で、微かに淀む何かが見えた気がした。
ん……?
でもそれを確定させることは出来なかった。
「さっさとケーキ食べようぜ」
またすまし顔で後頭部に手を添えて、前だけを向いた。
何か隠してる……?
そう考えても、何も分からない。
考えても仕方ないかな……
もやもやする。
「私が聞いとこうか」
しばらく李月くんを見ていたからか、智花が私の横でそう囁いた。
「お願い……」
智花は私の返事に笑みと頷きで返事をして前列に戻っていった。
何か変な気分……
クリスマス、みんなでケーキを食べてから結局は遊びに行くことも連絡を取ることもなく時間が過ぎて行ってしまう。
俺から動いた方がいいよなー……でも、前確か地元の方に帰ってなかったけか……
「はぁー……」
仲直りできたのに、俺の親友は溜息で変わりないみたいだ。
付き合いたい……あの時の言葉ってどういう意味だったんだ……
『私たちって今は“友達”だよね……?』この言葉が、今頃ずっと頭に残っている。
言い方としては完全に「これ以上近づかないで」という現れな気がする。
でも、今はという言い回しを見ると「これからもっと仲良くなるよね?」という確認ともとれる。
玉乃さん難しすぎるよ……
時間だけが過ぎていく。
はぁ……だめだ。ちょっと散歩にでも行こう……
厚着をして充電がもう半分もないスマホを片手に、俺は外へ出た。
吐く息が白く、冷たい冷気に晒される鼻を温めては視界から消えていく。
耳も鼻も痛い……
手で触れて温めたくとも、ポケットから手を出すことが嫌に思う。
どこ行こうかなー……
漠然と出てきたから行く充てなんてなく、意味もなく行ったことのない道を歩き続けた。
なんだここ……?
帰り道はスマホがあるから大丈夫だろうと思って、念のため今の場所を確認しようとスマホを取り出すと、もう充電が残り少なかった。
どうやら電源を切らずに持ってきてしまっていたようだ。
しまったー……
赤いゲージと残量低下の文字だけが儚く画面に映る。
一旦電源を消しておくか……
電源を消して帰ればよかったのだが、俺はただ漠然と近くにあった店に入った。
金なら少し持っている。
何か掘り出しものとかあれば買っていくか……
そんな気持ちで探索を続けていると、どこか見覚えのある顔がちらっと映った。
ん……?
相手も俺に気づいたのか「あ……」なんて言葉を喋りながら近づいてきた。
「奇遇だね。稲吹くん」
「そうだね」
相手はサッカー部マネージャーの桜田さんだった。
「今日は彼女とデートじゃないんだ」
「だから……あれは本当にまだ彼女じゃなくて、」
彼女はよく玉乃さん関連で俺をからかってくる。
それが少しうざいようで、どこか誇らしい。
「てかてか、私服の私だよ。ちょーレアだよ」
「そうかい」
桜田さんは玉乃さんよりも背が小さく、愛嬌がいいからみんなにモテている。
サッカー部の何人も告白をしているし、サッカー部に飽き足らず運動部全般から告白されているらしいが、ことごとく全てを断っているらしい。
どれだけの面食いなのかと思ってしまうが、まあ彼女のスペックを考えるとそれが妥当なのかもしれない。
「もー……。それだとあの子振り向かないんじゃない?」
「いらないお世話だよ」
「へへっ」
かわいらしく笑う桜田さんは一体何をしに来たんだろうか。
「でも、まさか稲吹君がこんなかわいい雑貨店に足を運ぶカワチイ男子だとは思わなかったな」
ん……
確かに、辺りを見渡すと全てが小さい雑貨で、見ているだけでも女子が好きそうだと直感できる店だった。
周りには男性はおらず、いてもカップルの人たちだけだ。
「私たち、今はみんなからどう見られてるのかな」
なんて悪魔のくせに天使のように笑う桜田さんは、俺の腕をつっついた。
「やめろよ」
「ごめんごめん」
そう言いながら、心ここにあらずと言った様子で目の前の雑貨を手に取りながら微笑んだ。
んー……
「俺、帰るわ」
「え、もう?」
「え、だめ?」
「いや……だめではないんだけど……」
なんだよ……
「まあ、帰ってもいいけど」
「ん? うん。じゃ、じゃあ」
ぎこちない桜田さんの答え方に、俺も戸惑いながら声を出すと、桜田さんが俺の手を掴んだ。
「やっぱちょっと待って」
「え? なんで」
「ちょっと話しようよ」
「いや……なんで?」
「え、だめ?」
「え、うん。帰りたいというか……スマホの充電もないし」
「モバ充あるよ」
「だとて……」
何のつもりだろうか。
桜田さんは淡々と喋っては、結果的に俺を引き留めている。
「ちょっとだけでいいから話そうよ。こう見えて相談とか乗れたり?」
「いや……求めて……」
頭に玉乃さんの言葉が浮かんでくる。
んー……
「分かった。ちょっとだけ」
「ん、これだけ買ってくるね」
「ああ、うん」
桜田さんはいつもよりだいぶ落ち着いた雰囲気を出している気がする。
まるで学校とは別人のようだ。
いつもはあんなに落ち着いて、淡々と喋ってきたりはしない。
もっと明るくて、言ってしまえばギャルみたいな乗りをしている。
何かあったのか……?
そうなると、話は変わってくる。
仕方ないか……
桜田さんのいるレジの方へ俺は足を運んだ。
※この作品は他サイトでも掲載しています。




