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生命線上に独白の告発を  作者: 為世 斐文


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25/35

第25話「友達」

「でもよかった……嫌いになったわけじゃなかったんだね」

 それって……

「普通に……既読付けづらかったんでしょ?」

 稲吹くんはまた悲し気に笑った。

「玉乃さんってずっと気を張ってるから、何日間か付けられなかったことをずっと考えてたんじゃない?」

 ……なんで分かるの

 稲吹くんはまた笑った。

「あってそうだね。俺、それならほんとに気にしないから」

 またどこかで見たすまし顔を見せた。

 自然と私の涙が乾いていく。

 ほんとに、すごいな……りつは

「うん……ありがと」

「ううん」

 私も話さないとね……

「あのさ……」

「うん」

 一呼吸を置いて、しっかりと稲吹くんの顔を見る。

「私たちって今は“友達”だよね……?」

「え……」

 こんなことを聞かれると思っていなかったのか、視線が落ち着かない様子で口を閉じた。

「答えづらいよね……ごめん」

「あ、いや……そう、だと思う」

 曖昧な回答に、私の心にまたネガティブな感情がへばりつく。

「知り合いとか、他人ではなくて……友達、なんだよね」

「……うん」

 それならまだよかった……

「ありがとう。ちょっと確認を取りたくて」

「あ、うん……」

 それならこうやって会うのも理由付けできる。

 少し安心した。

 でも……

「……私と会うの、嫌じゃない?」

 そう聞くと、稲吹くんはまた視線を動かして口を閉じては開けてを繰り返した。

 多分、いい言葉を探そうとしているのだろう。

「全く嫌ではない。けど……」

 けど……

 そこまで言ってまた止まった。

 んー……嫌なんだね

「嫌なら……はっきり言ってね」

 そういうと、稲吹くんは首を横に振って口を開けた。

「嫌ではないんだけど……いや、うん。嫌じゃない。それだけは言える」

 妙にきりっとした顔つきで、稲吹くんは私の顔を真っすぐ見つめた。

 そっか……

「うん。分かった」

「うん」

 よかった……

「たっだいま~!」

 確認を取り終えると、元気よく智花が戻ってきた。

「お、稲吹さん居たんだね。うっす」

「あ、古賀さん。ちょっと呼ばれて」

「へー、まあ歌おう香澄!」

 あ、話そらした……

「俺は、遠慮しとく」

「え……」

 ……あ

 忘れていた。稲吹くんはカラオケが苦手なこと。

「曲入れちゃったから、なんとか言ってよ香澄」

「え……」

 帰ってきて早々に、智花は曲を歌い始めてしまった。

「ごめんね……誘っちゃって。李月くんがカラオケ苦手なの忘れてた……」

 昔、ふたりでカラオケに行こうという話をしたときに「俺、人前で歌うの恥ずかしくて無理なんだ。ごめん」と言われていたのを今思い出した。

「ああ……いいよ。聞いとくし」

「あとで古江さんたちも来るらしいけど……」

「大丈夫。今はとりあえず二人で歌いなよ。聞きながら宿題とかやっとくしさ」

「うん……」

 李月くんはそう言ってバッグからノートを取り出した。

「香澄、何歌う~?」

「え、もう?」

「え? うん。私の番終わったよ?」

「え……」

 どうやら李月くんに視線を送りすぎて気づかなかったみたいだ。

 これはだめだ……今はとりあえずカラオケしなきゃ

「ごめん、ごめん」

「“李月くん”に戻れたね……」

 あ……

 智花は耳元でそう囁いてマイクを渡してきた。

 李月くん呼びになっていたことに無自覚だった。

 うぅ……

 顔が赤くなって、李月くんに見えないように立ち上がった。

「立って歌うの初めてだね」

 こんな時に限って、李月くんはタイミング悪く話しかけてきた。

「そ、そうだね」

 李月くんは何を思ったのか、席を移動して対面の方へと座ってしまった。

 まだ部屋は暗い。今ならぎりぎりばれないけど、それでも少し動揺していることだけは伝わりそうで怖い。

「あ、古江たちが迷ってるみたい。ちょっと私行ってくるね!」

 智花……!

 智花はにまにまと笑いながら室内を飛び出していった。

 もう……

 対面に移動されたから、私は席に座って顔を伏せた。

 冷静に……

「玉乃さん、歌わないの? もう始まってるけど」

 頭を冷やしていると李月くんが素朴な疑問をぶつけてきた。

「う、歌うよ。でもちょっとマイクの調子がおかしいみたいで」

「え……店員にいう? 一旦曲止めようか?」

「い……大丈夫」

「そう?」

 気にせずに勉強しててよ……

 そのまま歌詞のない曲が半分ほど流れ、そこから歌うのもなんだか恥ずかしくて私はマイクをテーブルに置いた。

「どうしたの? やっぱりマイクおかしいの?」

「う、うん」

 正面を向くと、李月くんがマイクを手に取っていじっている。

 あ……

「あー」

 李月くんはマイクの電源を付けて、声を出した。

「ん? なんか直ったよ」

 李月くんはまたあのすまし顔でマイクを手渡してきた。

「あ、ありがと……」

「うん。もう曲終わっちゃうね。もう一回流す?」

「あ、うん……」

 そのままもう一度同じ曲を入れ直してくれた。

 好きだという気持ちが先走って、今にも言ってしまいそうになる。

 これから私が会いたいということがあれば、それは好意の印だ。

 「らしくない」と言った理由を話すためじゃない。ただ本当に会いたいと思うからだ。

「李月くん……今日ケーキって、食べる?」

 あ……

 つい、私はそんな言葉を李月くんに投げかけていた。李月君は口を開けて固まった。

「あ、わ、忘れて」

「え? えー……た、食べる? けど」

 慌てる私に合わせてか、李月くんも慌てて、ぎこちない空気だけが流れた。

「ト、トリュッセンに行こうかなって思ってて、あの、えっと、食べるかなって思って」

「ん、それはみんなでってこと?」

 まだ慌てる私と対照的に、李月くんはだいぶ冷静になって聞いてきた。

 あ……う

「そ、そう!」

 私はもう何が何だか分からなくなって、またとっさにそう言葉が出ていた。

「いいじゃん。じゃあみんなで食べよう」

「う、うん!」

 でもよかった。これでまだ李月くんの近くに居られるということだ。

 冬休みも遊びに誘えるのか分からない。もしかしたら今日が最後の日になってしまうかもしれない。それなら、誘わないと長い間会えなくなってしまう。

 慌てながらではあったし二人きりの想定とは違ったけど、それでも遊べるんなら本望だ。

「また歌ってないね」

 そう言って李月くんは笑った。

「あ……そうだね」

 その笑いにつられて、私も笑みをこぼしていた。

「おいーっす!」

 あ……

「え、何この部屋……なんか暑いんだけど」

 古江さんがいきなり入ってきては、李月くんに頭を軽く殴られていた。

「女性がいるのにそんなこと言うんじゃない。しかもそんなに暑くないだろ」

「ごめんごめん」

 でもタイミングがいい。まるで見ていたかのようだ。

 見てた……?

「智花……?」

 隣に座った智花に、私は訝しむ顔を向けると、智花は顔をそらした。

 あ……!

「ねえ、見てたの……?」

「え? なんのことか私わかんないなー……。あ、コンビニ寄ってきてさー。これみんなで食べようと思って買ってきたんだー!」

 あ、また話そらした……

「感謝~」

「おうおう、跪けー」

 まあ……元に戻れたし、私も

「ありがと、智花」

「うん」

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