第18話「私 too 私4」
季節は完全に冬になった。もう十二月も半ばだ。そろそろスカートじゃ耐えられないほど寒くなってくる。
偽りの私がお揃いのキーホルダーを買ってからは、りつと会える日がなくなっていた。
智花に気持ちを打ち明けてから、私は少し気分が楽になった。
私だって気づいている。偽りの私というのは、単純に〝恋愛をしてる私〟なんだってこと。
多重人格とかの話ではなくて、恋愛モードに入ったら甘えてしまう自分がいるってことなんだって気づいている。
でもだからこそ、相手も甘えてほしいし、背中を預けて預けられたい。平等がいいんだ。
そう気づいても、りつとは今は付き合っていない。一度別れた関係なんだ。今言ったって遅すぎる。
このことを智花に相談しとけばよかった……
「あ、玉乃さん六番テーブル行ってくれる?」
「あ、はい。分かりました」
私は最近、またバイトを始めた。佐江月さんのいる場所ではなく、また別の場所だ。
今、佐江月さんに会うのはちょっと気まずい。
「ご注文、お決まりでしょうか?」
久しぶりに営業スマイルを繰り出すと、そこにはりつたちがいた。
え……
私の営業スマイルは佐江月さんと会った時のようにすぐに剥がれ落ちていった。
「おお! 玉乃さんじゃん! 偶然だなぁ」
先は佐江月さんと会いたくないと言ったが、訂正しよう。りつに会うくらいなら、佐江月さんと会っていたと。
「あれ、香澄?」
「え……?」
後ろからハンカチで手を拭いている智花が話しかけてきた。
「あれ、ここだったんだ。バイト」
「あ、うん……」
何事もなかったかのように智花はりつたちの席に座った。
え……なんの集まり?
「玉乃さん、注文いい?」
「あ、うん」
廊下側の席にいたりつから注文を聞いた私は、そそくさとキッチンの方へ向かった。
「先輩!」
「どうしたの?」
「すみません……キッチン、変わってもらえませんか……」
「いいけど、えー……ちょっと待ってね」
「すみません。ありがとうございます……」
私はなんとかキッチンの方の仕事を変わってもらって、できるだけりつとかかわらないようにした。
「智花……」
翌日、私は学校についた瞬間に智花の席に向かった。
「おはよー」
「うん、おはよう」
智花はやけにテンションが高いようにうかがえる。昨日、何があったんだろうか。
「昨日のこと聞きたいって顔してるね」
「う、うん……」
智花は笑いながらスマホを机に広げた。
「前見に行ったアニメの映画あるでしょ? それの新作が出るから見に行こうって古江が言ってきたんだよ」
あー……
「んで、香澄の空いてる日教えて」
智花はにこにこと笑みを浮かべた。
怪しい……
別に嘘はついていないように見える。だけど、ちょっと悪寒がする。
何かおかしな点はなかっただろうか。いや、まずまず集まってること自体がおかしい。
逆におかしくない場所を探す方が難しい。
ん? ちょっと待って……約束するだけならスマホで完結するはずじゃ……
それに気づいた私はすぐに断る方向へ、脳をフル回転させた。
「あ、私、今月いっぱいは忙しいかも」
「えー……。あ、シフト表見せてー」
智花は楽観的に手を伸ばした。
今、りつと関わるのはまずい。
まだ私の中で整理ができていないんだ。
これからのこと、これまでのこと。
このどちらにも整理がついていない。
「できるだけ……りつと会いたくない」
そう伝えても、智花は笑顔のまま手を伸ばしている。
「あの……智花?」
「見、せ、て?」
笑顔でも圧を感じる。
「りつと会わないでいいなら……」
「うん」
智花は大きく縦に首を動かした。
智花は分かってくれているはずだ。きっと、本当に会わないですむはずだ。
「わかった」
智花の押しに負けた私は潔く、シフト表を智花に見せた。
「あ、香澄。嘘ついたでしょ」
「ごめん……」
「ふふっ、大丈夫。わかってるから」
その言葉を聞いて私は安心した。
きっと、大丈夫なパターンだ。
「十九日は開けといてね」
え、それって……
そう言い残した智花は「トイレ」と言って教室を出て行ってしまった。
智花が言った十九日とは、それは〝りつの誕生日〟だ。
どうあがいたって合わないなんてことはないだろう。
どうしよう……
さすがに私の誕生日を祝ってくれたりつに、私も何か買っていこうとは思っていたが、みんなも一緒となると、少し変な気分になる。
二人きりで渡したかったとかではないけど、恥ずかしい。そして、その日に遊びに行って、これからのことの判断を決めようと思っていた節もある。
これは困った。
どうしよう……
そんな迷っている時間はあっという間に過ぎ去り、もう明後日がりつの誕生日となってしまった。
「玉乃さん、なんだか今頃は精が出てるね」
「は、はい」
今日までには心の整理をつけておこうなんて決めていたのに、全く心の整理がついていない。
むしろ、明日のことも相まって、不安要素が追加された脳は考えることを放棄している。
誕生日プレゼント何か買わなきゃ……
前、りつは誕生日としてスイーツ巡りの代金を半分ほど、水族館の代金も半分ほど、キーホルダーは完全に全額支払ってくれた。
偽りの私のばか……!
こんなのちゃんとしたお店に行かないと取り返しのつかないほどの金額だ。
バイトでお金はちゃんと貯めれているから、金額は問題ない。
お返しをするんなら、日にちとしては明日くらいしかない。
仕方ない……誘うしかないよね
今思い返せば、遊ぶときはいつもりつから誘ってきてくれていた。話し合いという名目ではあるものの、ふたを開ければただの遊びと変わりない。
でも、本来は話し合いをするための時間だ。わざわざ時間を作ってくれている可能性だってあるわけで、それを私目線で勝手に「デート」だと決めつけるのはいかがなものか。
正直、りつは私を誘う権利も理由もある。
それは、今述べたように話し合いをするため。実際は降ってないが、降られた理由を知るためにりつは私を誘える。
でも私はどうだろうか。りつに会える権利も理由も何もない。
だから私がりつを遊びに誘った時点で、それはデートを申し込むのと同じことになってしまう。
私は話そうなんて気が生まれているわけでもないし、第一に話すとしても「全部りつの勘違いなんです」なんて言えるわけがない。
全部私が悪いことなんだし、話す内容が謝罪だけではりつの気もすまない。
だからこそ、私がりつを誘う理由が正当化されることはなく、ただ遊びに行きたいと言っているのと同じことになってしまう。そんなことは許されてはいけないことだ。
でも私の誕生日を祝ってくれた。別れているのに、お金も出してくれた。
そんな抜け駆けのようなこと許せない。私だって祝ってあげたい。とびきりの笑顔で祝ってあげたい。
だけど、こんな私が祝っていいんだろうか。
悪いのは自分なのに、それを全てりつになすりつけて、傲慢な事しか言わずに困らせて、今じゃ自分の保守のためにずっと避け続けてる。
私が思いを明かしたときに、りつは許してくれるんだろうか。
「玉乃さん、そろそろ上がっていいよ」
「あ、はい」
バイトも終わって、私は夜の公園にやってきた。もちろん、冷たい風で頭を冷やすためだ。
そうでもしないとやっていられない。
遊びに……行こう? 行きたい? 行きませんかは違う……
そもそも誘い文句が思い浮かばない。
冷静になったことで、逆に偽りの私が動かなくなってどう接していたのか忘れてしまった。
敬語じゃなかったよね……あれ? 私、どんな風に喋ってたっけ……
スマホを打つ手が止まる。寒いし、思いつかないし、緊張するし、怖い。
誘った時、それは正当化される理由の一つとしてカウントしてくれるだろうか。りつは怒らないだろうか。
だめだ……明日、明日送ろう
情けない感情で、今日は家路についた。
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