第15話「私 too 私」
また一週間という時間が経った。
もう明日が私の誕生日。もうすぐで十六歳だ。
また一歩大人になって、りつよりも一歳だけ年上になる。
季節は少し肌寒くなってきた。ヒートテックを着ても冷気が貫通してくるほどだ。
タートルネック着ようかな……
北部では初雪も観察されたらしい。これからどんどん寒くなってくる。そして、冬休みと年明けも近くなってくる。今年はどんな冬を過ごすのだろうか。
「お待たせ」
「おう」
今日もまた、りつに呼ばれた。
なんでもやっぱり話しあいをしたいと、遊びに誘ってきた。デートしたいならそう言えばいいのに、私は否定するつもりはないのに。
でも、もしりつが付き合うつもりがなかったら、私は本当にゴミみたいな人間になってしまう。だから私から付き合おうなんて、口が裂けても言えることじゃない。
だから比喩で前伝えたつもりだったのだが、りつは芯があるから伝わらない。
分かっている。理解はしているつもりだ。りつは優しくて正義感が強いから、一度別れた人と慎重になることはわかっている。
でも、私たちは別れたわけじゃない。曖昧な関係になっただけ。だから、告白してくれてもいい。むしろ、告白なんて必要ない。
まだ、ほぼ〝付き合っている〟から。
「今日は寒いね」
「そうだな」
「どこ行くの?」
「スイーツ食べに行く。明日誕生日でしょ?」
「うん」
やっぱりりつはオシャレをしている。それが当たり前かのように。
私は期待をしてもいいのだろうか。そう思ってもいいのだろうか。
わからない。
私は今頃、どんな立場でいたらいいのかが分からなくなってきている。やっぱり、喋るタイミングを失ってしまった。
ただのりつの勘違いだなんてことは、今の私には言えない。
そんな責め立てるようなことを言ってあげたくない。まだムカついてはいるけど、やっぱり、私は好きだから言えない。
「少しお金だすよ」
「え……いや、悪いよ」
「俺がしたいからするんだよ」
「……わかった」
なんで誕生日を覚えてて、かつ祝おうと思うのかな……
「ここ、好きだったろ」
りつは私が唯一、本音で好きだって言った時の店に連れてきた。
「よく覚えてたね」
「まあな」
それだけ言ってりつはお店に入って行った。
トリュッセンか……ほんと、なんで覚えてるかな
水族館の時同様に、淡々と歩いていくりつの後ろを私は着いて行った。
「ここの店はさくらんぼゼリーが美味しいって言ってただろ」
「そうだね」
「行こう」
――ばか
「ここは、たしか杏仁豆腐が美味しいんだっけ」
「うん」
「入るか」
――ばか
「ここ、あんまり好きじゃなさそうだったな」
「そうだね」
「隣行くか。確か、白桃のブリュレがおいしいんだろ?」
「うん」
――ばか
「ここ、」
「ねえ」
私は淡々とお店を回り続けるりつの袖を掴んだ。
「話、聞きたいんじゃないの?」
話が聞きたいと言っている割には、お店の所要時間があまりにも短い。自分は何も注文しないで、私が食べ終わったらまた別のお店へと向かっている。
その道中もあまり喋ることはないし、一番聞いた言葉といえば「ここ」だけ。これでは矛盾している。
「聞きたいよ」
「じゃあ、なんでもっとゆっくりしないの?」
そう聞いたとき、りつはこっちを振り向いた。
「玉乃さん、もしかしてさ……俺の心が読めてないんじゃない?」
え……
そう言われて、私も気付いた。
確かに、さっきからりつの心が読めない。それもそのはずだ。りつの表情は最初からひとつも変わっていない。ずっと真顔。
楽しんでるのか、悲しんでるのか、悔やんでるのか、笑っているのか、何も読み取れない。
これじゃあまるで、別れる前のあの頃と逆みたいだ。
今日は私がりつの事を考えっぱなしで、笑かそうとかは思ってないけど、感情が読み取れずにうやむやな気持ちを抱き続けている。焦燥感もあるし、一度立ち止まって、もう話してしまおうかなんて気も生まれてくる。
「玉乃さんも真顔で、言動も少なくてじゃあ、何も読み取れないんじゃない?」
「そう……だね」
実演されたのだろうか。
りつは分かっていたのだろうか。私が告白をしたこと。
でも、それを受け入れないという意思を持って、今こんなことをしているんじゃないだろうか。自分は私のこんなところが嫌だったと、実演されたんじゃないだろうか。
私はりつに、こんなひどいことをしてしまっていたのだろうか。
初めて知った。こんなに心が締め付けられることは。
初めて知った。こんなにも相手を喜ばせようかって考えてしまうことは。
私は、何様なんだって、そう思い知らされた気がする。
逃げ出したい。今すぐにでもここから逃げ出したい。
聞きたくない。これからりつが述べるであろう説教も、心境も、返事も、何もかも聞きたくない。
心臓が嫌に音を鳴らして体を打ち鳴らす。喉から何かが出てきそうで、冷や汗が止まらなくて、目の焦点も合わなくなって、とても立っていられない。
でもりつの手は掴めないし、握っている線はなんの役にも立たない。
このままじゃあ〝私〟は倒れてしまう。
「古河さんから提案されてやってみたけど、やっぱり玉乃さんでもそうなるんだね」
「智花……?」
「うん。なんか、真顔でいたらどんな反応するか見てみたらって言われてさ」
そういってりつは笑顔を浮かべた。
「真顔でいるのってむず痒いな」
この顔は真実なのか。私は、助かったのだろうか。
「体震えてるじゃん。寒いなら早く言いなよ」
りつは怖くて震えている私の体を、大きなジャンパーで包んだ。
「冷たいデザートばっかり食べて、体冷えたんでしょ?」
「違う……」
――私はそんな能天気じゃない
言葉が出てこなかった。
それはきっと寒くて唇が震えていたから。のどが乾燥していたから。きっと、誰かによって口を封じられたせい。
それを言ってしまったら、昔のりつを否定することになって、この関係が悪化すると、私が攻められると思ったからじゃない。
「まあ、杏仁豆腐とかは別に冷たいわけでもないか」
そんなことをいってまた微笑むりつは、楽しんでくれているという認識であってるんだろうか。
その場合は、うれしいし、安心する。
「見てるだけで、楽しいの……?」
私がそう問うと、りつは「まあ、な」とよく見せるようになったすまし顔で答えた。
――じゃあ楽しんでるんだ
責められているのかと心配したが、しっかりと安心できた。
よかった。心の奥底からそう思った。
でも、私は……
――悪い人
「……早く行こ」
「え、あ……おう」
私はりつの手を引っ張った。
私のぐちゃぐちゃな顔は隠すように。
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