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生命線上に独白の告発を  作者: 為世 斐文


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15/19

第15話「私 too 私」

 また一週間という時間が経った。

 もう明日が私の誕生日。もうすぐで十六歳だ。

 また一歩大人になって、りつよりも一歳だけ年上になる。

 季節は少し肌寒くなってきた。ヒートテックを着ても冷気が貫通してくるほどだ。

 タートルネック着ようかな……

 北部では初雪も観察されたらしい。これからどんどん寒くなってくる。そして、冬休みと年明けも近くなってくる。今年はどんな冬を過ごすのだろうか。

「お待たせ」

「おう」

 今日もまた、りつに呼ばれた。

 なんでもやっぱり話しあいをしたいと、遊びに誘ってきた。デートしたいならそう言えばいいのに、私は否定するつもりはないのに。

 でも、もしりつが付き合うつもりがなかったら、私は本当にゴミみたいな人間になってしまう。だから私から付き合おうなんて、口が裂けても言えることじゃない。

 だから比喩で前伝えたつもりだったのだが、りつは芯があるから伝わらない。

 分かっている。理解はしているつもりだ。りつは優しくて正義感が強いから、一度別れた人と慎重になることはわかっている。

 でも、私たちは別れたわけじゃない。曖昧な関係になっただけ。だから、告白してくれてもいい。むしろ、告白なんて必要ない。

 まだ、ほぼ〝付き合っている〟から。

「今日は寒いね」

「そうだな」

「どこ行くの?」

「スイーツ食べに行く。明日誕生日でしょ?」

「うん」

 やっぱりりつはオシャレをしている。それが当たり前かのように。

 私は期待をしてもいいのだろうか。そう思ってもいいのだろうか。

 わからない。

 私は今頃、どんな立場でいたらいいのかが分からなくなってきている。やっぱり、喋るタイミングを失ってしまった。

 ただのりつの勘違いだなんてことは、今の私には言えない。

 そんな責め立てるようなことを言ってあげたくない。まだムカついてはいるけど、やっぱり、私は好きだから言えない。

「少しお金だすよ」

「え……いや、悪いよ」

「俺がしたいからするんだよ」

「……わかった」

 なんで誕生日を覚えてて、かつ祝おうと思うのかな……


「ここ、好きだったろ」

 りつは私が唯一、本音で好きだって言った時の店に連れてきた。

「よく覚えてたね」

「まあな」

 それだけ言ってりつはお店に入って行った。

 トリュッセンか……ほんと、なんで覚えてるかな

 水族館の時同様に、淡々と歩いていくりつの後ろを私は着いて行った。


「ここの店はさくらんぼゼリーが美味しいって言ってただろ」

「そうだね」

「行こう」

 ――ばか


「ここは、たしか杏仁豆腐が美味しいんだっけ」

「うん」

「入るか」

 ――ばか


「ここ、あんまり好きじゃなさそうだったな」

「そうだね」

「隣行くか。確か、白桃のブリュレがおいしいんだろ?」

「うん」

 ――ばか


「ここ、」

「ねえ」

 私は淡々とお店を回り続けるりつの袖を掴んだ。

「話、聞きたいんじゃないの?」

 話が聞きたいと言っている割には、お店の所要時間があまりにも短い。自分は何も注文しないで、私が食べ終わったらまた別のお店へと向かっている。

 その道中もあまり喋ることはないし、一番聞いた言葉といえば「ここ」だけ。これでは矛盾している。

「聞きたいよ」

「じゃあ、なんでもっとゆっくりしないの?」

 そう聞いたとき、りつはこっちを振り向いた。

「玉乃さん、もしかしてさ……俺の心が読めてないんじゃない?」

 え……

 そう言われて、私も気付いた。

 確かに、さっきからりつの心が読めない。それもそのはずだ。りつの表情は最初からひとつも変わっていない。ずっと真顔。

 楽しんでるのか、悲しんでるのか、悔やんでるのか、笑っているのか、何も読み取れない。

 これじゃあまるで、別れる前のあの頃と逆みたいだ。

 今日は私がりつの事を考えっぱなしで、笑かそうとかは思ってないけど、感情が読み取れずにうやむやな気持ちを抱き続けている。焦燥感もあるし、一度立ち止まって、もう話してしまおうかなんて気も生まれてくる。

「玉乃さんも真顔で、言動も少なくてじゃあ、何も読み取れないんじゃない?」

「そう……だね」

 実演されたのだろうか。

 りつは分かっていたのだろうか。私が告白をしたこと。

 でも、それを受け入れないという意思を持って、今こんなことをしているんじゃないだろうか。自分は私のこんなところが嫌だったと、実演されたんじゃないだろうか。

 私はりつに、こんなひどいことをしてしまっていたのだろうか。

 初めて知った。こんなに心が締め付けられることは。

 初めて知った。こんなにも相手を喜ばせようかって考えてしまうことは。

 私は、何様なんだって、そう思い知らされた気がする。

 逃げ出したい。今すぐにでもここから逃げ出したい。

 聞きたくない。これからりつが述べるであろう説教も、心境も、返事も、何もかも聞きたくない。

 心臓が嫌に音を鳴らして体を打ち鳴らす。喉から何かが出てきそうで、冷や汗が止まらなくて、目の焦点も合わなくなって、とても立っていられない。

 でもりつの手は掴めないし、握っている線はなんの役にも立たない。

 このままじゃあ〝私〟は倒れてしまう。

「古河さんから提案されてやってみたけど、やっぱり玉乃さんでもそうなるんだね」

「智花……?」

「うん。なんか、真顔でいたらどんな反応するか見てみたらって言われてさ」

 そういってりつは笑顔を浮かべた。

「真顔でいるのってむず痒いな」

 この顔は真実なのか。私は、助かったのだろうか。

「体震えてるじゃん。寒いなら早く言いなよ」

 りつは怖くて震えている私の体を、大きなジャンパーで包んだ。

「冷たいデザートばっかり食べて、体冷えたんでしょ?」

「違う……」

 ――私はそんな能天気じゃない

 言葉が出てこなかった。

 それはきっと寒くて唇が震えていたから。のどが乾燥していたから。きっと、誰かによって口を封じられたせい。

 それを言ってしまったら、昔のりつを否定することになって、この関係が悪化すると、私が攻められると思ったからじゃない。

「まあ、杏仁豆腐とかは別に冷たいわけでもないか」

 そんなことをいってまた微笑むりつは、楽しんでくれているという認識であってるんだろうか。

 その場合は、うれしいし、安心する。

「見てるだけで、楽しいの……?」

 私がそう問うと、りつは「まあ、な」とよく見せるようになったすまし顔で答えた。

 ――じゃあ楽しんでるんだ

 責められているのかと心配したが、しっかりと安心できた。

 よかった。心の奥底からそう思った。

 でも、私は……


 ――悪い人


「……早く行こ」

「え、あ……おう」

 私はりつの手を引っ張った。

 私のぐちゃぐちゃな顔は隠すように。

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