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第121話 神眼

ラドン王国の商業都市アルアインにやってきた。

アルアインの街は活気に満ちている。交通の要所であるのもその一因だろうが、ここの都市は珍しく商業ギルドによる自治が認められている。商業ギルドが仕切っているだけあって商売が盛んで、世界の名だたる商会がこの都市に軒を連ねている。その数ある商会の中で最も力を持つ商会がサルマン商会。今回はそのサルマン商会から指名依頼が入った。依頼内容は会ってから話すと聞いているが、目的は先日手に入れた世界樹の雫だろうなぁ。


しかし、少々身構えてしまう。このサルマン商会の現当主ムハンマドは超超レアスキルを持っているからだ。そのスキルは『神眼』。あらゆる人、物、あるいは魔物のの本質を見抜くスキル。このスキルを授かった者は必ず大成できると言われている。今現在確認できている神眼の持ち主は、世界広しと言えどムハンマドのみ。討伐依頼ではないと聞いているがムハンマドと対峙しないといけないとしたら気が重い。何もかも見透かされそうだからな。


『何か不安そうだね、今回は討伐依頼ではなのだから気楽にいけばいいじゃないか』


レイラがあっけらかんと言う。


『そうね、観光がてら依頼をこなしましょうよ』


フローラも…いや、皆若干浮ついてるか?この商業都市で揃わない物はないと言われているからな。


今回、ラウラ以外の奴隷は連れて来ている。ラウラは真面目な性格なので他のメンバーに比べてレベルが低いことを気にしており、バスクに残ってノゾミと一緒にレベルアップに勤しんでいる。アグニ様を召喚出来る時点でレベルもへったくれもないと思うのだが…

代わりと言ってはなんだがリディアが付いてきた。これだけ人がいるのにやはりエルフは珍しいのか、すれ違うやつがほとんど振り向く。美少女ということもあるだろうが。


『リディア、皆から離れるなよ』


『分かってます…そこは"オレから離れるな"って言ってくれた方が嬉しいのですけどー』


やれやれ…


「リディア、オレから離れるなよ」


『はい♡』


そう言って寄り添ってくる。

そんなことをしていると、声を掛けられた。


『冒険者のガレス様でいらっしゃいますね。私共はサルマン商会の者です。我が商会までご案内いたします』


アルアインに着いたばかりなのにきっちり行動を把握されているようだ。断る理由もないのでついていくか。


・・・・・・


『初めまして。私がムハンマドです。わざわざご足労いただき申し訳ございません』


「初めまして、ムハンマド殿、冒険者のガレスです。本日は指名いただきありがとうございます」


『ガレス殿の活躍はこのアルアインの街まで届いておりま…すって、は?何てデタラメな…』


やはり神眼か。こちらの情報は筒抜けだな。あの驚き様は夜の帝王で得た補正値を見たからかな?魔力6000超えとか人族じゃあり得んレベルだし。しかし覗き見されるのは正直気分がよくない。


『…申し訳ありません、気付いていると思いますが、ガレス殿のステータスを神眼で確認させてもらいました。これでも子供のころから神眼を使っていますからね、会話をしながらステータスの確認なんてお手の物なのですが…今日は無理でした。ガレス殿のステータスがあまりにも非常識で驚いてしまった。私もまだまだです』


「まぁ、私のスキルが特殊で補正値が非常識なのは自覚してますから」


『ふふふ、恐らく、ガレス殿のスキルはガレス殿が思っている以上に非常識ですよ』


「どういう意味でしょうか?」


『私のスキル、"神眼"は他人のステータスを見ることができますが、本来ステータスには表示されない、本人も知りえない情報を見ることができるのです』


「それはつまり、本来ステータスに表示されない部分にも見れて、それに補正がかかっていた、という意味ですか?』


『理解が早くて助かりますね。私が何に驚いたか分かりますか?』


「見えてるステータス以外ですか?…いえ、分かりませんね」


なんだろう?女性をイカせた回数が見えてるとか?あ、回数は補正がかからんか。なんだろう?


『寿命ですよ』


「…は?寿命?」


『やはり、ガレス殿自身気付いていなかったのですね。貴方の寿命は89歳となっているが、補正がかかっています、+4408歳となっていますよ』


ぶーっ、4408歳???…あっ、そういうことか。リディアとバーバラとやった時、補正がかからなかったわけじゃなかった。寿命に補正がかかっていたんだ。エルフの寿命は3000~4000歳くらいと言われている。それでリディアの寿命分+400歳された。リディアはエルフにしてはまだ若い。寿命を上回るステータスがなかったのか。

そしてバーバラの寿命は約40000歳か?トレント種は進化すれば大幅に寿命が延びると言われているが、さすが世界樹への進化を目指していただけのことはある。とんでもない寿命だな。


「私はエルフ並みの長寿ということですか」


『そうなりますね。羨ましい限りだ…それはさて置き、本題の商談に移らせてもらいたいがよろしいでしょうか』


「あ、はい」


『先日、ガレス殿はハイエルフからの依頼を完遂し、世界樹の雫を入手したとお聞きしています。それを売っていただきたい』


「世界樹の雫の使用目的は何になりますか?」


『エリクサーの精製ですね。世界樹の雫以外の必要素材は揃っています。残りは世界樹の雫だけだったのです。入手のために手を尽くしていたのですがエルフの世界樹への信奉は想像以上でして、余程親密な関係を結ばない限り世界樹に関する素材は外には出ないのですよ』


へぇ、そんなに貴重なのか。オレって思いのほかアルフォンス様に信頼されているのかな。


『それを今回ガレス殿が入手した。この機を逃しては私が生きている内に入手する機会はないでしょう。是が非でも手に入れたいわけです。いかがですか?言い値で買い取りますよ』


交渉ってあまり得意ではないんだよな。相手は世界一の商会の当主。交渉で有利に立てるとも思えない…エリクサーか。オレは世界樹の雫の瓶を目の前の机に置く。


「これが世界樹の雫です。この量でどのくらいのエリクサーができますか?」


『そうですね…』


ムハンマドが後ろに控えていた研究者?いや、こっちの世界だと錬金術師か?その男に目線を送ると、男が答える。


『人間1人を回復させる量を1回分としたら7~8回分ではないでしょうか』


「世界樹の雫をお譲りしてもいいですが、条件が2つあります」


『聞きましょう』


「1つ目はエリクサーの精製に成功したら1つ譲っていただきたい」


『その条件は予想していましたが、1つだけでよろしいのですか?』


「ええ、2つ目の条件が納得してくれなさそうな条件ですので」


『ほう、それは怖いですね、2つ目の条件は何でしょうか?』


「エリクサー精製のために必要な素材と精製方法の開示」


『…なるほど、ガレス殿は薬品精製スキルをお持ちでしたね。それでいて冒険者としても優秀でエルフとの繋がりも深い。必要素材と精製方法が分かれば貴方は単独でエリクサーの精製が可能になる』


その気になればエリクサーが作れる状況にしておきたいと考えたが、さすがに無理か?


『こちらからの条件を飲んでくれるなら、そちらの2つ目の条件を飲みましょう』


「どのような条件ですか?」


『仮にガレス殿がエリクサーを精製した場合、余剰分を優先的にウチの商会に売っていただきたい』


なるほど、素材から集めるより出来上がったもの買った方が労力が少なくて済む。それにオレはどうやら長寿らしい。オレがエリクサーの精製を成功させれば、オレが生きている間はエリクサーの供給が望めるかもしれない、と考えているのかな。まぁいいだろう。こちらとしても世界一の商会とつながりを持っていた方が何かと便利なはずだ。


「いいですよ」


『よかった。これで交渉成立ですね。今後末永いお付き合いをお願いします。そう私だけではなく、私が死んだ後もサルマン商会とお付き合いしていただけるとありがたいです』


神眼はムハンマドさんのスキルだから自分が死んだ後の商会の行く末が今から心配なのか。頼まれて損はないだろう。


「わかりました。今後とも良い関係を築きましょう」


その後、錬金術師風の男と会話をし、オレも見学という形でエリクサーの精製に付き合うことになった。滞在期間は1週間ほど。


泊まる宿はサルマン商会直営の宿…というより豪華なホテルだな。案内された部屋は超広い。そしてウチの奴隷全員でも寝れそうなベッドがある部屋だった。さすが神眼の持ち主。全てを把握したうえでのおもてなしだな。


部屋に入ると同時にリディアが抱きついてきた。


「リディア?」


泣いているのか?


『ガレス様が人間である以上、エルフとの寿命の差による別れは必ず来ると思ってました。ですがガレス様は私と同じ時を過ごす事が出来ると分かって、それが嬉しくて涙が…』


オレはリディアを抱きしめる。


「ずっと一緒にいような、リディア」


『はい、ガレス様』



『…あのー私達もいるんですけどー』

『2人の世界を作らないでもらえますかー』

『贔屓だ、贔屓』

『私も抱擁を要求する』


非難轟々だな。


「折角無駄に広いベッドがあるのだから皆で楽しもう」


『『『はい♡』』』


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