隠匿の衣裏珠(いんとくのえりじゅ) その4~竹丸、人生を難易度の高い遊戯だと知る~
二木親王には、今の落ちぶれたオレの姿を、死んでも見せたくない。
あの人には、あの人だけには、あの頃のように、若くて美しいオレの姿を未来永劫、憶えていてほしい。
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若殿が『手記』を読み終えて黙り込んだ。
私は今聞いた情報を整理しつつ
「えぇ~~~~とぉ~~~、じゃあ、落札した『三草律師の衣』には何の価値もないんですか?
落札しようとしてた『若僧』は三草律師の醜聞を世間から隠そうとしてた弟子僧ってことですか?
あの『頬傷もみあげ男』は盗賊団の一味で、盗品の『宝石』が衣に隠してあると思って、競売に参加したってことですか?」
と問いかけると、若殿はウンとうなずいた。
思わず
「はぁっ??!!!
でも実は何も隠してないんですよねっ?!
じゃやっぱりただのボロ布ですよねっ!!
銭の無駄じゃないですかっ??!!」
叫んだあと、ん?と疑問がわき
「でもなぜ皆、衣に隠してあると思ったんですか?」
若殿が得意げな笑みを浮かべ
「『法華経』に『衣裏珠の譬え』というこんな話がある。
『ある貧しい人が親友の家で酒に酔って寝てしまった。
親友は彼の衣の裏に無価の宝珠(価が付けられないほど貴重な宝石)を縫い付け、出かけていった。
目を覚ました貧しい人は、それに気づかず、衣食を求めて他国を放浪するも困窮した。
やがて親友と再会して衣の裏の宝珠のことを知らされ、その後は裕福な生活を送ることができた。』
この話は
『これまで成仏が叶わないとされてきた者が、実は過去世において、すでに仏による成仏の種を受けているにも関わらず、煩悩等の影響によってそれに気づいていなかったことをたとえたもの』
だと解釈される。」
へぇ~~~!そんな話があるんだ~~~~!
と納得して
「だから、三草律師の衣に『お宝』が縫い付けられてると思ったんですか~~~!
衣が若殿に落札されてしまったので、『宝石』と『三草律師の醜聞』を入手できなくなったから、強盗団一味と弟子僧は立ち去ったんですね~~。
後に残ってたのは・・・・あっ!
もしかして若殿に『手記』を読ませてと頼んできた『初老上品狩衣男』は二木親王ですか?
でこっちを見てた『ボロボロ筒袖男』は出品者でかつ『手記』の作者で、化城と呼ばれた人ですか?」
若殿がウンとうなずいた。
私は『手記』の内容を思い出し、現在の化城の悲惨なありさまと比べて、悲しい気持ちになった。
「じゃあ化城は昔は絶世の美少年だったってことですよね?
もともと不幸な境遇だったとはいえ、せっかく天から美貌という贈り物をもらったのに、化城はすっかり身を持ち崩してしまいましたね~~~。
喩えていえば、自分が持っている『衣裏の宝珠』の存在に気付いたのに、それを生かしきれず、最後は不幸な困窮した暮らしに戻ったってことですよね?
他人より抜きんでた素質という『天からの贈り物』を持ってたとしても、それに気付いたとしても、自暴自棄になってしまえば、幸せになるとは限らない、なんて難しすぎますっ!!
『人生無理ゲー』すぎますっ!!」
ぶつくさとボヤくと、若殿は目を細め、眉根を寄せ、難しい顔つきで
「つまり、大事なのは、己の衣裏に縫い付けてある宝珠を見つけ出すこと、じゃなく、困窮したときにこそ、すでに宝珠を所有していると己を信じて生きること、だ。」
自分に言い聞かせるように呟いた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
『衣に縫い付けてある宝珠に気付いたおかげで裕福に暮らせました』を『仏の教えをすでに知っていること(徳を積んでいること)に気付いたおかげで、悟ることができました』のたとえ話としていいものかな~~??!!と疑問を持ちました。
だって、『裕福に暮らすこと』は『俗欲を極めること』じゃないの?と思うんですが、どうでしょう?
時平と浄見の物語は「少女・浄見 (しょうじょ・きよみ)」に書いております。




