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平安貴族の侍従・竹丸の日記  作者: RiePnyoNaro


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隠匿の衣裏珠(いんとくのえりじゅ) その3~竹丸、手記の内容を聞く~

*******************


オレが物心ついたころから、小作農の両親はいつも疲れ果て、不機嫌で、仲が悪かった。


親父は食事の汁物が少ないとか、くだらない理由で、むしゃくしゃするたびにお袋を殴り、お袋は陰で親父のことを役立たずの無能扱いしてた。


衣もろくに新調できない貧しい生活に耐えかねて、親父は垢じみたオレをxx寺に売った。


寺は食い物も寝る場所も比べ物にならないぐらい良かったし、大人たちはオレを『少女のように可愛い』とか『観音さまのように美しい』とほめてくれ、清潔な衣を着せ風呂で体を洗ってくれた。


寺の生活に慣れたころ、何も説明されないまま『児灌頂(かんじょう)』を受けさせられ、兄弟子(あにでし)僧たちの(ねや)(はべ)ることになった。


最初は若い修行僧たちだけがオレを犯したが、だんだんオレを凌辱するのが偉い坊さんになり、ついにオレはその寺で一番身分の高い三草(さんそう)律師の専属になった。


オレは『菩薩の化身』だったからどんな下っ端でも醜い奴でも修行僧なら『オレとやりたい』と言えば、オレは相手をしなけりゃならなかったはずだが、三草(さんそう)律師の専属だと知れ渡ってからは、誰もオレと性交したいと言わなくなった。


三草(さんそう)律師はコトが済んだあと、枕語りでよく


「観音菩薩の普門示現(ふもんじげん)としてのお前を初めて見たときから、私はお前の(とりこ)なのだよ。

だが神聖なお前と交わることで観音菩薩と契り、忌まわしい煩悩を消し去ることができるはずなのに、それどころか、ますますお前の美しい肉体の深みにはまり、昼も夜も恐るべき淫欲に支配されてしまうのはなぜだ?

お前と激しい夜を過ごすうちに精魂尽き果て、涅槃(ねはん)に至らず志半ばで命の炎が燃え尽きそうだ。」


とボヤいてたな。


偉い坊さんが、必死になってオレの機嫌を取ってるのを見たとき、はじめて自分に『宝珠』の価値があると気づいたんだ。


ずば抜けたオレの美貌は天賦の『如意宝珠(にょいほうじゅ)』だと。


寺の僧侶たちが、こぞって(あが)(たてまつ)ることや、三草(さんそう)律師が自分の持ち物をなんでも与えるほど、溺愛されることに得意になったオレは、三草(さんそう)律師との房事のさまを絵に描いて、周囲の大人たちに見せたりして面白がっていた。


だがそんなとき寺にある親王がやってきた。


そいつはオレを見初(みそ)め、自分のものにしたいと三草(さんそう)律師に頼みこんだ。


オレは相手が誰だろうとやることは同じだと、我関せずの態度だった。


しばらくして、三草(さんそう)律師は大金を積まれたのか、オレを手放すことにした。


二木(にもく)というその親王はオレを引き取るや否や、小ざっぱりした従者の恰好をさせ、髪を結い上げ元服させ、身辺警護の役目につけた。


いつオレを寝所に呼び込むのかと心構えだけはしてたが、いつまでたっても二木(にもく)親王は一向にオレを犯す気配がない。


それどころか、汚いニキビ面の臭い修行僧たちの慰み者だったオレを、あの、この世界の中心の、清らかな天上人が集う内裏へ連れて行き、上品な貴族たちに『遠縁の若者を従者にした』と紹介した。


二木(にもく)親王と北の方の間には子がなかったから、子育てというものをしてみたかったのかもしれない。


その後も寺社仏閣へのお参りや、物見遊山(ものみゆさん)や、大内裏の仕事場や、どこへ行くにも、いつもオレを(ともな)った。


そして扱いはいつも『昔から信頼を寄せる従者』のそれだった。


ときにはわが子に対するように、泥棒はダメだとか、嘘をつくと信用を失うとか、危険な行動は避けろとか、親身になって叱ってくれた。


オレの容姿が美しいと褒めるんじゃなく、馬の世話をきちんとしたとか、まき割りが上手にできたとか、屋根の修理をしてくれて感謝してるとか、オレの努力を褒めてくれた。


ときどき『オレは二木(にもく)親王の本当の子なんじゃないか?お袋は親王と浮気してたんじゃないか?』と疑ったり、『突然、血のつながった本当の息子がどこかから出てきて、お荷物になったオレは追い出されるんじゃないか?』と心配になった。


だがそんな幸せな生活は長く続かなかった。


オレの内面そっくりな、醜い、意地汚い、怠け者の、血のつながった実の親父が、どこで聞いたか二木(にもく)親王の屋敷をたずねてきた。


はじめはオレの様子を知りたいとか、殊勝なことを抜かしていたが、だんだん強欲な本性をあらわにして、二木(にもく)親王からオレの従者の給金をせびるようになった。


二木(にもく)親王はオレに渡してた給金を親父にも渡すようになった。


オレは屋敷に住まわせてもらい食わせてもらってたから生活費が要らなかったうえに、小遣いとしては多いぐらいの給金をもらっていたのに、あとで知ったことだが、二木(にもく)親王はその同額を親父にも支払うようになっていた。


数か月後、親父が二木(にもく)親王に銭をせびっていたことを知ったオレは、これ以上迷惑を掛けたくなくて二木(にもく)親王の従者をやめた。


あのクソったれ親父のせいで、オレはこの世でたったひとりの尊敬する大事な人のそばにいれなくなった。


その後の生活は(すさ)み、博打や酒や女で借金がかさんだオレは、借金を返すために盗賊団に入り、富裕な貴族相手の美人局(つつもたせ)をしたり、箱入り令嬢に結婚詐欺を仕掛けて財物をだまし取ったりして、盗賊団に借金を返してはすぐ博打で借金を作っては悪事に手を染めて返す、という毎日だった。


盗賊団にいるうちに、奴らの目を盗んで獲物の宝石をかすめ取ったこともあった。


もちろん若いころから体になじんだ最も得意な、楽に稼げる稼業である男娼もした。


天賦の才であるこの美貌が衰えるまでは、そうやって毎日楽しく暮らせたが、三十も後半になると稼げなくなってきた。


酒の飲みすぎケツの穴の使い過ぎで、体中にガタがきて、髪は白くなるわ抜け落ちるわ、クソみてぇな疫病だらけ、しわだらけな上にあざだらけのきたねぇ肌になっちまった。


あの天人のような美貌の稚児とは似ても似つかない、無間(むげん)地獄の餓鬼のような惨めな姿になっちまった。


あちこちが痛むし、わけのわからない出血が止まらないしで、体を動かすことすら億劫(おっくう)になった。


こうなったら最後に残った唯一の金になりそうな三草(さんそう)律師の衣を、競売でもしてできるだけ高値で売るしか銭を得る方法はない。


上手くいけば、盗賊団からくすねた宝石や、弟子たちにとっての聖人・三草(さんそう)律師の醜聞となる淫画や恋文を、衣に隠してると深読みしてくれた手下どもが、衣の落札価格を引き上げてくれる。


それを願って、噂を流すことにした。


ただ心配事が一つだけある。


(その4へつづく)


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