隠匿の衣裏珠(いんとくのえりじゅ) その2~竹丸、大人たちの謎の行動に苛立つ~
この競売は即決即買が規則なので、若殿は競り人のところへ行き、銭と引き換えに、クタクタの『三草律師の衣』を手に席に戻ってきた。
見た感じ、ただのぼろっちい麻布の小袖なので、
『これのどこに千五百文の価値があるの?!
まったくっ!!
これだから金持ちは嫌いなんだっ!!
銭の使い道に困ってるとしか思えないっ!!
こんな無駄なものばっかり買ってっっ!!』
と心の中で毒づいてると、次の競りが始まり、競り人が紙の束の端をひもで止めたものを持ち上げて客に見せ
「え~~~これは、先ほどの『三草律師の衣』の出品者による『手記』とのことです。
出品者の希望最低落札価格は十文とのことですので、そこから始めます。
では、ご希望の方は挙手をどうぞ!」
さっきの『三草律師の衣』の時とは打って変わって、『若僧』も『頬傷もみあげ男』も席を立って出て行ってしまったけど、唯一、『初老上品狩衣男』だけは手を挙げ
「十一文っ!」
と競りに参加した。
客はみなシ~~~~ンと水を打ったように静かなので、そのまま落札か?!と思われたけど、若殿が何かを察したのか目をキラッ!と光らせ手を挙げ
「十二っ!」
と叫んだ。
へっ??!!
どこの馬の骨とも知らない人物の『手記』を買うのっ??!!
何の価値もなさそうなのにっ??!!
そんなに銭が余ってるなら私の給金を増やしてほしいっ!!
無関心な白い目で成り行きを見てると、『初老上品狩衣男』と若殿の競り合いは白熱し、最終的には百文で若殿が『手記』を競り落とした。
はぁっ??!!!
本気なのっ??!!
そんなに誰かの『手記』が読みたいなら、私の今まで書き留めた『平安貴族の侍従・竹丸の日記』を五百文で売ってあげるのにぃっっっ!!
ったくぅっっ!!
恥ずかしがらずに言ってくれればいいのにぃっっ!!
銭を支払った若殿がホクホク顔で『手記』の紙の束を手にして席に戻ってくると、ちょうどそこに『初老上品狩衣男』がやってきて
「あの~~~~、少しだけそれを読ませていただくことはできませんか?
さっと目を通すだけでいいんですが・・・・」
遠慮がちに問いかける。
若殿は目を輝かせ楽しそうに笑い
「いいですよ!どうぞ!」
と紙束を手渡した。
『初老上品狩衣男』は紙を一枚ずつめくり、さっと目を通しては次をめくり、を数回繰り返すと、何かに気付いたように突然、ハッ!と帳面から顔を上げて周囲を見渡した。
競りは続いていたのに、客の中でひとりだけ、競り人のほうを見ず、こちらをじっと見つめている男がいた。
その男は、継ぎの当たったボロボロの筒袖・ボロボロの袴姿で、頭頂部の薄い半分白髪の髪の毛に烏帽子もかぶらず、後ろで束ねただけ、顔色は土色でしわだらけ、眼は黄色く濁っていて、貧しく不健康な印象の老け込んだ中年男性?という見た目だった。
『初老上品狩衣男』と目が合ったとたん、その『ボロボロ筒袖男』が背を向けて、会場から出て行こうとし、それを追いかけるように『初老上品狩衣男』が出ていきながら、その男の背中に
「化城っ!!化城だなっ?!!
待ってくれっ!!
私だっ!
二木だっ!!」
と呼びかけていた。
若殿はどうするの?
追いかけるの?
と気になってチラチラ様子をうかがうと、目をキラキラさせて二人の背中を見てるだけで、追いかける気配はなかった。
それでも私の耳に口を近づけ、コソッと
「もうここに用はない。
帰るぞっ!」
と耳打ちすると、私たちは競り会場を出て帰路についた。
帰り道、若殿は落札した『手記』を歩きながら夢中で読んでるので
「転びますよ~~~!」
と声をかけても無視された。
しばらくすると、若殿が『手記』をパタンと閉じ
「なるほど~~~!
そういうことだったのかっ!!」
感心したようにウンウンうなずきながら呟いた。
私の喰いつき待ちの、誘い『なるほど~!』だと察して、無視して歩き続けてると、言いたくてウズウズしたのか若殿が
「『三草律師の衣』と『手記』の出品者の正体がわかったぞ!」
と自慢げに話しかける。
冷たい横目でチラ見して
「別に知りたくないです。」
若殿が面白くてたまらない!といった口調で
「『三草律師の衣』が『如意宝珠』の価値を持つ理由も、『さる重要人物の秘事が記された書簡』と言われる理由も、『持ち主を呪い殺した呪物』と言われる理由も、全~~~~部っ!わかったぞっ!!」
と言ったあと、私の様子をうかがう。
内心、喰いつきたくてムズムズしてた私はそれを隠してそっけない口調で
「帰ったら読みます。」
それでも若殿は私の気を引こうと勿体ぶって
「あ~~~~っ!でも、子供には過激な内容かもな~~~!
読ませないほうがいいかもな~~~!
ど~~しよ~~かな~~~!」
眉を上げて大げさに言いつのる。
私はブスッ!としながら
「じゃ、子供が読んでもいいところだけ読み上げてくださいっ!」
というわけで、『三草律師の衣』出品者の『手記』の次のような内容を、若殿が読み上げてくれた。
(その3へつづく)




