表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平安貴族の侍従・竹丸の日記  作者: RiePnyoNaro


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

390/409

創製の文紙(そうせいのふみがみ) その3~妻の曝露に驚く~

 数日後、登坂(とさか)からお祓いをすると連絡をもらった我々は登坂(とさか)の屋敷を訪れた。


登坂(とさか)の屋敷は普通の六位貴族よりは裕福そうな立派なお屋敷。


今は何の仕事?


商売?


疑問に思ったがさっそく登坂(とさか)の雑色に主殿に案内された。


御簾を押して中に入ると、赤茂(あかも)と思われる白水干、紫括り袴、立て烏帽子姿のザ・陰陽師が、紙垂(しで)のついたしめ縄で四角く囲われた護摩壇に火を焚いて、その前で御幣串(ごへいぐし)を振り回しながらブツブツ何かを唱えてた。


護摩壇の手前に並べて置いてある呪符にはまだ呪文の文字や記号が黒い墨で書かれたまま残ってる。


まだ式神の紙魚(しみ)は抜け出してないぞっ!!


これから飛び出す瞬間が見れるかもっ!!


興奮(ワクワク)が高まるっ!


なのに若殿(わかとの)はジッとしてお祓いの儀式を見ようともせず、主殿の隅に登坂(とさか)を呼び出してコソコソと話してた。


目を皿にして儀式を見守っていたが、呪符から式神は飛び出さないまま儀式は進んでやがて護摩壇の炎は小さくなった。


儀式を終えた陰陽師の赤茂(あかも)がこちらを振り向いて、登坂(とさか)に向かって護符を見せ


「それではこの護符をいつものように、柱に釘で打ちつけて参りましょう。」


と歩き出すと、後ろをついていく列の先頭だった若殿(わかとの)


「あっ!」


()頓狂(とんきょう)な声を出した。


赤茂(あかも)が振り返ると、床から何かを拾い上げた若殿(わかとの)が青い紐のようなものを赤茂(あかも)に見せ


「これを落としましたよ」


赤茂(あかも)は青い紐を手に取り、じっくり見たが


「いいえ。私は落としてませんが。これは・・・・元結(もとゆい)(*作者注1)ですか?」


若殿(わかとの)が微笑みを浮かべ、ウンと頷き


「そうです。

変わった元結(もとゆい)でしょう?

青く染められているのは珍しい。

普通は赤か金ですからね。

それにこの紙縒(こよ)りの紙はもっと珍しいものです。

普通の(こうぞ)ではない材質の紙です。

どうですか?心当たりはありますか?」


赤茂(あかも)は疑い深そうな目で若殿(わかとの)を見て首を横に振り


「いいえ。

全く知りません。私のものじゃない。」


若殿(わかとの)は面白そうに肩をすくめ


「そうですか。じゃ、私の袖から落ちたんですね。」


イタズラっぽく微笑むと、赤茂(あかも)はなぜかムッとした表情になり、


「いやっ!やっぱり私のです!私の袖から落ちたんでしょう。返してください!」


そこに登坂(とさか)が割込み


「あの~~~、頭中将(とうのちゅうじょう)どの、一体どういう事でしょう?

その妻の元結(もとゆい)を、なぜ赤茂(あかも)が落としたと言うんですか?」


若殿(わかとの)が口を開きかけた時、どこからか若い女性の声がした。


「それは、わたくしと赤茂(あかも)が恋仲だと疑っておられるからだわ!」


振り向くと、扇で鼻から下を隠した優美な(うちき)(ひとえ)・緋袴姿の女性が立っていた。


どこから現れたのっ??!!


几帳の陰に隠れてたの??


登坂(とさか)が困惑したように


「ああっ!お前っ!そうやすやすと若い男の前に姿を見せるでないぞ!

さぁ、早くっ!几帳の陰に隠れていなさいっ!」


噂の間男を通わせてた妻?は追い立てられようとしたが、逆にギロっ!と登坂(とさか)を睨み付け


「何も隠し立てすることなど無いわっ!!

その元結(もとゆい)はわたくしと赤茂(あかも)の故郷の海の色よっ!

その紙縒(こよ)りの紙はわたくしと赤茂(あかも)の故郷の海藻で作った紙よっ!!

わたくしと赤茂(あかも)は深い愛の絆で結ばれているのよっ!!」


はぁっ??!!


不倫を暴露っ??!!自白っ??!!


唖然(あぜん)としたのは私だけでなく登坂(とさか)もだった。


あんぐりと口を開け、泣き出しそうな表情。


若殿(わかとの)は眉を上げ、面白そうにニンマリと満面に笑みをたたえ、


「そう!

だから赤茂(あかも)から受け取った恋文の文字は時間が経つと消えてしまったんですね?

海藻を煮熱し褐色を薄め、乾燥・繊維化し、(こうぞ)に混ぜて紙を()けば、普通の原料である(こうぞ)よりも吸水性に優れた紙ができる。

水分の多い紙に(にかわ)の少ない墨で文字を書けば、書いた直後は文字が読めるが、数日後には煤の黒色が紙の水分に溶け出し、文字が滲み、最終的には読めなくなる。

赤茂(あかも)は故郷の越前国(えちぜんこく)丹生(にゅう)郡に住む紙戸(かみこ)のひとりだが、上京して紙屋院に勤めているときに、その海藻紙を開発した。

当時の上司だった登坂(とさか)はその紙が耐火性に優れているという報告を受け、その紙で屏風(びょうぶ)を作れば内匠寮を出し抜け、手柄を立て出世できると考え、屏風(びょうぶ)用の耐火性に優れた海藻紙の開発を赤茂(あかも)に急がせた。

だが、開発した耐火性紙に何らかの不具合があり、完成できず結局、赤茂(あかも)は越前国に帰った。

だから『完成には至らず、頓挫(とんざ)した』と言ったんですね?」


登坂(とさか)に向かって問いかけるとウンと頷いた。

(その4へつづく)


(*作者注1:日本髪や相撲のまげの根元を束ねるのに使う、丈夫な和紙を撚って作った紐)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ