創製の文紙(そうせいのふみがみ) その2~竹丸、陰陽師の式神に興奮する~
登坂はハッと顔を上げ
「他にもあるんです!
妻と付き合いたてのころの二年前に妻からもらった恋文を、取っておいたものを見直すと、この恋文の文字も消えてしまっていたのです!
わ、私は、呪われているんでしょうか?
妻との仲を嫉妬する生霊が憑りついているんでしょうか?」
若殿が顎をさすり、難しい表情で
「その文をこの目で見てみないことには、何も言えませんが・・・・」
登坂はハッ!として袖の中をゴソゴソ探り、一枚の紙を取り出し、若殿に手渡した。
「もちろん持ってきました!こ、これが二年前に妻からもらった恋文です!」
若殿がその紙を光に透かしたり、匂いをかいだり、指で擦ってみたりしたあと、私に渡そうとして、登坂に
「私の腹心の従者にも見せてよろしいですか?」
と了承を得て、手渡してくれた。
全体が薄い褐色で厚さも普通の楮紙より薄い。
漉返紙のように、ところどころもやもやとした黒色になっているが、匂いはおかしくない。
だけど、ザラザラじゃなく肌触りがしっとりしてて弾力があるところが普通の紙とは違う。
若殿が
「油紙のように、蝋で覆っていれば、水をはじくので墨で書いた文字は消える。
てっきりそういう細工があるかと思ってましたが、違ったようですね。」
紙を登坂に返し、若殿が続けて
「で、私に生霊を退治しろとおっしゃるので?」
何気なく聞くと、登坂は焦ったように首を横に振り
「いいえっ!
実はもう赤茂という陰陽師に頼んで何度もお祓いしてもらったのですが、そこでも不思議なことが起きたのです!
陰陽師が呪文をしたためた呪符に呪力を込め、私の主殿のいたるところに張り、お祓いの呪文を唱えてくれました。
彼の術は、呪符から式神が抜け出し、家に憑りついた悪霊を見つけ出し退治してくれるらしいのです。
一週間後、陰陽師が再訪して術の効果を調べると、またしても呪符から文字が消えていたのです!
彼が呪符をなぞり、握った手を開いて見せてくれると、そこには紙魚のような、黒くて光沢のある虫のような生き物がいました。
彼に
『これが私の式神です。
この呪符から抜け出し、悪霊を退治できれば、再び呪符に帰ってきて、呪文の文字に戻るのです。
ですがご覧ください。
呪符から呪文が消えています。
式神が戻らないということは、まだ悪霊を払いきれていない証拠です。
よほど強力な魔力を持った魔物でしょう』
と言われ、震えあがりました。
その後もう一度そのお祓いをしてもらいましたが、結果は同じでした。
式神が戻らず、呪符の文字は消え失せていました。
妻と同郷だというので信用していたのですが、そう何度も高額のお布施を要求されると、私の懐具合も苦しくなる一方でして、何とかこの現状を看破して救っていただきたいと思いましてうかがいました。」
ふむっ!!
私でもわかるぞっ!!
十中八九、妻と陰陽師がグルで登坂から銭をだまし取ろうという魂胆っ!!
でもどうやって文から文字を消したの?
紙じゃないなら、墨に細工してあるの?
それともホンモノの呪術っっ!!??
紙魚って書を食べる虫だよねっ??!!
それに似た式神を操るのっっ??!!
ぜひ見たいっ!!
興奮して目を輝かせてると、若殿が冷めた横目で登坂を見て
「単純に考えれば、奥様とその陰陽師が恋仲で、送った恋文からその文字つまり『式神』を抜け出させたんでしょう?
だから文字が消えたんでしょう。」
あっ!!
ぶっちゃけすぎっ!!
身も蓋もない事実をっ??!!
登坂はブルッ!と身を震わせ
「は、はいっ。
そのことは真っ先に考えました。
ですが、二年前、勤めていた図書寮で、女官をしていた妻のほうから私に迫ってきたんです。
『頼りになる二回り以上年上の男性が好みで、やさしい上司にずっと憧れていました。
でも、なかなか見つからず、あなたに会えてやっと理想の男性が見つかりました!』
と告白されました。
彼女の真面目な働きぶりや、魅力的な美女であるのに若い男と仲良くしている様子もないことを、私も不思議に思っていましたから、彼女の告白を信じました。
疑う理由がないでしょう?
彼女ほどの美女なら私より若い男や私より地位も身分も高い貴族を誰でも恋人に出来ます。
それなのに私に告白するという事は、私の仕事ぶりや性格に惚れ込んだんだと思います。」
登坂の冴えない中年男ぶりをマジマジ観察し、結論を出す。
『まぁ~~~~、自分の知らない美点ってあると思いたいよねっ!
それを好きになってくれる人がどこかにいる!って思いたいよねっ!誰でもっ!』
若殿が
「奥様と陰陽師は同郷と言いましたが、どこですか?」
登坂が
「越前国の丹生郡(現在の福井県)です。」
若殿が何かを閃いたようにハッ!と眼を見開き、ニヤッと笑い
「では次のお祓いの際に、私も招待してください。
そのときに文字の消える謎を解明して見せましょう」
面白そうにつぶやくと、登坂は喜んで承諾して帰っていった。
(その3へつづく)




