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平安貴族の侍従・竹丸の日記  作者: RiePnyoNaro


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創製の文紙(そうせいのふみがみ) その1~若妻の浮気を疑う初老官人の相談を聞く~

【あらすじ:年甲斐もなく二回り以上若い女子に惚れられて結婚したある初老の官人が、幻を見るほど悩んでると相談に来た。

妻の浮気を疑い、間男からの恋文を盗み見して気づいたある異変が悩みの原因らしい。

過去の自分の言葉に今の自分が苦しめられるなんてよくあること?!

私は今日も昨日までこの世に無かった未知の事物にテンションが上がる!】


私の名前は竹丸(たけまる)


歳は十になったばかりで、好奇心と食への執着がちょっとだけ強い男子(おのこ)だ。

平安の現在、宇多天皇の御代、日本随一の『権勢』と『色好み』を誇る関白太政大臣・藤原基経(ふじわらもとつね)様の長男で蔵人頭(くろうどのとう)右近衛権中将うこのえごんのちゅうじょう藤原時平(ふじわらときひら)様に仕える侍従・・・じゃなくて従者である。

 私の直の(あるじ)若殿(わかとの)・時平様はというと、何やら、六歳ぐらいの小さな姫に夢中。

いわく「妹として可愛がっている」。

でも姫が(から)むと、理性のタガが外れて焦り散らかし、せっかくの雰囲気美男子(イケメン)が台無し!

従者としては、からかい甲斐(がい)があるから、真面目一徹(いってつ)(あるじ)よりはマシ?


今回は、新しい事物の開発には時間と経費が掛かりますよね!というお話・・・・でもない気がします。

雪に変わりそうな冷たい雨が降る、曇り空の午後のことだった。


若殿(わかとの)を訪ねてきた登坂(とさか)という初老官人を侍所(さむらいどころ)に待たせ、曹司(ぞうし)にいる若殿(わかとの)に取り次ぐと、


登坂(とさか)

あぁ、先の図書(ずしょ)(りょう)(すけ)だな。

確か、耐火性に優れた屏風(びょうぶ)を製作すると話してたが、どうなったんだろうな?

よし、出居(いでい)に通してくれ。」


登坂(とさか)は初老と言っても、髪に白いものが混じる程度で、(しわ)が少なく(つや)のある肌だけをみると、四十代前半に見える。


それよりも、目の下のクマやたるんだ頬、青白い顔色のせいで実際より老けて見えてるだけ?


登坂(とさか)出居(いでい)に通すと、対面して座った若殿(わかとの)がにこやかにほほ笑み


「お久しぶりですね。

二年前の雪見の宴以来でしょうか?

気になっていたんですが、耐火性のある屏風(びょうぶ)は無事完成したんですか?」


登坂(とさか)は突然の問いに『えっ?』と驚いたように顔を上げ、慌てて愛想笑いを浮かべ


「あ?!・・・はい、ええっと、そうですね。

残念ながら完成には至らず、頓挫(とんざ)しましてね。

担当していた別所の紙戸(かみこ)(*作者注1)が開発を止めて故郷の越前に帰ってしまいましてね。

今日はそのことじゃなく、悩みを聞いてほしいのです。

その・・・頭中将(とうのちゅうじょう)どのは、様々な問題を解決しておられると聞きましてね。」


若殿(わかとの)はちょっと落胆したようだが、うんと頷き、


「お役に立てればいいですが、どうぞ、お話しください。」


登坂(とさか)躊躇(ためら)うようにゴクッ!とつばを飲み込み


「じ、実は、長年連れ添った妻が亡くなり、二年前に若い妻を(めと)ったんです。」


ふむ!若い妻にジジイ扱いされないように、無理して若作りして頑張りすぎて、逆に老け込んだ?!


私のイジワルなニヤケ顔をたしなめるように若殿(わかとの)がチラ睨みする。


登坂(とさか)


「あぁっっっ!!!

もうっ!!気が狂いそうなんですっっ!!

妻がっ!!あの、美しい、若い妻がっ!!

私の知らないうちに、間男を通わせ、恋文を交わしてるのですっ!!

できるだけ家に帰るようにしていますが、付き合いや仕事の関係で、いつも妻の側にいるわけにはいきません!

そのすきに妻は男を通わせっ!!・・・・ううっっ!!」


若殿(わかとの)が興味なさそうに冷めた表情で『ふぅっ』と小さくため息をつき


「妻を問い詰めたんですか?証拠はあるんですか?勘違いかもしれませんよ?」


登坂(とさか)はズズッ!と鼻水を(すす)りながら


「証拠はあるんですっ!!

いやっ!!あったんです!が、消えてしまって!」


若殿(わかとの)が眉をひそめ


「失くしたとか、盗まれたんですか?どんな証拠を?」


登坂(とさか)はひと泣きして落ち着いたようだけど、鼻にかかった涙声で


「妻が間男と交わした文です。

以前から怪しいと睨んでおりましたので、妻への文を雑色から横取りし、度々(たびたび)盗み読んでいました。

その中に明らかな恋文がありました。

『あなたの肌が恋しい』

などと書いてありましたから。

で、一枚だけを突き付けても、言い逃れされるかもしれないと考え、間男の筆跡と紙の特徴をおぼえ、恋文がたまったころを見計らい、まとめて妻を問いただそうとしばらく泳がせたのです。

妻が文をしまい込む場所は知っていますから。」


ふむふむ!


で、ついに?!!問い詰めたのっ?!!どーーなったのっっ!!??


目を輝かせて登坂(とさか)の言葉を待つ。


登坂(とさか)は信じられない!という表情で口をだらしなく開け、首を横に振り


「それが、その文を妻に突きつけて問い詰めようとすると・・・・・

た、たしかに、文箱の中に他の文に混じって間男からの文はありました。

ですが、も、文字が無かったのです!

消えていたのです!

特徴のある薄い褐色の紙に、確かに書いてあった文字が、消え失せていたのですっ!!

間男からの恋文全ての、文面が消えていました!」


えぇっ?!


俄然(がぜん)、興味を覚えて私が思わず


「間男は陰陽師か呪禁師(じゅごんし)ですかっ??!!

呪術をかけて、読んだら消えるようにしたんですねっ!!

スゴいっ!!

見てみたいですっ!」


口を挟むと、若殿(わかとの)が険しい表情で


「それについて奥様にたずねましたか?他の文の文字は残っていたんですね?」


登坂(とさか)はコクリと頷き


「そうです。消えてたのは間男からの文だけです。

私がその文字の消えた恋文を妻の目の前に突きつけ


『この恋文はお前の間男からだろっ!知ってるんだぞ!いつから関係を持っているんだっ!!

私を裏切ったなっ!』


と言うと、妻は私を(あざけ)るように


『あら!まぁ!その紙には何も書いていませんけど?

そこに私への恋心が書いてあるとおっしゃるの?

殿、お気は確かですか?

あらぬ幻を見られたのではないですか?

お加減が悪いなら、寝所で横になって休まれてはいかがですか?』


と言うのです!

私は幻覚を見たんでしょうか?

妻を疑うあまり、ありもしない間男から恋文の幻を?

もう、どうしていいのかわからなくて・・・・・」


登坂(とさか)は萎え烏帽子をのせた頭を抱えて前かがみになった。


若殿(わかとの)は腕を組み、顎に指を添え、真剣な表情で考え込み


「それだけですか?

それなら勘違いですますこともできるでしょう?」

(その2へつづく)


(*作者注1:紙屋院(かみやいん)は律令制における図書(ずしょ)寮の別所(付属機関)で朝廷で用いる紙の製造を扱った。朝廷などで公私の用向きに充てる新規の和紙や中古和紙である漉返紙(すきかえしがみ)宿紙(しゅくし))(使用済みの和紙(反古紙)を漉き直して作った中古の和紙)などの製造にあたった。紙戸は官司に配属されて宮中で用いる物資の生産・技術伝習にあたった人々である品部(しなべ)のひとつ。1戸あたり1名が一定期間の交替制か臨時に官司に上番して労役を行うか一定量の製品を貢納した。その代わりとして戸内の課役の一部もしくは全てが免除され、兵役からも除外された。出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』『品部(しなべ/ともべ))』より引用)


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