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醜女の絵解き(しこめのえとき) その3~竹丸、理不尽な仕打ちの怖さを知る~

若殿(わかとの)は頷きながら


「『(*作者注1)木花之佐久夜毘売(コノハナノサクヤビメ)天照大御神(アマテラス)の命を受けて地上世界に降臨した邇邇芸命(ニニギノミコト)から求婚を受ける。

父の大山津見神(オオヤマツミノカミ)はそれを喜んで、姉の石長比売(イワナガヒメ)と共に嫁がせようとしたが、邇邇芸命(ニニギノミコト)は醜い石長比売(イワナガヒメ)を送り返し、美しい木花之佐久夜毘売(コノハナノサクヤビメ)とだけ結婚した。

父神の大山津見神(オオヤマツミノカミ)はこれを怒り、私が娘二人を一緒に差し上げたのは石長比売(イワナガヒメ)を妻にすれば天津神の御子(邇邇芸命(ニニギノミコト))の命は岩のように永遠のものになるはずであったのに、木花之佐久夜毘売(コノハナノサクヤビメ)のみを妻にしたため、木の花が咲き誇るように繁栄はするだろうが、その命ははかないものになるだろうと語った。

それで天神の子孫である天皇に寿命が生じてしまったといい、神々の時代から天皇の時代への途中に位置づけられる神話となっている。

木花之佐久夜毘売(コノハナノサクヤビメ)は一夜で身篭(みごも)るが、邇邇芸命(ニニギノミコト)は国津神の子ではないのではないかと疑った。

疑いを晴らすため、誓約をして産屋に入り、


「天津神である邇邇芸命(ニニギノミコト)の本当の子なら何があっても無事に産めるはず」


と、産屋に火を放ってその中で火照命(ホデリノミコト)火須勢理命(ホスセリノミコト)火遠理命(ホノオリノミコト)の三柱の子を産んだ。

火遠理命(ホノオリノミコト)の孫が初代天皇の神武天皇である。』


という『日本書紀』にある物語を三場面にして描いたものだ。」


確かにっ!!


納得したけど疑問が湧き


大殿(おおとの)たちの会話の『アタ』『カシ』『ハヤト』って何のことですか?」


木花之佐久夜毘売(コノハナノサクヤビメ)の別名は神阿多都比売(かみあたつひめ)神吾田鹿葦津姫(かむあたかあしつひめ)薩摩(さつま)国の地名・阿多(あた)鹿葦(かあし)にちなむ名だ。

隼人(ハヤト)は古代日本に薩摩(さつま)国に居住した人々のことで木花之佐久夜毘売(コノハナノサクヤビメ)の子孫にあたる。」


なるほど~~~!


合点(ガッテン)!して思わず


「じゃあ


『男性と花飾りの美女、石になった醜女(しこめ)


『燃える小屋の中にいる花飾りの美女』


『青黒くなって死にかけてる若い男性』


の三場面は『日本書紀』の一部分なんですねっ!!??」


ん?


まだ疑問が残る。


「でも一体、誰がその絵巻を若殿(わかとの)の曹司に置いたんですか?

『日本書紀』の一部分の絵巻物をなぜ?」


若殿(わかとの)が腕を組み、難しい表情でウ~~ンと唸り、考え込んだ。


突然、大奥様がハッ!と何かひらめいたように


「ちょっとその絵巻物を見せてちょうだいっ!」


若殿(わかとの)が袖から筒状の巻紙を取り出して渡し、大奥様が開いてマジマジと見ると


「これは、もしかして・・・・」


と青ざめつつ呟いた。


若殿(わかとの)が鋭いまなざしをキラッと光らせ


「何ですか?母上っ!教えてください!」


大奥様がゴクッ!と息をのみ


「これは、磐菜(いわな)さんが描いたものよ!

息子たちの曹司に置いたのは、きっと・・・若い(おのこ)たちに警告したかったのね!

将来、くれぐれも女子(おなご)を理不尽な目に合わせないようにって!」


ハッキリ説明しないことに()れたように声を荒げ


「だから、何を描いてるんですか?」


大奥様は険しい表情で


磐菜(いわな)さんはね、二人目の夫に離縁を言い渡され婚家を追い出されたの。

その夫は同時に花のように美しい側室を正妻として迎え寵愛したわ。

だけど、その美しい妻が妊娠したと同時に、間男を通わせてたことが発覚してね、夫は自分の子じゃなく間男の子だと責めて、子をおろせだの死んで詫びろだのと大騒ぎだったらしいの。

磐菜(いわな)さんが教えてくれたのよ。」


ハッ!と気づいて思わず口を挟む


「で、その美しい妻は燃えさかる小屋の中で焼け死んだんですかっ??!!

自害ですか?夫に殺されたんですか?

そしてその夫は疫病で早死にしたんですかっ??!!

ひえ~~~~っっ!

怖いですね~~~っっ!」


大奥様はウウンと首を横に振り


「いいえ。

そんなことは起こって無いわ。

事実なのは磐菜(いわな)さんが婚家を追い出されたこと、元夫が美しい正妻を迎えその妻が妊娠し間男を通わせてたと発覚したこと、だけよ。

だから美しい妻が火事の中で焼け死ぬことや夫が若くして疫病で死ぬことは、磐菜(いわな)さんの願望で、その願いが成就するように恨みを込めてこれを描いたんじゃないかしら?

それくらい二人のことを恨んでたから。

呪ってやる!ってすごい剣幕だったし」


それを知って改めてその絵を見ると、おどろおどろしい邪悪な怨念が黒い煙のように漂い出てくるかのような錯覚に陥り、ブルッ!と背筋を冷たいものが()い上がった。


ところどころ墨がかすれてるのも、線がグニャグニャ不安定なのも、千々(ちぢ)に乱れる思いを表してるようで、命を懸けても元夫と美人妻を呪い殺す!という強烈な怨念がこもってる気がした。


若殿(わかとの)がウンウン頷き、感心しつつも不思議そうに


「母上はなぜ磐菜(いわな)さんが描いたと気づいたんですか?

妻の焼死も夫の病死も事実ではないのに?!」


大奥様は眉根を寄せ、悲しそうに首を振り、ひそめた声で


「ここに・・・・磐菜(いわな)さんが夫から追い出された理由が描いてあるからよ。

磐菜(いわな)さんは決して(みにく)くなんてなかったわ!

でも、三年たっても子を(さず)からなかったから、彼女は


石女(うまずめ)


と夫に(ののし)られ、離縁されたの。」


そういいながら絵巻の、石になった醜女(しこめ)を指さした。



(*作者注1:出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』『コノハナノサクヤビメ』からの引用です)


最後までお読みいただき、ありがとうございました。

昔と違って男性にも不妊の原因はあると証明でき、理不尽に責められる女性が減ったという事実だけでも、現代科学の恩恵だと思います。

時平と浄見の物語は「少女・浄見 (しょうじょ・きよみ)」に書いております。



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