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第116話 「プールの幽霊」再訪

「今日も昨日と同じ場所で!」

こころはそう告げると、足早に教室を出ていった。


その場に居た東一郎を含む、エマ、ヤマト、ユリは震え上がったが、気のせいだと納得させるのに非常に時間がかかった。特にエマとヤマトの拒絶反応はとても強く、説得するのに相当な時間を要した。


東一郎は昨晩の別れ際に璃子から言われた「明日も絶対来てね!後皆も絶対連れて来てね!」という言葉に従うしかなかった。


「あー、失敗した…たかが17、8のガキに…。」

東一郎は、最初から最後までペースを握られっぱなしだった璃子の言動に手玉に取られたことを、非常に悔しく思っていた。


何となく乗せられて、深夜に二人プールで泳ぐ羽目になり、何かあったら失禁した事をバラすと脅されていたのだ。

東一郎本人は自覚がないため、失禁については一切認めていないのだが、変に噂を流されると彼女の言動からそれが事実のように伝わってしまうような気がしてならなかった。それぐらい彼女には人を引き付ける魅力があった。


「絶対に先に逃げないでよ!」

そう言いながら渋々承諾したのはエマだった。彼女は東一郎とこころが一緒の空間にいることを許容したくなかった。

ヤマトはエマに押し切られる形でつきあわされることになった。

ユリだけは頑として拒否をして、さっさと帰ってしまった。


こうして、東一郎とエマ、ヤマトの3人は放課後にまた旧部室棟に向かうことになった。

放課後の教室で待っていると、こころがやってきて4人で部室棟に向かった。


「あの。昨日は先に帰ってしまってすみませんでした」

こころは東一郎に申し訳無さそうに言った。


「え?ああ、全然!でもどうしたの?こころちゃん全然姿が見えなかったよ」

東一郎はこころに言った。


「え?二人一緒に帰ったわけじゃないの?」

パッと明るい顔でエマは、東一郎の話に被せてきた。


「あ、ああ。まぁ、色々な」

東一郎はエマに対して曖昧に回答した。


「あの時、水島さんと二人きりになったら私、なんだか凄いことを言いそうになって…。」

こころは伏し目がちに間に入り込んできた。


「は、はぁ!?な、何いってんの委員長ちゃん!」

エマはこころのただならぬ発言に対し、話をそらそうとした。


「で、これじゃいけない!と思って居たら部室棟を飛び出してしまって…。私は…。」

「ま、まぁ、いいじゃんか。俺も勉強教えてもらってる訳だし、全然助かるよ!」

東一郎はこれ以上話を長引かせないように無理やり終わらせようとした。


暗い廊下は陽の光が入り、昨夜の気味の悪い雰囲気はまったくなかった。

昨晩の出来事は一体何だったのか?東一郎はぼんやりと村山璃子の事を思い出していた。軽音楽部の3年生。初対面の東一郎に対しかなりぶっ飛んだ事をしてくる少女だった。


「なぁ。こころちゃん。軽音楽部って何処の部室?」

東一郎はそう言ってこころに聞いた。


「え?軽音楽部?ですか?」

「そう。軽音楽部。ここらへん使ってるんでしょ?」

「あ、いえ。軽音楽部って人が居なくて、もう何年も部活登録していないですよ」

「え?嘘?だって…」

「???」

「あ、いや…なんでも無い…」

東一郎は混乱しながら、すぐに話しを終わらせた。変に話をすると他のメンバーをまた怯えさせると思ったからだ。


軽音楽部はもう何年も前から無い。確かに東一郎も聞いたことがなかった。

じゃあ、昨日会った璃子は一体何なんだ?

というか、そもそもあの時間になんで一人でいたんだ?

あれ?なんでだ?しかも女子生徒が一人きりで暗い廊下に立っていた!?


「おいおい、まじかよ?アイツが幽霊?」

東一郎はそう言って首を振った。その割には随分ロックな幽霊だな!東一郎は心のなかでそう思った。彼女の声、姿は幽霊には見えなかったし、そもそも彼女から感じた体温ははっきりと覚えていた。


一体あの子は何だったんだ?東一郎は疑問に思いつつも何も考えないようにした。


昨日と同じ水球部の部室で勉強を開始した4人だったが、最初こそ怯えていたエマとヤマトは徐々に落ち着きを取り戻し普通に勉強していた。


勉強を始めて1時間ほど経った頃だった。


「あなた達!何やっているの!」

キンキンと響く金切り声が、4人のいる部屋に響いた。

ドアを開けて怒鳴り込んできたのは、腕章に風紀と書かれた風紀委員の2年立花美春と風紀委員長の佐々木慶太とその他の風紀員3人の合計5名のメンバーだった。


「どういう事ですか?旧部室棟を私用に利用したということですか?」

立花美春は勢いそのままに4人に対し怒鳴りつけた。


「まぁまぁ。立花さん落ち着こう。」

佐々木慶太はそう制すと、椅子を引っ張り出して座り込んだ。どうやら最初からこの現場に対し事を荒立てようとする魂胆のようだ。


風紀員の佐々木と立花、残る3人はこころを囲むように立ちはだかった。

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