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第115話 「プールの幽霊」プール

「じゃあ、帰ろっか?」

璃子は自分のカバンをぱっと持つと東一郎にあっさり言った。


「あ、ああ…」

東一郎は振り回されっぱなしの璃子に、困惑しながらも従った。


「ふんふーん♬」

鼻歌を歌いながら璃子は歩いていて、東一郎はその後ろをついていった。

薄暗い廊下は相変わらずだったが、璃子は気にするでもなく、ぴょんぴょんと跳ねるようにして歩いていた。


途中途中で、この部室は昔何処の部が使っていただとか、全く必要のない情報を東一郎にしきりに教えてきた。東一郎は完全にペースを握られているのに、嫌な気はしなかった。


旧部室棟の鍵を璃子は締めると、校門に向かって二人は歩いていた。


「!!?」

璃子は突然東一郎の腕にしがみつくように、組んできては東一郎の反応を楽しげに伺っていた。東一郎は内心ドキドキしながらも、平静を装っていた。


ショーットカットのよく似合う美少女であるということに、月明かりに照らされた璃子を見て思い知らされた。


「ん?どうかしのかしら?」

いたずらっぽく璃子は東一郎に聞いてきた。


「あー、もう!アンタ何なんだよ!?距離!距離!近いって!」

東一郎はドキドキを悟られないように、敢えて強めの口調で言った。


「んー、いいじゃん。どうせ二人っきりなんだし。それに私達もうそういう仲じゃない?」

「そう言う仲じゃない!断じて違う!」

東一郎は頑なに否定した。


「え〜?アタシ結構モテるんだよ?嬉しくないの?きれいなお姉さんと仲良くなれて」

「自分で「きれいなお姉さん」とか言う人がモテるとは思わない!」

「あははは。真面目だなぁ。君は!真面目くんか!?」

そう言って肩をドンと東一郎にぶつけてきた。


「なんか、酔っ払ってる人みたいなんだが!?」

東一郎は呆れつつも、璃子のペースに乗せられているのが少し癪に障った。

10以上も年下の相手に…と思うとなんだか情けなくなってきた。


校舎の脇を抜けてプールの脇の道を通りかかった時だった。


「あ、そうだ!ねぇねぇ!ちょっと来て!」

璃子はそう言うと東一郎の腕をグイッと引っ張り込んだ。


「え?何?今度は何?」

東一郎は最早逆らう気持ちも無くなっていた。

璃子は自分のカバンの中から鍵を取り出すと、プールの入口の鍵をいきなりガチャガチャといじりだした。


「ちょ!?何してんの?」

「えー?それはこれからのお楽しみ!」

璃子はプールの入口の鍵を開けると自分はさっさと中にはいりこみ、東一郎に手招きした。


「ねえ。ここまで来ちゃったからには泳ごうよ!」

「はぁ?何いってんの?この時間に?水着は?なにもないよ?」

「大丈夫!この時期でも水は張り替えたばっかりで奇麗だよ」

「いや、そう言う問題じゃないだろ」

東一郎は呆れながら璃子に言った。


「うん。水着っていうのは?どんな形?」

璃子は東一郎に下から見上げるように聞いた。


「はぁ?水着?パンツみたいな形で…って!おい!何してんの!?」

と途中までいいかけて慌てて、璃子に言った。


璃子は制服と中に着ていたTシャツとスカートを脱ぐと上下の下着姿になった。


「え?今君が言ったじゃん。パンツみたいなって…」

「いや、それは形を言ってるんであって、水着ってのはさぁ!」

東一郎は目線を逸しながら、慌てて言った。


言っている側から、璃子はさっさと離れると、パッと飛び込むとザブンとプールに飛び込んだ。


「ふー気持ちいい…」

璃子はプールの中でプカプカと浮かびながら言った。


「……。」

唖然としている東一郎は最早何も言えなかった。


「ほら。早くおいでよ」

のんびりと泳ぎながら璃子は東一郎に言った。


「ふー、マジで何なんだよ。この人…」

東一郎は璃子に呆れながらもプールサイドまでやってきた。


「ほら。早く脱いで!」

璃子は東一郎に向かって、当たり前のように言った。


「いや、もうパンツとか濡らしたくないんだけど…」

「じゃあ、全部脱げばいいじゃん」

「いや、そりゃまずいだろ」

「何が?」

「何がって、”璃子さん”は水着というなの下着、俺は全裸でプール。おかしくない?」

「別に?良いんじゃない?夜だし。誰も居ないし」

「そう言う問題じゃ…」

「もう。面倒くさないなぁ!」

璃子はさっとプールから上がると濡れたままで東一郎の制服を脱がせ、ズボンもパンツも脱がそうとした。


「ちょ!分かった!分かったってば!入るから!」

東一郎は諦めて全裸になると璃子から少し離れたところからプールに入った。

水は思った以上に暖かく感じて、心地よく感じた。


「ほら。気持ちいいでしょ」

璃子はゆっくりと音を立てずに泳いで、東一郎の近くまで来た。


「ちょ!?ちょっと待てって!俺全裸だから!」

「ふーん。全裸だから何?」

「いや、ちょっとまずいだろ!」

東一郎は璃子を見ないようにして言った。


「うふふふ。なるほどね。ならこうだ!」

璃子はそういうと、水の中で何かゴソゴソとしてパッと手あげた。上げた手には彼女が身に着けていた下着が握られていた。


「お、おい!何やってんだ!?」

「だって、全裸どうしならOKじゃない?」

「じゃない!じゃない!マジで!」

東一郎は必死で訴えた。


「あははは」

璃子は面白そうに、東一郎の様子を伺っていたが、さっとプールから出ると飛び込み台の上に立った。

下着も本当に何もつけていない全裸だった。


彼女の姿はとても奇麗で、ショートカットのよく似合う不思議な少女だった。

彼女は美しい体をほぼ折り曲げること無く、きれいな姿勢で水中に飛び込んだ。


「くっそ!」

東一郎は思わず心奪われそうになる自分に向けて言った。

正直、璃子の姿に完全に心奪われたと思った。心底美しいと思ってしまった。


「ねぇ、もう良くない?」

璃子は東一郎のところまでやってくると、東一郎に覆いかぶさるようにしていった。


「ちょ!なに!?何!?何が?」

東一郎は必死に逃げたが、もうあまり抵抗はしなかった。


「教えてよ。君のこと?だってアタシ君のこと何も知らないもの」

「俺のこと?」

「そう、今学校で話題の水島瞬について」

「話題?俺が?なんで?」

「うーん。3年生にもたまに聞こえてくるよ。君の噂。ちょっと興味持ったていうか、ついつい確かめたくなっちゃうなぁ。お姉さんは!」

「はあ。別に大した話は無いよ…。」

結局二人は誰も居ない深夜のプールでプカプカと浮かびながら、他愛もない話をしたのだった。

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