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第113話 「プールの幽霊」女子生徒の幽霊

「ん?こころちゃん?どうした?」

東一郎は笑顔のこころに向かって怪訝な顔をして聞いた。


「え!?あ、あれ?どうかしましたか?」

こころは直ぐにハッとして東一郎に返答した。


「あ、いや、何かめっちゃ笑顔だったから…」

東一郎はそう言って、こころを見たが今は普通の顔をしている。

桜井こころは、学校でも一二を争う美人であり、美人の笑顔は本来嬉しいはずなのだが、東一郎にもちょっと違和感を覚える笑顔であった。


「じゃあ、続きをやりましょう。8時前には学校をでないとですね」

こころは先程と同様に淡々と新しい科目の教科書とノートを開いた。


「ああ、わるいな。こころちゃん!助かる!」

東一郎は素直に笑顔で礼を言うと、自分も教科書を広げた。


こうして二人はそのまま、40分ほど東一郎が問題を解いては、こころが解説をするというパターンの勉強を終えた。


「さあ、時間だな。もうそろそろ帰ろうか?」

東一郎は時計を見ながらこころに言った。


「……。」

こころは何も言わず下を向いていた。


「???」

東一郎はこころの肩をぽんと叩いた。


「あ、あれ?」

こころはパッと顔をあげると、東一郎を見ると急にうつむいた。


「ん?どうした?」

東一郎は不思議に思いこころに聞いた。


「あ、いえ。何でもありません。それよりもう誰も残ってないみたいですね。帰りましょうか?」

こころは東一郎にそう言うと、すっと立ち上がった。


「あ、あの…水島さん…明日もここで勉強しましょう!」

こころは続けて東一郎にそう言うと、そのままさっと荷物をまとめると外に飛び出していった。


「え!?ちょ、こころちゃん!?どうした!?」

東一郎は慌ててこころを追いかけようとしたが、その瞬間に電気が消えた。


「は!?マジかよ?」

さすがの東一郎もこのタイミングでの消灯に少し焦りを覚えた。


東一郎は、荷物をまとめると慌ててこころの後ろを追ったが、既にこころは何処にもおらず、ただ暗い廊下は外の電灯の光でギリギリ視界が保てる程度だった。


「おいおい、マジかよ?これは流石に…鍵どうすんのよ?」

百戦錬磨の東一郎といえども、それなりに長い廊下の古びた建物を一人となると流石に少し気味悪く感じた。


「たく。こころちゃんもなんか変だな…」

東一郎は仕方なく薄暗い廊下をそのまま歩き出した。一人で歩いていると確かに古い建物で多少気味が悪く感じた。


「エマとヤマトの事、笑えないな…」

東一郎は思わず苦笑いをした。その時だった。


「うふふふ」

「!!?」

確かに誰かの笑い声が聞こえた。


「誰だ?!」

東一郎は辺りを振り返ってからゾッとした。

声が聞こえたのは自分のほぼ真後ろだったにも関わらず、誰も居なかったからだ。


「っ!?いや、気のせい。気のせいだ!」

東一郎は自分の後方に向かって叫んでみた。当然返事はない。


返事がないことを確認した東一郎は2階の廊下の階段付近まで足早に歩いていった。


「なんだ?何だ?どういうことだ?空耳か?」

東一郎は独り言をブツブツと呟きながら下りの階段を目指した。


「…待って…」

「!!?」

東一郎は全身の毛が逆立つかのような錯覚を覚えた。


「やべぇ。聞こえた。マジ聞こえた!」

東一郎はそこから猛ダッシュで階段を駆け下りた。


階段をおりきった所で、階段の上を見たが誰の姿もなかった。


「な、なんだよ。脅かしやがって…」

東一郎は混乱した自分が面白くて、半分笑いながら出口を目指しまた歩き出した。


「え?」

東一郎は思わず口にした。出口の方に薄暗い廊下が続いているのだが、30メートルほど先に夏服の少女が下を向いて立っていた。表情は全く見えない。


「う、うううわああああああああ!」

東一郎は悲鳴をあげるとそのまま一目散に逆方向に逃げ出した。


夏服の少女は東一郎を追うように走り出した。


「うそ!?マジ!?うそ!?うそだ!?」

東一郎は猛ダッシュで階段を駆け上がると先程居た水球部の部室の方向へと走り続けた。


だが後ろから足音がパタパタと付いてくる。


「ちょっと!マジ!ゴメン!マジ!」

東一郎は最早祈るような気持ちでダッシュしたが足音はどんどん近づいてくる。

東一郎は走るのが早かったため、鬼ごっことかでも追いつかれると言う事が殆どなかった。最早恐怖の絶頂で生きた心地がしなかった。


先程の部室前に駆け込むと扉を開けようとしたが、びくともしない。

焦ってガチャガチャっと扉を押しても引いても全く動かなかった。


「な、なんだよ!?」

東一郎は恐る恐る今来たばかりの廊下を振り返った。廊下には誰もおらずシーンとしている。薄暗い廊下の奥にも人の気配なかった。


「はぁ、はぁ」

東一郎は息を切らせて恐怖に引きつった顔のまま少し息をついた。


「な、なんだったんだ??」

東一郎は最早泣きそうなくらいに情けない顔をしていた。余裕など全く無くなっていた。


「ねぇ…」

不意に後ろから声をかけられた東一郎は、振り返るとそこには先程の夏服の少女が東一郎をじっと見ていた。


「うわあああああああ!」

東一郎はそう言うと後方に倒れ込むように尻餅をついた。


少女は東一郎の方へゆっくりと歩いてくると、恐怖に怯える東一郎の耳元にふぅっと息を吹きかけると、

「ねぇ。アタシ…」

と東一郎に言った。


東一郎は少女の顔の近さと恐怖のあまりそのまま気を失った。この時、エマとヤマトをバカにしたことを死ぬほど後悔したのだった。

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