第112話 「プールの幽霊」勉強会
「な、なぁ。こころちゃん…。これって?」
ヤマトは顔を引き攣らせながら、こころに聞いた。
「え?どうかしたんですか?」
「いや、どうかしたっていうか、これって御札だよね。あとこれ盛り塩だよね」
「え?ああ、そうみたいですね…それが何か?」
こころは不思議そうな顔をして、ヤマトに首を傾げて聞いた。
「ちょっとヤダ…マジ…」
エマはすっかり怯えた表情で幽霊を見るような目でこころを見た。
「やまとさんも、エマさんもまさかお化けを信じてるんですか?」
こころは少し可笑しそうな顔をして二人に言った。
「いや…だって…」
「そうだよ。これって普通じゃないよ!」
ヤマトとエマは口を揃えて言い返した。
「ふたりともカワイイですね…」
そう言ってこころは顔を伏せた。どうやら笑い出したいのを堪えているようだ。
「なんだよ。お前らこんなの怖がってんの?」
東一郎が半笑いで口を出した。
「ちょっと!あんた達おかしいんじゃないの!?」
エマは非難に近い言い方で東一郎とこころに向かって叫ぶように言った。
「小学生じゃないんだから、御札ごときでビビるなっての」
東一郎はそう言うと、すっと立って御札をパリッと剥がした。
「!!?」
「ちょ!何やってんの!」
「信じらんない!」
ヤマトとエマ、それにユリもその行動に驚きを禁じ得なかった。
3人共に東一郎に非難の声を浴びせた。
「ほら。何か出てくるなら、俺の所に出てくるだろ。そんな事よりテストだよ!テスト!マジヤバイんだから!」
東一郎は3人の非難も意に介さず、さっさと机に戻ってくると教科書を広げた。
「じゃあ、最初は科学からやりましょうか?」
こころもほとんど意に介さずに、東一郎の隣にさっと座り教科書をだした。
「マジ…?何なのこの人達?」
エマは青い顔をしながら、呆然とした顔で二人に向かって呟いた。
夕方の旧部室棟は、静かで夕方近い時間だったが、蝉の声は大きく聞こえていた。
「あー、そうだ…。あ、あたしよく考えたら今日用事あったんだー」
最初に日和ったのは、ユリだった。
淡々と勉強を始めようとする二人と困惑している二人をを尻目に、独り言のようにつぶやくとさっさと自分のカバンから携帯を取り出すと、そのまま急いそと部屋を出ていってしまった。
「ちょ!?ユリ!?マジ!?裏切り者!」
エマはユリに向かって叫んだが、ユリは振りかること無くその場を去っていった。
「エ、エマちゃん。お、俺らも帰る?」
ヤマトも顔を引き攣らせながらエマに言った。エマもその言葉に心を大きく揺さぶられたが、仲睦まじげに勉強をしている東一郎とこころを見ると、帰りたい気持ちよりも帰れないという思いが強くなった。
「あ、アタシは残るよー!当然…お、お化けとかマジ信じてないし…」
エマが精一杯の強がりを言っているのを、ヤマトは感じたが流石にこの場を去るのを断念することにした。
こうして4人は、この広い部屋の中央にある机を囲んで勉強を始めた。
「今回の出題範囲は、教科書の40ページ〜70ページの部分だそうです」
「ああ、このあたりさっぱりわかんないや」
「じゃあ、最初から見ていきますね」
東一郎とこころは、お構いなしに勉強を初めている。エマとヤマトも渋々机に座って居心地の悪い中、各々の勉強を始めるのだった。
「ふー、一通りやったな。なんとなく行ける気がするよ!」
東一郎は勉強開始して2時間程してから、こころに言った。
「水島さんの集中力、すごいですね!」
こころは笑顔で東一郎に返した。
「ありがとう!こころちゃんの教え方が上手いんだよ」
「いいえ。でも、嬉しいです」
東一郎とこころの会話が聞こえてくると、エマは鬼の形相で自分が不得意な日本史の問題をひたすら解いていた。この頃になると、御札のことなど皆大して気に留めていなくなっていた。
ヤマトも流石に落ち着いてきたのか、特に何か文句をいうでもなく淡々と勉強をしていた。
元々進学校の生徒だけあって、東一郎以外はそつなく勉強をこなすことが出来るのだ。
そんな時だった。
いきなりパッと部室の電気が消えた。辺りは既に暗くなっており、電気が消えると部屋は真っ暗になった。
「ぎゃああああああ!」
「な、何々!?なんで!?」
エマとヤマトはいきなりの出来事に、リミッターを解除したような悲鳴のような叫び声を上げた。
時間にすると数秒であったが、すぐにまた電気が着いた。
「まぁ、慌てるなよ。古い建物だから接触が悪いんだろ」
東一郎は呑気に伸びをしながら言った。
「たまに電気が切れたりしますけど、そんなに叫ばなくても…」
こころはやはり笑いを堪えながら二人に言った。
「いや!アナタ達がおかしいってば!」
「そ、そうだよ!これでビビらないほうが異常だって!」
エマとヤマトは、東一郎とこころに文句を言った。
「うふふふ…」
「!!?」
「!?」
どこか遠くで誰かが笑うような声が聞こえた。
「…な、なに?今の…」
エマは完全に震えながら聞いた。
「な、何か、笑い声…???」
ヤマトがエマに向かって言った。その顔は顔面蒼白という言葉通りに血の気が引いていた。
「はあ?何も聞こえないよ。お前ら気にしすぎだろ」
東一郎には聞こえなかったようで、呆れながら二人に言った。
「声なんてしました?」
こころも平然としている。
シーンと静まり返った部屋の中に確かに、物音1つ聞こえなかった。
「怖いと思うと、混乱しちゃうのかもしれませんね…」
こころは少し哀れに思ったのか、フォローの発言をした。
「……。」
エマは青ざめた顔をしながらも、何とか平静を装っていた。
ヤマトは完全に動揺しており、フリーズした状態になっていた。
「ほら、もういいだろ。残り1時間ちゃんと勉強させてくれよ」
東一郎はそう二人に呆れたような声で言った。
「じゃあ、皆さん今から科学の勉強しませんか?」
こころは突拍子もなく、提案をした。
「はぁ?!なんで科学?」
エマはこころを見上げるようにして、半ば喧嘩腰に言った。
「だって、科学を学べばお化けなんて居ないって分かるじゃないですか?」
こころは普通に行ったつもりだったが、エマには勝ち誇った顔で言われたような気がした。
「うふふふ」
もう一度、小さくだが明確に笑い声が聞こえた。
「う、うわあああああ!」
「きゃああああああ!」
ヤマトとエマは、飛び上がって驚くとそのまま部室を飛び出していった。
「何だあれ?」
東一郎はこころに向かってそう言って、こころの方を向いたが、思わずぎょっとして、そのまま動きを止めた。
こころは何も言わずに、笑顔のまま、東一郎の顔をじっと見ていたのだった。




