第111話 「プールの幽霊」部室
放課後になると早速東一郎達は生徒会管理の空きの部室の前にやってきた。
「え…こ、これは…」
百戦錬磨の東一郎も流石に少し怯んだ。
桜井こころに案内されたその場所は、以前部室棟として各体育会の部活動の部室として使われていた建物で、小さな教室くらいの大きさだが、現在は新部室棟ができたため、愛好会や作業用の部屋として貸し出されていた。
近いうちに取り壊しが決まっているという建物でとても古く、お世辞にも綺麗とは言えないものであった。
愛好会や部活動として休止している部活の倉庫として利用されており、利用している人自体が少なかった。
ボロボロの建物の中にこころは気にせずに入っていった。
夏の暑さを少し忘れるくらいのひんやりした空気が流れ、ほこりっぽい匂いが鼻についた。
「え?初めてきたけど、こんなんだ…」
エマと一緒についてきたユリ、ヤマトも明らかに引いていた。
「大丈夫ですよ。中は割ときれいなんですよ」
こころは皆の雰囲気を感じて、察したのかそう言った。
一行がこころに案内されるままに、建物の内部に入ると、何も書かれていない部室や「自然現象研究会」「星座を愛でる会」「地元調査愛好会」「クリケット愛好会」「2次元研究会」「野生動物研究会」「河川愛好会」「洞窟調査サークル」などの何の活動をしているのかわからない団体の名前が扉に書かれていた。
ひっそりとしており、建物にあまり人気は感じられなかった。
「な、なぁ。こころちゃん。ここって本当に普段は人いるの?」
「はい。あまり多くはないですが、人は居るはずですよ。でも倉庫とかに使っているみたいで、活動をしているっていう雰囲気はあまりないですね」
「だよね。これなんかちょっと昭和な感じだよね…」
「はい。もうすぐ取り壊されますからね」
昼間なのに建物内部は薄暗く、電気をつけたいくらいだった。
こころは来慣れているのか、あまり気にせずにどんどん進んでいった。
「ちょ、これ雰囲気が…怖くない…これ?」
ユリはエマの制服を掴んで辺りを警戒しながら歩いていた。
「ちょ、ちょっと!ユリ!引っ張んないでよ!」
「え?引っ張ってないって!」
エマはユリが、自分の服を引っ張っているのを感じながらも、先を歩く東一郎とこころが気になっていた。
エマがふとユリを見ると、たしかにユリは少し離れたところを歩いていた。自分の服を引っ張るにしては遠すぎる。
「え!?じゃあ、誰が…」
エマはふと後ろを振り返ってゾッとした。そこには誰も居なかったからだ。
エマはそのままダッシュして、東一郎とこころの所に走っていった。
「え!?ちょっと!エマ!何!?」
ダッシュしたエマを見て、ユリが叫んだ。
「ん?どうした?何か顔がマジだぞ…」
東一郎はエマを見て少し驚いた表情を見せた。
「え?ああ、ちょっと…」
エマは怖くなって走ってきた事を少し恥ずかしく思い、口ごもった。
「何よ!?急に走んないでよ!」
ユリは置いていかれたことに少し腹を立てたようだ。
「な、なんか…今、誰かに引っ張られた!?」
エマは東一郎にすがるようにして言った。
「はぁ?誰よ?誰も居ないじゃん」
東一郎は少し呆れた口調で、後ろを見ながら言った。
「でも、引っ張られたの!」
エマは少し泣きそうな顔で、訴えた。
「エマさん…。結構怖がりなんですね…」
こころは少しはにかんだ顔でエマに言った。
「ちょ!?委員長ちゃん!バカにしてる!?マジだって!」
エマはこころに鼻で笑われたと思い言い換えした。
「まぁ、いいじゃんか。気のせいだって。エマちゃんはまだオコチャマだねぇ」
東一郎は笑いながらエマに言うと、エマは少しふくれっ面をしていたが、エマちゃんと呼ばれたことが少し嬉しかったようだ。
「あ、ここです」
こころは不意に立ち止まると、こころは一つの扉を指さした。
扉には札が外されたあとがあったが、扉に一目でわかるように「水球部」という名前が書いてあった。
「え?うちの学校水球部なんてあったっけ?」
東一郎はこころに聞いた。
「昔は、水球部と競泳部があったみたいですが、今はまとめて水泳部ですね」
「ああ、水泳部って水球もやるんだ…」
「最近はあまり試合とかやってないみたいですが、でもたまに練習しているみたいですよ」
「ふーん。プールねぇ。今の季節なら大歓迎だなぁ」
東一郎はそう言ってパタパタと自分を手であおいだ。初夏の空気は生暖かく、普段あまり使われていない旧部室棟のほこりっぽい空気と鳴き始めたセミの声がやたらと耳についた。
こころは鍵を開けると、スタスタと部屋に入っていった。
部屋にはいると中央に大きな机があり、椅子が6つほど並べられていた。建物の雰囲気の割に中は比較的綺麗でホコリが積もっているわけでもなかった。
ロッカーは並んでいるものの他にものはなく、ちょっとした教室くらいの広さがあり普通の部室よりはだいぶ大きい部屋だった。
「あれ?意外と綺麗じゃん!」
東一郎はそう言ってチリ1つ無いテーブルを指でこするとドサッと椅子に座った。
「はい。たまに生徒会で利用したりしてますから。この部屋だけ広いので、以前は倉庫代わりにしていたみたいです」
こころはそう言うとスッと東一郎の隣の席の椅子を引くとそのまま座った。
「!?」
エマはそれを見てなにかいいたそうだったが、学力では圧倒的に勝ち目がない事を知っているだけに、何も言えずに唇を噛んでいた。
それを見ていたユリとヤマトは少し気まずそうに顔を見合わせた。
その時ユリは部屋の片隅にある張り紙に目を留めた。
「ねぇ。あれ何?御札?」
ユリが指さした方向には、部員用のロッカーがありその1つに御札のようなものが貼り付けられていた。よく見ると部屋の入口付近に小さな皿が2つあり、そこには塩が小さな山の形に盛り付けられていた。
「!!?」
「!?」
それに気がついたユリとヤマトは思わず顔を見合わせるとさっと青ざめたのだった。




