第108話 「雨女」始まりの場所
東北から日帰りをした東一郎と水島瞬は翌日曜日に、今度は例の神社に二人でやってきた。
もう一度神社で思い出そうという東一郎の意見だったが、これまでであれば絶対にうなずかなかった水島瞬は素直に付いてきた。
小雪の言うどんなに遅くとも6年後には元に戻るという言葉が気にかかっているのだろう。
二人は小さな社の前にやってきた。
「おーい!神様!聞こえるか!?返事してくれ!」
東一郎は山の上から叫んでみた。当然全く反応はなかった。
「ふー、やっぱり分からねぇか…」
東一郎は社の階段に腰を下ろすと空を見上げた。梅雨の晴れ間から陽の光が当たっているが湿度は高かった。
「あの、神崎さん。ちょっと考えてみたんです」
「はぁ?何を?」
「その、入れ替わった理由とか」
「えぇ?今更?何度も話したじゃん」
「本気でもう一度考えたんです」
水島瞬はそう言って東一郎の方をまっすぐ見た。
「お前、やっぱり今まで適当に考えてたんじゃねーかよ…」
東一郎は口でそうは言ったが、責める口調ではなかった。
「僕の願いはシンプルに神崎さんになることでした。まさか本当に入れ替わるとは思ってもみませんでしたが…」
「まぁ、そりゃそうだろ。俺もびっくりだし」
「問題は神崎さんの願いですよ」
「俺の願い?」
「神崎さんはその女子大生と付き合いたいって頼んだんですよね?」
「いや、別に付き合いたいとは…」
「もう良いですから!そう言うの!」
「はい。頼みました。取り消したけどね」
東一郎はチラッと水島瞬をみたが鬼のような形相だった。
「分かった分かった。はいはい。そのとおりです!」
「で、その子は何処にいるんですか?」
「どこってお前、前に言ったとおり、お前がこの場で助けたあの子だよ」
「そうですよね!藤村唯さんですよね。そして現在の僕、水島瞬の同級生ですよね!」
「あ、ああ、そうだよ。」
「じゃあ、一度付き合って下さい。で、やることやってみて下さい!」
「はぁ!?馬鹿言うな!そんなの出来るはずないだろ!」
「だって願ったんでしょ!」
「願ったけど、願ってない!そこまでクズじゃねぇ!」
「わからない人だな!こっちは必死なんですよ!」
「俺だって必死だ!」
二人は言い争うと立ち上がりお互い身構えた。
しばらく睨み合いが続いたが、東一郎が構えを崩すとどかっと座り込んだ。
「だから、お前と戦いたくないっての!」
「僕だって嫌ですよ…」
水島瞬もそう言うと、その場に座った。
「あ、あのさ。よく考えたらさ、役目を果たせって言われたんだよな…」
「はい?今更何を…」
「役目ってのはさ、誰かのための行動じゃないのか?ちょっと携帯で調べるから待ってろ」
「役割として任されたもの、つとめ、職責っていう意味だそうです」
水島瞬は東一郎に言われる前に、すでに調べていた。
「ほら!それって俺の願望じゃなくないか?」
「つまり何かの役割を果たしなさいってことですか?」
「そう。俺に与えられた役割ってのは?誰のため?」
「考えられるのは、神様?藤村さん?その他?ですかね」
「役目…役目…うーん。だけど俺の願望じゃないってのはそうなんだろ」
「それがわからないとどうにもならないですね」
「うーん…ていうかさ、よく考えたら、お前、御神体埋めたって言ってたよな?」
「え、ああ、はい」
「じゃあ、それ今どうなってんの?」
東一郎はふと思い出したようにいうと、後ろにある小さな社を親指で指した。
「御神体は無いと思いますよ」
「お前も随分罰当たりなやつだな…ひょっとしてそれを見つけ出すのが俺の役目?とか?」
「あ…なるほど…」
「な!あり得るだろ!ちょっと見てみようぜ…」
二人は社に上がり、扉を開いた。
「え…あれ?どうして??」
水島瞬は思わず声を上げた。
「どうした?」
「ある…御神体があります…」
水島旬はそう言って指さした先には、祭壇に恭しく飾られた鏡が置いてある。
「え?御神体って鏡なの?」
東一郎は思わず声を上げた。
「え?そうですよ。何だと思っていたんですか?」
「あ、いや、仏像とかそう言うのかと思ってたよ」
「仏像って…それお寺ですよね…」
「御神体って言っても、神社によってはバラバラで、剣だったり、鏡だったり、勾玉みたいなものだったり、何でもあるみたいですけどね…」
水島瞬はそう言うと、御神体の鏡を持ち上げると観察を始めた。
「いや、だからお前そうやってすぐに、手に取るのどうかと思うぞ?」
「は?だって調べなきゃわからないでしょ?」
「いや、そうは言っても、結構ガチな神様だろ…呪われたらどうすんだよ?」
「そこはせめて祟られたらって言って下さいよ。それに祟られるならとっくに祟られてますよ…」
「お前…結構凄いやつだな…」
水島瞬は御神体の鏡を熱心に調べている。
「なぁ、なんか分かったか?」
「ええ、分かったことがあります」
「おお!?なんだ?」
「これよく見るとあんまり汚れてないですよね…」
「え?あ、ああ…で?だから何?」
「これってつまり、誰かが掘り起こして、キレイにしてからここに戻したってことじゃないですか?」
「なるほど…」
「僕が埋めたときって、もっと埃かぶってましたから…」
「てことは、俺ら以外の誰かがやったってことだな…」
東一郎はそう言うとふーっと息をついた。




