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第107話 「雨女」伝承

「まぁ、要するにその地方にいる神様?妖怪?みたいなモノ」

小雪はすっと立ち上がると、二人を見ながら言った。

彼女は東一郎の姿に合わせてなのか、高校生くらいの少女の姿をしていた。


「君たちを入れ替え、東一郎君をこの時代に呼んだんだよ。君たちの棲んでいるところの神様!?がね」

小雪は社の奥にあった椅子を持ってきて、ストンと座った。


「でも、何で?現実的にそんな事が起こるなんて…」

東一郎は小雪を見上げるようにしていった。


「さあ、その神様の気まぐれだろうね。きっと…基本暇なんだよ。私達は」

「いや…暇って…」

「この国の八百万の神々って聞いたこと無い?」

「ああ、まぁ、言葉の意味は想像つくけど…」

「つまりこの国には沢山の神様やら妖怪やらが居るってこと。能力も姿も様々。君たちを入れ替えた神様か妖怪はその能力を持っていたって事だと思うよ」

小雪は当たり前のように言った。


「いや、そうは言っても…」

「だけどもその神様だって万能じゃないの」

「ん?どういう事?」

「制限や制約があるってこと」

「例えば?」

「わかり易い例が浦島太郎だね。アレは悠久の時間を生きられる神様と人間の時間を変えられる事ができる。玉手箱はそのための道具。だから開けたら能力が消えちゃうって訳」

「一寸法師も似たような話しなの?大きさを変えられるって言う」

「まぁ、そう言うことだろうね。ま、たまたま不思議なことが起こったから童話になってるだけで、簡単な例だと神隠しだね」

「神隠しって、子供が急に居なくなると言う話?」

「そう。でも、その殆どは人間による誘拐とか連れ去り、事故のほうが圧倒的に多いだろうね」

そう言うと小雪は一息ついた。


「で、小雪ちゃんの能力と制限は?」

「あー、アタシの能力?っていうのはまぁ、物を動かしたり、姿を消したり、連れ去ることもできるよ。うふふ」

「いや、十分凄いよ。っていうか怖いよ…」

「で、制限は他の神様に連れてこられたり、息がかかった人間には影響を与えられないってこと。だから君たちを連れて行くことはできない…」

小雪はそう言うと、少し悔しそうな顔をした。


「なぁ、俺たちはある神社の神様にお願いしたことがきっかけで入れ替わったんだ。俺に至っては時間すら戻された」

「まぁ、一般的な能力だね…」

「それでこう言われたんだ。成し遂げろ。そして戻れって…なんか分かる?」

東一郎は小雪に聞いたが、小雪はキョトンとした顔をした。


「さぁ?全然わかんないよ」

「ええ!?同じ神様なんだから、なんかヒントくらいあるでしょ!?」

「いやー、言ったでしょ。沢山の神様の能力がバラバラだって」

「だけど、何かをやって欲しいんじゃない。そんでそれをしてくれたら元に戻るってことなんでしょ?」

小雪は少しつまらなそうに言った。


「いや、そんなの最初に思うって俺たちも!」

「でも、1つ言えることは、戻るタイミングは東一郎くんが居た6年後の未来に戻るはずだよ」

「え?そうなの?今の状態で戻るんじゃないの?」

「ううん。そんなに自在じゃないよ。結局時間軸は変えられない。だからこうしているこの時間は、6年後の未来に向けた君たちの時間なんだよ…」

「じゃあ、6年後には元に戻るってことですか?」

水島瞬が慌てて小雪に質問した。


「そうだね。そうなるね」 

「そ、そんな…それじゃあ、どんなに事を成し遂げなくても、6年後に元に戻ってしまうってことですか??そんな…」

水島瞬はそう言うと絶望した顔で絶句した。


「なぁ、瞬。いつになるのか分からないけど、結局俺たちは元に戻るんだよ。だったら、いっそ事を成し遂げてさっさと元の世界に戻った方がいいんじゃないのか?」

東一郎は水島瞬に向かって言った。


「そんな…。僕が…僕が今の神崎東一郎でなかったら、きっとこの生活は…」

水島瞬は沈んだ声で言った。目もどこか虚ろで自分自身でも何が正解なのか理解できていない状況であった。


「おいおい。お前さ、もうちょっと軽く生きてみても良いんじゃないか?」

東一郎の問いかけに水島瞬は何も答えなかった。


「小雪ちゃん。あと一つ教えてほしい。神様って何をしてほしいんだ?」

東一郎は自分でも無理だろうなと思ってなお言った。


「それはその神様によるんじゃないの?同じ街の人たちの考え全員のこと分かる?それと一緒。私達もわかんないよ。」

「そうだよなぁ」

「でも、その神様にお祈りしたんでしょ?」

「お祈りっていうか頼み事だな…」

「じゃあ、その頼み事を叶えたら戻るんじゃない?何頼んだの?」

小雪は素朴な疑問をあっさりと言った。


「僕はなんか全てが嫌になって神崎さんになりたいって頼みました…」

「おうおう。なかなか見どころあるね!キミィ!」

「こんな人だと思ってませんでしたから…」

「……。」


「じゃあ、東一郎くんは?」

「うーん。何だっけ?なんか半端なお願いしたような…。ああ、あの時は唯さんと…そんでその後は適当によろしくって…」

東一郎は自分で思い出しても何だかよく分からなかった。


「というか、その人女子大生なんでしょ?よく恥ずかしげもなく頼みましたね…」

水島瞬は東一郎を非難した。


「いや、だから撤回したんだよ!流石に釣り合わないと思ったよ!俺だって!」

東一郎は慌てて否定した。


「全く情けないなぁ…若い娘にうつつを抜かすとは…」

小雪は呆れ顔で東一郎に言った。


「いや、小雪ちゃん。あんたこそ一体いくつよ…」

「……。」

小雪は聞こえ無かったのか、何も答えずに東一郎の質問をスルーした。


「結局東一郎くんはその唯って言う子と結婚をお願いしたんでしょ?」

「ち、違うわ!そんな訳無いだろ!取り消したし!」

「まぁ、試してみることだね。色々と…」

「いや、それを聞きたくてここまで来たんだけど…」

「ふーん…それを聞きたいだけ…」

小雪がそう言うと周りの空気がひんやりした空気に変わった。


「ああ!ちょっとまって!もちろん小雪ちゃんに会いたいってのもあったよ!ほら!」

そう言うと東一郎は、バッグから日本酒を数本取り出した。

小雪の顔がパッと明るくなった。


「東一郎くんと私はきっと素敵な夫婦になると思うんだ…うふふ」

「まぁ、神様との結婚も悪くないけど、ほら、俺すでに手を付けられちゃってるから…あはは」

二人が酒を飲みながら楽しげに会話し始めると、水島瞬は心底不愉快そうな顔を二人に向けていた。


結局酒を飲み終えると二人は、保養所に顔を出して東京に戻っていくのだった。

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