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第106話 「雨女」社の幽霊

「お!おい!マジで絶対離すなよ!」

百戦錬磨の神崎東一郎も流石に焦りながら叫んだ。


「わ、分かってますよ!!」

泣きそうな声で水島瞬は叫んだ。

二人は重力を無視するかのように、追いかけてきた鞠から逃れるために社に飛び込んだは良いが、社の扉を固く閉ざす以外の方法が思いつかなかった。


トン・トン・トン・トン…何か音が聞こえる。


「……」

「な、なぁ…」

「え?」

「な、なんかさ…」

「はい…」


トン・トン・トン・トン…

「音、近づいてない?」

「ええ…まじで…」


トン・トン・トン・トン…

ドン!!!

何かが扉にぶつかる音がした。


「うお!」

「うわあああ!」

二人は必死に扉を力で抑え込んだ。


ドン!


ドン!!


ドン!!!


鞠が扉にどんどんとぶつかってくる。


「うわあああ!」

「なんで!!何で!何で!!」

二人はパニックになりながら、意味不明なこの状況を理解するほどの余裕はなかった。


ドン!

強く扉に何かがあった。そこから少しだけ静かになった。


「うふふふ」

女の笑い声が聞こえた。


「うああああああ」

「な、なんだよ!?これ!?」

あまりにはっきりと耳元で聞こえた二人は思わず叫んだ。


その時だった。


二人はほぼ同時に気配を感じて、後ろを振り返った。

誰も居ないはずの狭い社の奥から女が、猛ダッシュで二人の方へ走り寄ってきた。


「でえたあああああ!」

「ぎゃああああああ!」

二人はありったけ叫ぶと、そのまま尻餅をついた。


女は走ってきた勢いそのままに東一郎に飛びかかってきた。

バン!という衝撃を感じつつ、東一郎は気を失った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「……。」

「……。」


東一郎は何か話し声が聞こえて、目を覚ました。

ゆっくりと目を開けると、そこには話をする男女の姿があった。


一瞬、混乱したがすぐにガバっと立ち上がると二人を見た。


「あ〜!漸くお目覚め〜!」

若い女が東一郎を指さして笑顔で言った。


「いや、神崎さん。いい大人がなんてザマですか…」

水島瞬は面白いものを見たかのような笑顔で言った。


「ああ!小雪ちゃん!」

東一郎は若い女性が小雪であることを見て叫んだ!


「そうそう!会いたかったよ〜!」

そう言うと小雪は東一郎に抱きついてきた。


「ちょーちょっとまって!」

東一郎はそう言って小雪を押し戻すととりあえず腰を下ろした。


「ちょっとどういう事か?どういう状態か確認させてくれ…」

東一郎は辺りをキョロキョロと見渡した。


社の扉はすでに開かれており、外はやはり来た時同様に雨が降っていた。

社の扉の横には鞠が転がっていた。


「あのさ…小雪ちゃん。さっきのは?」

「うふふ。ビックリした?」

「そりゃびっくりするよ!心臓止まるかと思った!」

「いや、だってさ。なかなかこっちに来ないし、なんか面白そうだからイタズラしようと思ってさ。ちょっとかなりびっくりしたでしょ〜」

「悪趣味すぎるだろ!ガチの幽霊だと思ったよ!マジで!」

東一郎は憤懣やる方ない表情で言った。


「あはは。まぁまぁ。そんなに怒んないでよ。こうして会いに来てくれて嬉しいよ」

小雪はそう言って東一郎の顔を覗き込んだ。


見た目は普通の女子高生くらいに見える可愛らしい少女に言われると、東一郎は思わず目線を外した。


「うふふふ。照れちゃってもう!カワイイなぁ!」

小雪はそう言うと東一郎の頭を抱えこんだ。


「ちょ!ちょっと!何すんだよ!」

東一郎は慌てて小雪を押し返した。


「神崎さん。小雪さんと話をしましたよ」

水島瞬はすでに冷静になっており、普通の口調で話してきた。


「何が話しましたよ。だ!お前だってさっき焦ってたじゃねーか!」

「そりゃ焦りましたけど、気絶するほどではないです」

「う!!?」

東一郎はそう言われると何も言えずに口を閉ざした。


「てか、小雪ちゃん。あの時なんで姿を消したんだよ?」

東一郎は話題を早めに変えるべく、目の前にいる小雪に言った。


「え?あの時?ああ、雪の日のことね…」

そう言うと小雪は目線を落とした。


「まぁ、話せば長くなるんだけどね…」

「ああ、教えてほしい。あの日のこと…」

「うーん。一言で言うとジェラシイ?」

小雪はそう言ってふっとため息を付いた。


「は?」

「え、だから要するにジェラシー?」

小雪は東一郎の方を目を潤ませながら言った。


「あ、いや、言い方の問題じゃなくて、意味がわからない」

東一郎は小雪の言っている意味がわからずに言った。


小雪はふーっと深めのため息を付いた後、話をした。


「君はね。百数十年ぶりに会えた。運命の人だったんだよ。やっと会えた。そう思って嬉しくて…」

「数百年??」

「そう。私達はこの山と一緒に生を受け、この山と暮らす者。人は神様とか言うけど、別に私達はそんなつもりはないの…」

「いや…それを信じろって言われても…」

「あはは。君も頭が硬いなぁ。そもそも入れ替わってもう随分経つでしょ。時代も違ってる。それ以上に説得力のある状況はないでしょ」

小雪はそう言うと、東一郎の頭をツンと突いた。


「いや。だって小雪ちゃんが神様って…イメージとか…」

「だから、神様なんかじゃないって。寧ろ君たちの言うところの妖怪かもね。あはは」

小雪はそう言うとまた笑った。彼女が笑っているのを見ると確かに信じる気にもなる。


「なぁ、小雪ちゃん。君が神様だって言うのは、信じるよ。俺も半信半疑というか、夢見てただけじゃないかって思ってたけど、ここに来て君と会えて分かった。君は本物だ」

東一郎は真剣な表情で小雪に言った。


「うーん。好きだなぁ。ねぇ。しばらく一緒に暮らさない。これから50年くらい」

小雪は冗談なのか本気なのかよくわからない提案をした。


「いや。小雪ちゃん。お願いが有ってきたんだ。教えてほしいことがある。俺もコイツも!」

東一郎はそう言うと水島瞬の方を指さしていった。


「ふぅ…良し!会いに来てくれた事に免じて聞いてあげよう!」

小雪はそう言うとニッコリと笑った。

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