↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
史上最強の眠り姫  作者: 栗尾りお
第2章
PR
69/97

史上最強の眠り姫68

 日が差さない路地裏。独特の臭いがある湿っぽい空気。進んだからといって景色が変わるわけもない。長旅で疲れた体に心身共に追い討ちを喰らう。

 荒い自分の息づかいに混ざり、時折蹴飛ばした何かが反響する。

 最初は反響音に警戒し、足元を駆け抜ける小動物や壁に張り付く虫に注意しながら歩いていた。けど、もう気にしない。

 何度も出くわすうちに慣れたのはある。ただそれ以上に目の前の背中を追いかけるので精一杯だった。


 「もうっ!」


 開いてしまった距離を詰めるために小走りをする。前を早歩きで進むルクスにも私の息づかいや変化する足音は聞こえているはず。それなのに一度も振り返ることなく路地裏を進むルクスを恨めしく感じる。


 大きな荷物を背負っているせいで、狭い路地に入るたびに荷物が壁を擦る。それに気を取られていると今度はルクスとの距離が離れていく。焦って追いかけると再び荷物が壁を擦る。その繰り返しだった。


 「これ、いつ着くのかな?」


 苛立ちを少しでも和らげるためにサーラに声をかける。多分ルクスに聞くのがいいんだろうけど、今はこれ以上コイツで心を消耗したくなかった。


 「あともう少しで着くかと。あの、もしよろしければ少し荷物を持ちましょうか? せめてパンだけでも」


 「大丈夫。ありがとう。それよりサーラこそ前歩かなくて大丈夫? 私歩くの遅いしさ」


 「いいえ、大丈夫ですよ。私もこれ以上早く歩くのはキツいので」


 そう答えるサーラの声には元気があった。


 普段から鍛えているサーラなら、この程度の遠回り余裕なんだろう。それでも文句を言う事なくノロノロ歩く私の後ろを歩いてくれて。しかも気遣いまでしてくれるなんて。サーラが仲間で本当に良かった。それに比べてコイツは。


 「いいですよね。無駄口を叩いている余裕がある人は。メレアさんに見つかる前に着きたいので早く歩いてくれませんか?」


 ようやく振り返ったと思ったら、ため息混じりにそう言い放った。そして言いたいことを言って満足したのか、また前を向いて歩き始める。


 「……」


 メレアに見つかるのを恐れているみたいだけど、大胆に魔法を使って襲ってくるヤツに言われたくない。それに私はコイツよりも、ずっと長くメレアと過ごしてきた。ちょっとダル絡みされただけで、分かった気にならないでほしい。


 あー、ダメだ。城に着くまでくらいだったら我慢しようと思ったけど、いい加減、限界だ。相手にしたら負けなのは知っている。でも、負けてもいいからコイツを後悔させてやりたい。


 コイツは私を完全に格下だと思い込んでいる。今なら魔法を食らわすことが出来るかも。さあ、この1年で成長した私の力を今ここで――


 綺麗なまま部屋の隅に放置されていた教科書を何度も読み直し、発動できるようになった雷の魔法。ルクスが最初にサーラに向けて放った魔法と同じものだ。


 威力もスピードもコイツと比べたら圧倒的に弱いのは知っている。それでも自信に満ち溢れまくった背中になら当てられるはず。


 雷針(らいしん)


 心の中でそう唱え、魔法陣を展開した。


 放たれた青白い雷の針は真っ直ぐルクスの背中に向かって進む。


 ……ふっ、勝った。ギリギリで気付いてもこの路地の広さじゃ上手く避けられない。雷針で痺れたまま、なす術なくゴミ臭い地面にダイブ。少ししてからルクスは痺れた状態で私を見上げるんだろう。


 果たして今まで散々私に喧嘩を売ってきたルクス君はどんな顔で見上げてくれるのかな?


 悪い顔で理想の未来を楽しみに待つ私。雷針がルクスの背中に当たろうとした次の瞬間、私の未来は壊された。直撃する寸前で体を逸らし、雷針を人差し指と中指で挟んで止めた。その指は青白い雷で覆われている。


 え? 雷針を止めた? しかも、こっち見てなかったよね? コイツ、後ろに目があるの?


 「同じ属性の魔法を纏えば掴むことくらい造作もありません。この程度の魔法、目に頼らなくても止められますよ」


 困惑する私に説明しながら振り返るルクス。その目は淡い緑色に光っていた。


 「……目に頼ってんじゃん」


 『光の目』。ルクスの持つスキルで、空気中の魔力の流れを可視化出来るらしい。その流れから相手の行動を先読みするのがルクスの戦い方だ。

 忘れていたわけじゃない。むしろ覚えていたから後ろ向いている時に打ったのに。


 雷針を片手で握り潰したルクスは、纏った雷を消してから、ゆっくりこちらへと近づいてくる。

 怒っている様子はない。目の前にいるのはいつも通りのルクスだ。それでも、いや逆に『いつも通り』すぎるルクスに恐怖を覚え、自然と後退りしてしまう。


 「あなたに不意を突かれて重傷を負うのは経験済みです。あなた達が追放されてからの時間、私はさらに強くなりました。あなたも不意を突く以外の戦い方も身につけてはいかぐふぇっ!」


 突如ルクスの顔が歪み、目の前に緑色の光の残像が出来た。その直後に左から聞こえてきた轟音と立ち込める埃で、私はルクスが吹き飛んだことを理解した。


 受け身も取れず、無様に壁にへばりつくルクス。そこには、みんなから支持され日々黄色い声を浴びる人気者の姿はなかった。


 「……へ、へー……壁にヒビ入ってるじゃん」


 「……あの、ネムさん。今これが足元に」


 目の前の光景にまともな感想が出なくなっている私に、サーラは遠慮気味に後ろから声をかける。振り返るとサーラの手には握り拳より一回り大きいボールがあった。


 「えっと……それ、どうしたの?」


 「分からないです。足元に転がってきて。それにこの文なんですけど」


 「……ん? 『入れ替わって対応を ナリ』。何これ?」


 くるくるとボールを回し、書かれた文章が見えるようにサーラは見せる。そこに書かれていた訳の分からない文章。ますます謎は増えるばかりだ。


 「多分ですけど、これが顔に当たったからルクスさんは吹き飛ばされたのでは?」


 「え、本当⁈ ざまぁ見ろじゃん! その『ナリ』って言う人どこにいるのかな? お礼言いたんだけど!」


 「第1部隊の副隊長ですよ。ほら、先程のフォーチュンフィッシュの上で仁王立ちしていた」


 「あー、あのオレンジ髪の女の人か」


 正直コイツに痛い目に合わせられなかったところだったから丁度良かった。ルクスの整った顔が歪んでいく、あの光景。これを脳内で再生できるうちは、どんな困難も乗り越えられそうだ。


 「水を差すようで申し訳ないのですが、色々変じゃありませんか? もっと警戒した方がいいかと」


 「変って?」


 「まずこのボールです。私見ていましたがボールが現れる瞬間だけ見えなかったのです。歪んだ顔で飛ばされる姿しか私の目には見えませんでした。これほど分かりやすい色なのに」


 「速すぎて見えなかったとか?」


 「ここは路地裏ですよ。真横からそんな速度でぶつけることなんて不可能なのでは?」


 「それは……魔法だよ。豪速球で投げたボールを転移魔法とかで当てたんだよ」


 「ルクスさんの目光ってましたよね」


 「……けどさ、ルクスがやられたって事実は変わらないでしょ? ルクスが壁に叩きつけられた。それだけで私は……あれ?」


 「いなくなってるんです」


 さっきまで壁にへばりついていた場所。振り返ってもそこに誰もいなかった。人だけじゃない。叩きつけられた時に出来たはずのヒビも綺麗に無くなっている。


 「いつから?」


 「ネムさんがボールの文字を読んでいる時はあったのですが」


 何かの魔法陣が使われたなら、その光で気付くはず。

 じゃあルクスが飛ばされたのも、ボールが出てきたのも全部魔法じゃないってこと? 魔法じゃない得体の知れない何か


 その考えに至った途端、今いる路地裏が急に不気味に思えてきた。


 「……私たち、今寝てるなんてことないよね?」


 「ビンタしましょうか?」


 「いや、いい! 大丈夫!……それより移動しよう? さっきの角まで戻ったら大きい道出れるでしょ?」


 「そ、そうですね! その方が安全かと」


 進路をくるりと変え、来た道を進む。


 長旅にルクスに遠回り。私を疲れさせる要因はたくさんあった。それなのに今は疲れを感じない。感じている余裕がないんだ。


 早く明るい場所へ。ただ、それだけだった。


 初めは普通に歩いていたのが早歩きになり、気付けば駆け足になっていた。


 転がるゴミを蹴飛ばし、荷物を壁に擦り付けながら前を進む。


 「ネムさん、あと少しです!」


 全力疾走しつつ振り返って伝えてくれるサーラ。


 やった! あと少しだ!


 少しずつ明るくなっていく路地裏の道に希望を感じる。


 あと少し、もう少し


 怯える自分に何度も言い聞かせるうちに、私たちは薄暗い裏路地から抜け出した。


 乾いた空気、優しい日の光、街行く人々。その全てが優しく体の力を吸い取っていく。


 「はぁはぁはぁ……ここまで来れば」


 落ち着いて息を整えながら何気なく振り返る。

 

 「?」


 鼻が触れてしまいそうになるほど近い場所にある金属の壁。後ろはただの路地裏のはず。さっき私たちが走り抜けた場所に壁などあるはずがない。

 酸素の足りない頭で上を見上げる。


 すると、巨漢と目があった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。