史上最強の眠り姫67
「メレアは元気ですか?」
その質問に顔を強ばらせるルクスの表情が私たちに最悪の場合を連想させた。
私はルクスに見えないように睡眠魔法を発動し、サーラは背負っていた棺を開いた。流れるように棺の中に倒れ込むとサーラは蓋を閉じ、それを剣のように構えた。
以前使っていたカバンが壊れてしまい、たくさんの案の中から採用されたサーラの新武器。正面と側面に合計3つの持ち手が付けられており、鈍器としても盾もしても使える。
突然の行動に理解できなかったのか、ルクスの目が光るのが遅れる。
その隙を見逃さなかったサーラがすかさず距離を詰め、棺を叩き込む。
しかし、寸前のところで魔法陣で防がれてしまった。
「さすが第3部隊の隊長ですね。不意をついたつもりだったのですが」
「何の真似ですか? 私には対立する理由がありません」
「私たちの仲間を殺しておいて、よくそんなことが言えますね!」
魔法陣で防がれているのを知りながらサーラはさらに力を込める。防いだはずの魔法陣が時間と共にヒビが入り始めた。
「凄い力ですね。ですが話が見えません。仲間とは誰のことですか?」
「メレアさんのことです! 元特殊部隊副隊長のメレアさんです! 知らないとは言わせませんよ!」
「……あの人、元気ですよ」
「嘘をつかないでください!」
「本当です。というか大声で連呼しないでください。彼女が来てしまいます」
さっきまで偉そうにしていたルクスが分かりやすく動揺している。そのせいか魔法陣にヒビが入る速度が上がってきた気がする。
「くっ!」
これ以上耐えるのは無理だと判断したのか、割れる寸前の魔法陣で器用に攻撃を受け流した。そして、すぐにサーラから距離を取った。
攻撃を受け流す技術やサーラから距離取る判断は見事だった。さすがは第3部隊の隊長だ。
でも、どこか落ち着きがない。サーラとの戦いの最中なのに何故かキョロキョロ辺りを確認している。気のせいか顔色も悪くなってきたようにも見える。
『サーラ、サーラ!』
慌ててテレパシーの魔法陣を発動し、サーラに呼びかける。
『どうかしましたか?』
『あいつの反応変じゃない? もしかしたらメレア生きてるんじゃ……』
『そう思わせるための演技かもしれません。真実が分からない以上、警戒を緩めるのは得策ではないかと』
『でも、あいつって嘘つくの苦手じゃない? 常に本音で話してるって言うか。嘘つける人だったら、こんなに私に喧嘩売らないでしょ』
『……確かにそうかも知れませんね』
どうしよう。この場になっても私は心のどこかでメレアが無事だと信じたがっている。その根拠が私の大っ嫌いな男の言葉だったとしても。
きっと私の考えは正常じゃない。その正常じゃない考えに耳を貸したサーラも心のどこかでメレアの無事を信じたかってるんだろう。
「……メレアさんに来て欲しくない理由は何ですか? この場で私たちを制圧するのが聖騎士団としての最優先事項では?」
ルクスを見つめたまま構えを解かないサーラ。しかし、構えているだけで力はあまり入っていないように感じた。
ルクスもそれを感じとったのか、手をだらりと下ろした。
「彼女が聖騎士団に戻ってきたのは10日前。私は彼女の見張り役を任されました。この10日間の彼女の働きは普通の団員の倍以上。それどころか隊長クラスに任される任務ですら簡単にこなしてしまう程でした」
昔話を語るかのように落ち着いて話を始める。遠くを見つめる視線、澱みのない口調、呼吸から表情まで。そのどれも嘘をついているようには感じられなかった。
「それの何がいけないのですか? 戦力が増えるのは聖騎士団にとって都合がいいのでは?」
「有能過ぎるのですよ。復帰3日目くらいからレベルが合わないと私の任務に着いてくるようになり、目立ちたいのか私が標的を見つけた瞬間消し去ってしまう始末。別の任務を頼んでもすぐ終わらせ私の元へ現れる。逃げても逃げても気付けば隣にいるし、いないと思えば私の部屋にいることもありましたし……監視する役目のはずがいつの間にか監視されていて。今日だってやっとの思いで逃げてきたのに」
話すにつれて顔が青ざめていくルクス。いつも淡々としているルクスが早口でこんなに喋る姿は初めて見る。
そういえば、メレアはルクスの前では少し猫をかぶっていたような……でも、ここまで積極的になるなんて知らなかった。
まあ、メレアのことだから面白半分でやってるってのもあり得るけど。
実際私も昔やられた。あの時は『ホラー小説を読んでやってみたくなった!』とか訳わかんない理由だった気がする。
『どこに行ってもいる』というのは単純だけど怖いものだ。こればかりはルクスに同情する。
『サーラ、やっぱりコイツ嘘ついてないよ。私も経験あるから分かる』
『……そうですね。私も不思議と納得してしまいました』
構えを解いた棺を地面に置く。そしてルクスに深々と頭を下げた。
「疑ってしまい申し訳ございません。少し気を張り詰めすぎていたようです。しかし、今のやり取りでルクス隊長は私たちの味方であると分かりました。数々の無礼をお許しください」
洗練された仕草にルクスは嫌味一つすら言うことはできない。しばらく彼女に見惚れた後、慌てて目を逸らした。
「別に気にしないでください。あなた方が心身共に疲労困憊であることを考慮出来ていなかった私にも非があります。それより今は準備に移ってください。フォーチュンフィッシュの即売会が終わり次第第3部隊は遠征に参りますので」
指で頬を掻きながら少し早口で話す。私には絶対しない気遣いにムカつきつつ胸を撫で下ろす。
安心しつつも、どこかがっかりした私は起床魔法を展開した。




