幽言部屋 その13
『どうだ?』
「あっちは問題なし。ただ、隣の住人が暴れたから排除」
『隣…逆か。霊障?』
「そう」
『今夜中に再発の可能性』
「ある」
『……了也抜きで対処は?』
「怪我人は出る」
『優子ちゃんは希望さんと一緒だよな』
「ああ」
『ん…頼めるか? こっちが終わったらすぐ替わる』
「……わかった」
『すまない』
「ん。ただ、理由」
『社長が気にかけてる。能力者の情報はできるだけ欲しい。もちろん寝覚めをよくするためってのも』
「わかった」
『すまない。それと、あんまり実力は出しすぎるなよ』
「必要だった」
『……そうか』
「タカトに言われて、様子見に。仕事で近くにいたから」
戻ってきた了也さん。ここに来たその理由を聞いたなら、そんな答えが返ってきた。
「タカトって、貴仁さんのことですか?」
「タカトは事後処理。だから代わりに」
来利ちゃんの質問に、了也さんは頷き補足。
「そーいえば、今日と明日は忙しいって言ってましたもんねー」
「あ、貴仁さんっていうのは、御堂さんがお店に来たときの店員、有川貴仁さんです。覚えてないかも知れませんけど」
「え、あー、はいはいはい、あの背の高い人!」
来利ちゃんを覚えていたし、有川さんを覚えていても、特に不思議というわけでもない。それとも二人ともを覚えてるのは、やっぱり妙と思うべきかな。
「でも事後処理ってことは、お仕事大体片付いたんでしょか?」
「予定より大分早く」
「あー…あの、訊いて良いのか解らないですけど、どんな案件だったんですか?」
恐る恐るという様子で、御堂さんが横から訊ねる。
「チンピラの捕縛です。詳しくは新聞を」
さらりと言う了也さん。息を呑む御堂さん。
チンピラと言ってはいるけど、新聞沙汰なら一人や二人じゃないのかな。
「で、手伝う。次は?」
「あやや! 助かります……。それで、えぇと……」
「あー、晩ごはん買いにいこうってとこでした! アタシと御堂さんで行くんですけど、了也さんも来てくれます? 護衛役で」
来利ちゃんの言葉を受けて、了也さんはこちらを見る。わたしが微笑み頷くと、すぐに来利ちゃんに向き直る。
「いやいやいや、さっきの今だし、りょ…飯田さんには、月乃木さんの護衛をしてもらった方が……っていうか、皆で行かない?」
やっぱりそれはそうなるよねぇ。
そう思ったら、了也さんから提案が。
「何か起きるかも。二人で残ります」
残るのが、了也さんなら話が早そう。
「あやあや、そですね、いつもの時間までまだちょっとあるけど、誰か残ってないと」
「んー……そーだね! じゃ、御堂さん、行きましょー」
そそくさと出る来利ちゃん。慌てて後追う御堂さん。
さてそれで。
「えと……」
「さっきタカトに電話して、男が暴れたことを話したら手伝えって。タダでいいって」
「あやあや、本当に有り難うございます」
本当に、手伝ってもらっていいものなのかと、こちらが質問する前に、答えてくれる了也さん。更にお金の話まで、さらりと説明してくれる。
それに加えて。
「俺は出てれば良い?」
「あや、ええっと、はい。そのどうして……」
「さっきの子が一人にしようとしてたし、紬さんもそのつもりだった」
そんなことまで、こちらが言わずに察してくれる。
「すみません、少しの間お願いします。あそれと――」
ちょっと言葉を区切ってみたけど、了也さんのその顔には、疑問の色は見てとれない。わたしの次に言うことも、しっかり察しているのかも。でもそれと、記憶力は別のよう。
「さっきの子、は、富良永来利ちゃんです」
「そういえば、富良永さんは、月乃木さんとは付き合い長いの?」
無機質かつ整然と並ぶ団地に挟まれた中、そんな場所には不似合いな、本土なら日本橋にでも並んでいそうな街灯が、しかしまだ灯らない道を歩きながら、司は世間話のつもりで切り出した。
「高校でだから、1年ちょっとくらいですねー」
「え、意外。すごく仲良さそうだから」
「運命の出会いに、時間は関係ないんです」
芝居がかった仕草で天を見上げ語る来利。
慣れているとは言え、治安が良いとは言えない道。そこを美少女と言って差し支えない来利を連れて歩いている。そんな状況に、多少の緊張を感じていた司だが、そんな来利の冗談めかしたように様子に、少し気を弛める。
しかし気を良くして話に乗ってみれば、
「運命の出会いかぁ。馴れ初めはどんな感じだったの?」
「え、フツーにヒミツですけど」
と、素っ気なく距離を取られる。
かと思えば、
「そーいえば、御堂さんはこっちに友だちっているんですか?」
と、距離を詰めるような質問をされるのだから、司は来利との距離を計りかねていた。
「あー、そうだね、バイト先に前いた人とは、たまに会ったりするかな。他にはいないかも。そもそもバイト先くらいしか人に会う機会ないしね」
「ふーん」
誰そ彼時の言葉の通り、来利の横顔は、隣を歩く司にも暗さでよく見えない。
だが、問われて答えたにもかかわらず、抑揚の薄いその返事に、訝しがる気配を感じ、司は戸惑った。
「あれ、えーと、何か変なこと言った?」
「んー、なんかコミュ力高そうだから意外だなーって」
「いやいやいや、そんなことないよ、人見知り…って程じゃないけど、それこそ富良永さんの方がコミュ力あるよ」
褒めるには素っ気ない声音に、思わず取り繕うような言葉を選ぶ司だが、その後の来利の言葉に、思考の歯車が噛み合った。
「そーですか? 紬にはぐいぐい来てた感じだけど」
成程、この少女は親友を案じ、自分を警戒して探ろうとしているのか。灯らぬ街灯の下でも感じられる、来利の瞳の鋭さに、司はそう理解した。
「あー……その、霊能力者って初めて見たもんで……。ちょっと興奮してたかも」
だから、素直な言葉を選び、その瞳にこたえた。
司にとって、高校生の少女でありながら、霊能力者であり探偵である紬は、まるでフィクションのような、まさにこの特区を象徴するような人物。それに浮かれていたのは事実だろう。
ただ、加えて、近寄り難さはなく、人当たりが良く話しやすい人柄だということもあるのだが、紬への接近を警戒する来利に、それを言うのは躊躇われた。
「へー、意外。御堂さん、オカオタっぽいから、霊能力者とかあったことあるかと思ってた」
「いやいやいや、そんなオカルトオタクなんて言えるほどじゃないよ、全然大した知識ないし! それに、本土じゃ本物の霊能力者なんてほとんどいないと思うし」
実のところ、自称霊能力者には何人か会ったこともあり、中にはそれを生業としているものもいたが、司にはいずれも本物とは思えなかった。
その経験からつい口をついた言葉だが、つまりは自称霊能力者には偽物が多いと言っているようなもの。それをこの少女がどう捉えるか。
「あー、そっかー、そーゆ―感じですか。んー、でもそれって、紬はホンモノだって思ってるってことですよね」
「うんうんうん! いや色々見せてもらったしっていうか、やっぱりこっちはあっちとは違って、本当にそう言う事があるんだって思ったしね!」
正直に言えば、紬が霊能力者であると、司は完全に信じたわけではない。だが、一昨日の夜のことは嘘とは思えず、そんなことが起きうるこの島であれば、本物の霊能力者がいてもおかしくはない。
しかしだからこそ疑問が浮かぶ。
何故この島だけ特別なのだろうか。
また投稿ミスってた…




